「全然見かけない」 東京のライドシェアが“タクシーの2倍”運行してるのは本当か? 国交省と現場の温度差歴然、解禁2か月で考える

解禁もうすぐ2か月

タクシー(画像:写真AC)

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 一般ドライバーが自家用車で客を有料で運ぶ「日本版ライドシェア」が解禁され、4月8日に東京でサービスが始まってから、もうすぐ2か月がたつ。ライドシェアに乗客が奪われ、タクシードライバーの営業収入が減少することが懸念されていたが、実際の現場はどうなっているのだろうか。

 国土交通省は5月10日、ライドシェアについて、5月5日までの東京都や神奈川県など5地域の状況を発表した。それによると、運行回数は1万2628回となり、通常のタクシーと同等以上の頻度で稼働しているという。東京23区などでは、1時間あたりの運行回数が一般タクシーの

「2倍」

に達した。斉藤鉄夫国土交通大臣は同日の記者会見で、タクシー不足の解消に

「一定の効果が発揮されつつある」

との見方を示したが、果たして本当にタクシー不足解消に役立っているのだろうか。現役のタクシードライバーでもある筆者(二階堂運人、物流ライター)が回答する。

見かけないライドシェア車両

タクシー(画像:写真AC)

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 ライドシェアに参入したタクシー会社は解禁前に比べて大幅に増えたものの、そのなかには

「現状、想像以上に需要が少ない」

と先行きを不安視する声もある。現場でも、今回の国土交通省の発表に首をかしげる声が上がっている。筆者自身、解禁後、ライドシェア車両を見かけたのは1台だけである。それもタクシー不足が懸念される東京都心ではなく、千葉県との県境に位置し、タクシー不足ともいい切れない

「江戸川区」

でだ。他のドライバーにも聞いてみたが、

「ライドシェア? あまり影響ないよ。影響ないというより、そんな車すら見たことがないね」

との声が。また、営業時間内だけでなく、プライベートな時間でも一度も見たことがないというドライバーが多かった。ちなみに、配車アプリで配車された乗客に直接尋ねてみたところ、

「試しにライドシェアに乗ろうと思っていますが、なかなかマッチングしないんですよ」

とのことだった。利用者は使いたくても使えない現状があるのだ。タクシーの2倍稼働しているはずなのに、なぜマッチングが難しいのだろうか。

 配車アプリのシェアナンバーワンである「GO」のウェブサイトによると、配車時にライドシェア車両を指定することはできないという(ライドシェア車両を希望しない場合はタクシーのみを指定できる)。ようは、ライドシェアに意図的に乗りたくても乗れないのだ。GOだけでなく、他の配車アプリもタクシー配車を“優先”している印象を受ける。

 当然といえば当然だが、日本版ライドシェアはタクシー不足を補うためのものであり、諸外国で展開されているライドシェアとはまったく異なる。タクシー事業者の管理下で運営され、タクシー業界の枠組みのなかで展開されているからだ。

政府の不可解な決定

タクシー(画像:写真AC)

タクシー(画像:写真AC)

 ライドシェア解禁が議論される以前から、日本交通は「GOクルー」というアプリ専用のアルバイトタクシーサービスを提供している。車両はタクシー会社の車両を使用している。同社はライドシェアドライバーにも車両を貸し出しており、給与体系はライドシェアドライバーと同等だ。

 なぜ政府はタクシードライバーのアルバイト利用を促進することなく、ライドシェアを解禁したのか不思議でならない。政府はタクシー会社にライドシェアドライバーの雇用に協力するよう求めている。ただ、表面上は政府に協力し、ライドシェアドライバーを募集しているが、裏では出庫時間をずらし、

「ライドシェアが営業している時間帯にあえてタクシーをぶつける」

タクシー会社もあると聞く。

 はっきりいって、タクシー業界はライドシェアドライバーの活躍を望んでいない。ライドシェアを国策として受け入れているが、ライドシェアドライバーに時給を払い、彼らがマナーを守っておとなしくしてくれることを願っているに違いない。

 ライドシェア車両の運行回数がタクシーの2倍であっても、乗客を乗せているとは限らない。つまり、

「運行回数 = 営業回数」

ではないため、発表されているライドシェアの運行回数と、現場で感じる台数には乖離(かいり)がある可能性があるのだ。

求められる実態調査

タクシー(画像:写真AC)

タクシー(画像:写真AC)

 繰り返すが、ライドシェアは東京都内でタクシーの2倍運行しているといわれている。現役タクシードライバーである筆者や現場の実感としては、そうは思えない。

 乗る人を幸せにするといわれる日本交通の「ピンク行灯タクシー」は都内を7台しか走っていないが、ライドシェア車両は

「その次にレアな乗り物」

だと、多くの現場関係者は冗談交じりに考えている。

 これから梅雨と猛暑がやってくる。タクシー利用者が増えるこの時期に、ライドシェアサービスが彼らの需要に応えられるかどうかが注目される。筆者もライドシェアドライバーやその利用者に会ってインタビューするのが待ち遠しい。もしかしたら、化けの皮が剥がれるかもしれない。

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