物流危機の本質! トラックドライバー自体は増えているのに、人手不足がさらに“深刻化”するワケ なぜ相反するのか?

減っていないトラックドライバー数

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

 物流の2024年問題(以下、2024年問題)を皮切りに、世間の関心は運送に集まっている。トラックドライバー不足は、テレビ、新聞、一般誌などで大きく取り上げられ、多くの人にとって身近な社会問題である。

 しかし実際には、ドライバーの数自体は減っていない。コロナ禍のあった2021年には84万人に減少したものの、2022年には86万人、2023年には88万人に増加している。

 厳密にいえば、この「84万人」という数字は「輸送・機械運転従事者」の総数であり、政府統計では、

「機関車・電車・自動車・船舶・航空機などの運転・操縦の仕事、及びその他の関連する仕事、並びに定置機関・機械及び建設機械を操作する仕事に従事するものをいう」

と定義されている。ただし、政府や全日本トラック協会も「輸送・機械運転従事者」の値をトラックドライバー数として公表している。従って、本稿これに倣った。

上昇する有効求人倍率

「輸送・機械運転従事者」の数は、ここ10年微増傾向にあるが、求人倍率は明らかに上昇している。輸送・機械運転従事者には、飛行機、鉄道、あるいは旅客運送(バスやタクシー)も含まれる。また2023年と2024年の求人倍率は、それぞれ1月のもの(画像:坂田良平)

「輸送・機械運転従事者」の数は、ここ10年微増傾向にあるが、求人倍率は明らかに上昇している。輸送・機械運転従事者には、飛行機、鉄道、あるいは旅客運送(バスやタクシー)も含まれる。また2023年と2024年の求人倍率は、それぞれ1月のもの(画像:坂田良平)

 一方、有効求人倍率は上昇している。

 結局、コロナ禍のあった2020年、2021年は低下したが、2024年1月には

「2.83倍」

まで上昇している。全職種の有効求人倍率が1.27倍なので、いかにドライバー不足が深刻化しているかがわかるだろう。

EC増加でドライバー不足深刻化

トラックによる国内貨物輸送量の推移。自家用トラックと営業用トラックの国内貨物輸送量の推移をまとめた。2020年度、2021年度の落ち込みは、新型コロナウイルスによるものと推測される(画像:坂田良平)

トラックによる国内貨物輸送量の推移。自家用トラックと営業用トラックの国内貨物輸送量の推移をまとめた。2020年度、2021年度の落ち込みは、新型コロナウイルスによるものと推測される(画像:坂田良平)

 ドライバー採用の有効求人倍率の上昇は、多くの運送会社が

「ドライバーが足りない」

と考えているということだ。ドライバー数は微増ながら増え続けているが、ドライバーが足りない――。その原因を探ってみよう。

 自家用・営業用トラックによる国内貨物輸送量は、過去11年間減少し続けている。つまり、貨物の総量は増えていないのだ。

 そこで考えられるのは、EC(電子商取引)の増加である。実際、2023年度の宅配便取り扱い個数は50億個の大台を超え、2018年度の46億700万個から50億600万個に達し、5年間で9%弱の増加となっている。

 しかも、この取り扱い個数にはアマゾンなど一部ECプラットフォーマーの自前物流の取り扱い個数は含まれていないため、実際のEC物流の総取り扱い個数はもっと多いと思われる(アマゾンは自前物流の取り扱い個数を公表していない)。

 しかし、EC物流が閉じたビジネスである理由はふたつあり、物流業界全体への影響は限定的である。

 まず、宅配便はヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社で全体の

「95%」

を占めている。一方、日本の運送会社の数は6万3000社強である。では、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便以外の運送会社は何を運んでいるのか――という話だ。

 また、近年、EC事業者による個人宅への配送は、軽バンを駆る個人事業主の軽貨物自動車運送事業者(以下、軽バン配達員)に大きく依存していることにも注目したい。実際、軽バン配達員の数も大幅に増加している。

宅配便増加、一部運送会社の負担

配達中の白い軽バンイメージ(画像:写真AC)

配達中の白い軽バンイメージ(画像:写真AC)

