「迷わずに着けるのか」 北陸新幹線・敦賀駅“乗り換え不便”で感じる精神的ストレスの数々! しかし、メリットもきちんとありました

延伸が生んだ分断

北陸新幹線(画像:写真AC)

北陸新幹線(画像:写真AC)

 2024年3月16日、北陸新幹線が金沢駅から敦賀駅まで延伸された。これにより、これまで関西から金沢までは乗り換えなしで行けていたが、敦賀駅で在来線から新幹線に乗り換えなければならなくなった。

 このことはインターネット上でも話題になり、歴史的に交流の深かった金沢と関西との交流が分断されるのではないかという懸念が示されている。

 乗り換えによって「いろんな電車に乗れて楽しい」と考えているのは、筆者(島崎敢、心理学者)のような一部のマニアだけである。一般利用者にとって、乗り換えは面倒なものだ。

 そこで今回は、乗り換えにともなって私たちはどのようなストレスを感じているのか、また、地域社会にとって乗り換えはどのような意味を持つのかを考えてみたい。

公共交通利用者の心理的負荷

敦賀駅(画像:写真AC)

敦賀駅(画像:写真AC)

 多くの人にとって、乗り換えは避けたいものである。乗り換えのたびに、電車の発車時刻を気にしなければならないし、大きい荷物があれば、網棚への上げ下げも面倒だ。

 乗り換え時間が短ければ早歩きで移動しなければならず、肉体的にも疲れを感じるだろう。さらに、電車の遅延が発生した場合、乗り継ぎに間に合わないことへの不安も高まる。小さい子どもを連れての乗り換えともなればなおさら大変だろう。

 また、自由席利用者や通勤・通学時の乗り換えでは、座席を確保できるかどうかの不安もある。座っている人は立っている人よりも後から降りるので、混雑していれば次の電車では座れない可能性が高い。

 また、立っている人は次の電車で座れるかもしれないが、ふたを開けてみなければわからない不確実性がある。自分の行動が次の移動の快適性に大きな影響を与えてしまう上に、不確実で競争性が認知される状況は、多くの人にとってストレスである。

 さらに、初めて訪れる駅での乗り換えでは、駅構内の道順や所要時間がわからないので不安がつきまとう。

「迷わずに目的のホームへたどり着けるのか」
「乗り換え時間内に次の電車に乗れるのか」
「トイレに寄ったりビールを買ったりできるのか」

などを考えると不安になる。旅慣れていない人や公共交通機関をあまり利用しない人であればこの影響はさらに大きいだろう。

全国展開する「乗り換え削減」の動き

敦賀駅(画像:写真AC)

敦賀駅(画像:写真AC)

 鉄道会社にとっては、乗り換えが少なくなることはメリットばかりではない。

 1本の列車が長い距離を走るほど、ダイヤを組むのが難しくなるし、遅延の影響は広範囲に及んでしまう。しかし、鉄道各社はそれ以上に、乗客が感じる乗り換えのストレスを理解し、それを軽減しようと努力しているようだ。

 かつて東京の西側を走る電車のなかで、東京東側の都心部に直接乗り入れている路線はJR中央線だけだった。しかし、池袋、新宿、渋谷などをターミナルとする私鉄各社は、地下鉄各社と手を組んで相互乗り入れを実現することで、東京東側の都心部まで乗り換えなしで行けるように線路を整備し、路線の価値を高めてきた歴史がある。

 このような

「乗り換えを少なくする取り組み」

は東京に限らず全国のいたるところで行われている。今回の関西と金沢の乗り換え問題も、東京の側から見れば関東から敦賀まで乗り換えなして行けるようになったことの“裏返し”でもある。

商業発展と歴史的結節点

秋津駅の駅前の街並み(画像:写真AC)

秋津駅の駅前の街並み(画像:写真AC)

 このように利用者から面倒だと敬遠される乗り換えだが、地域社会から見ると、乗り換えの発生はメリットになる場合もある。

 例えば、東京の西武池袋線と武蔵野線の乗換駅である秋津駅と新秋津駅の間は、駅からいったん出て10分近く歩かねばならない「不便な乗り換え場所」である。しかし、ふたつの駅の間には乗り換え客を狙った飲食店街が形成されていて、時間帯によっては、都会の繁華街と比べても遜色ないほどのにぎわいを見せる。

 この通りから少し離れれば、農地や森林が点在する典型的な郊外の景色が広がっている場所なのだが、ここだけは、夕方には多くの通勤客が乗り換えついでに焼き鳥を片手に仕事帰りの一杯を楽しむ魅力的なエリアとなっている(あくまでも酒飲み目線での魅力だが)。

 考えてみれば、こういう例はそこら中にある。空港や港といった乗り換えポイントは、古くから多くの客がそこに一定時間滞在するおかげで商業施設が発展し、にぎわってきた。水運が東京の輸送の中心だった時代には、水路と陸路の結節点を中心に街が発展してきた歴史もある。

敦賀は地域活性化のチャンス

北陸新幹線(画像:写真AC)

北陸新幹線(画像:写真AC)

 北陸新幹線は将来的に関西まで延伸する計画があるため、敦賀駅の乗り換えは、比較的長いとはいえ

「期間限定」

である。しかしこれは、地元にとってチャンスなのかもしれない。電車を何本かずらすだけでできる、乗り換えついでの魅力的な体験を提案できれば、地域活性化を狙える可能性がある。

 北陸新幹線がもっと先まで延伸したときに、横川の峠の釜飯のように、全国の人々が便利になったことを残念がるような知名度の高い名物が敦賀に生まれていれば、乗り換えの不便さも無駄ではなかったと思ってもらえるのではないだろうか。

 利用者の側も乗り換えの不便さを嘆くだけでなく、少し寄り道をして、おいしい食事を楽しんだり、そこでしか買えないものを買ったり、温泉に立ち寄ったりして、

「乗り換えを楽しむ視点」

を持つことも大切だ。せっかく乗り換えるのだから、敦賀のことを少し調べてみるとよい。つい寄り道したくなるような魅力的情報が次々と出てくる。

 乗り換えを楽しもうという視点を持てれば、乗り換えなしで通り過ぎていたら出会えなかったような新たな発見や体験につながるかもしれないし、出会えなかった人とのすてきな出会いが待っているかもしれないのだ。

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