介護送迎中の「事故発生率」はなんと約4割! なぜこんなに多いのか

慢性的な人手不足と交通事情

介護送迎のイメージ(画像:写真AC)

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 ダイハツ工業(大阪府池田市)は2019年、香川県西部に位置する三豊市と「介護送迎共同サービス“ゴイッショ”」の実証実験を開始した。現在は実験をすでに終え、本格稼働している。旅客運送業との共存などさまざまな課題を克服し、共同送迎を実現している。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2018年調査データによると、介護業界における送迎中の事故発生率は36.6%だ。

 東京都市町村民交通災害共済が算出した50年間に事故を起こす確率は約17%。倍近い事故率は、介護業界における送迎が極めて問題であることを示している。

 背景には慢性的な人手不足に加え、

「介護業界特有の交通事情」

もある。

合意形成支援が開く未来

介護送迎のイメージ(画像:写真AC)

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「介護送迎共同サービス“ゴイッショ”」の概要は次のとおり。

・送迎需要の調査と検討
・共同送迎サービスの実装検証
・地域移動課題に対する送迎以外の空き時間における活用検討
・業務マニュアルや実施フローなどの体制構築支援
・関係各位の合意形成支援
・共同送迎運行管理システムの提供
・福祉有償運送資格取得支援
・実装後のサポート

 2019年11月に三豊市で社会福祉協議会が運営主体となり、地域のタクシー会社に運行を委託してサービス実証が行われた。

 空き時間は主に通院や買い物など高齢者の移動手段として利用され、朝夕の送迎時間は各介護施設の利用者の送迎に利用される。送迎の効率化を図るため、送迎時間の前後に運転手、事業所、施設利用者に自動で電話をかけるなどのシステムが導入されている。

 上記のサービスで筆者(伊波幸人、自動車ライター)が注目しているのは、「関係各位の合意形成」をサポートするソフトサービスである。当然ながら、このサービスが実施される地域では、タクシーやバスが利用される。運輸業を含めたモビリティ産業との共存共栄を考えることが不可欠である。実施対象は自治体やNPOに限られるが、既存市場の縮小懸念は拭えない。

 関係者の合意形成を支援するサービスは、「人」にしか提供できない領域である。逆に言えば、合意形成ができれば、あとはニーズに合わせて実施するだけだと筆者は考えている。なぜか。それは、介護業界ならではの共同送迎サービスのニーズがあるからだ。

介護業界、送迎における期待と現実

介護送迎のイメージ(画像:写真AC)

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 介護業界関係者は、送迎はプロに任せたいと考えている。

 実際、筆者が介護業界関係者約140人を対象にウェブ上で実施したアンケートでは、送迎はプロがよいとする回答が過半数を占めた。

 実際、利用者が介護事業所に通う場合、行き先は自由に選べる。つまり、自宅から遠い事業所を選ぶことも可能なのである。

 少し介護の歴史に触れると、一昔前までは、介護サービスの選択は「措置制度」で行政が決めており、選択の自由と責任の所在が不明確だった。「契約」によって施設選択の「自由」が確保され、施設利用者と施設経営者の双方に選択の権限と責任が明確化される。これは、介護業界にとって不可欠な歴史であった。

 一方、報酬体系は「介護送迎」を歓迎していない。介護業界における送迎は「サービスの一環」として扱われ、どこまで送迎しても追加報酬は発生しない。逆に、利用者自身が通ったり、同じ建物から通ったりすれば、介護報酬は減額される。つまり、介護送迎は報酬の対象とならず、効率性が優先される。

 加えて、送迎時間外の人材が十分に活用されていないという問題もある。各介護事業所での個別送迎は、地域単位で見るとルートが重複し、人や車両の効率が低下するという問題がある。

 こうした課題を背景に、共同送迎サービスの導入は、地域交通の持続可能性を高める可能性を秘めている。そんなニーズから生まれたのが「福祉介護・共同送迎サービス“ゴイッショ”」である。一方で、このサービスの導入には課題もある。

事業所の利益圧迫の現実

介護送迎のイメージ(画像:写真AC)

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 筆者が考える「福祉介護・共同送迎サービス“ゴイッショ”」の課題とは、次のとおりだ。

・送迎ドライバーは介護専門職でなく、認知症の方や重度介護の人などは対応が難しい
・送迎報酬がない以上、同サービスの利用料負担は事業所の利益を圧迫する
・送迎サービスを外注することで、家族との情報共有(会話)する時間が少なくなる

 介護を行う人材が各事業所から必要になる可能性がある。認知症や重度の要介護者は熟練した介護者でないと対応できない。

 送迎を委託する場合、委託料も発生する。代替案として、送迎専門の人材を採用する事業所もあるが、人口減少や高齢化による応募者の減少に悩まされている。

 実際、前述の三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、採用難易度ベスト4に「送迎人材」がランクインしており、送迎を委託している割合は全体の1%にも満たない。

 介護送迎が委託されても、コミュニケーションの質が低下してはいけないし、通話によるコミュニケーションなど工夫も必要だろう。さらなる発展を期待したい。

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