 軽バン配達員の実数について信頼できる統計は存在しないが、軽バン配達員の相棒である営業用軽バンの登録台数は、2016年から2021年までの5年間でなんと

「31.4%増」

の21万9400台まで増えている。軽バン配達員のうち、配達専業者は64%にすぎないため、22万台弱の軽バンが常時稼働しているわけではない。しかし、ECの宅配を担う軽バン配達員が増えていることは確かだ。

 ECの増加が“一部”の運送会社の負担になっていることは間違いない。先の3社の下請けとして働く運送会社もあり、独立系の軽バン配達員が増えたとしても、ECの輸送を担う運送会社の負担は増えているだろう。

 しかし、そもそも国内トラック輸送に占める宅配便のシェアは重量ベースで数%に過ぎず、これに一部のECプラットフォーマーが行う自前物流を加えたところで、たかが知れている。これについては、拙稿「個人が宅配を始めても『ドライバー不足』は全然解消しない! そもそも『運送 = 宅配』は完全な間違いだった」(2022年10月16日配信)で詳しく解説した。

 繰り返しになるが、ECの拡大で負担を強いられているのは限られた運送会社であり、運送業界全体のトラックドライバー不足に与える影響は限定的なのだ。

輸送トンキロ13%アップで生産性向上

貨物自動車の積載率の推移(画像:経済産業省)

貨物自動車の積載率の推移(画像:経済産業省)

 積載効率の低下も、トラックドライバー不足の原因としてよく指摘される。

 確かに、積載効率が60%近くあった時期もあった。だがそれは1990年代後半の話であって、ここ10年ほどの積載効率は35~38%の間で横ばいである。さらにいえば、トラック1台あたりの輸送トンキロは、2013年には625.1だったが、2021年には705.07まで増加した。

「約13%」

のアップである。輸送トンキロとは、輸送貨物の重量(トン)に輸送距離(キロ)を乗じた値である。貨物輸送の実態を把握するための指標として用いられる。トラック1台あたりの輸送トンキロが増えているということは、

「より遠くまで、より重たい荷物を運べている」

ということであり、トラック輸送の生産性が向上していることを示す。

 労働時間についても取り上げよう。ここ5年でいえば、年間労働時間の平均は、

・大型ドライバー:2500時間強
・中小型ドライバー:2500時間前後

と横ばいである。「積載効率が変わらず」「輸送トンキロが伸びている」しかも「労働時間の長時間化をともなっていない」ということは、少なくとも、トラック輸送の生産性は向上している。

 こうなってくると、ますますトラックドライバー不足の原因がわからない。

ドライバー不足原因「高齢化」「2024年問題」

ドライバーの高齢化は年々進行しており、今や半数が50代以上になってしまった。『日本のトラック輸送産業-現状と課題-2023』(画像:全日本トラック協会)

ドライバーの高齢化は年々進行しており、今や半数が50代以上になってしまった。『日本のトラック輸送産業-現状と課題-2023』(画像:全日本トラック協会)

 もちろん、業績好調で「ドライバーを増やさないと仕事が回らない」という運送会社もあるだろう。一方で、運送業界全体で課題となっているドライバー不足の原因もある。高齢化と2024年問題である。

 ドライバーの高齢化は年々進行している。今や、半数が50代以上で、20代は9%(2022年実績)しかいない。厄介なのは、20代、30代、40代が年々減少していることだ。

 現状、ドライバーの数は増えているといっても、この年齢構成を見ると、5年後、10年後に深刻なドライバー不足に陥るのは目に見えている。現在、ドライバー採用を行っている企業の多くは、ドライバーの若返りを狙っているのだ。

 もうひとつ、厄介なのは2024年問題である。残業時間に上限が課されたことによって、今まで同様の仕事量がこなせなくなった運送会社が、ドライバーを増やすことで仕事量をキープし、売り上げと顧客(荷主)の要望を満たすために、ドライバー採用を行っている。だがしかし、ここに来てドライバーを採用できる運送会社とできない運送会社に、大きな差が生じている。

 後編では、採用情報サイト担当者や現場の声も交えながら、人材確保の二極化が進む現状をリポートする。

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