免許返納後の救世主? トヨタの電動車いす「シーウォークエス」をご存じか
高齢者と障がい者の新たな移動手段
トヨタは2023年3月、電動車いす「C+walk S(シーウォークエス)」の販売とリースを開始した。シーウォークエスは、全長1185mm、全幅650mm、1030mm。速度は歩行者に近い時速1~6kmの間で設定できる。歩道も走行可能で、歩行者の利便性を考慮して設計されている。
駆動システムは、ふたつのブラシレスDCモーターと取り外し可能なリチウムイオンバッテリーを使用。フル充電に要する時間は約2.5時間で、単相100Vバッテリーで充電できるため、一般家庭でも簡単に使用できる。
連続走行距離は12kmで、往復距離を考慮すると半径4~5kmが実用範囲となり、中学校の範囲と推定できる。これは後述する地域包括ケアシステムの運用にも関係してくる。
最大の特徴は、介護保険や障がい者福祉販売への対応である。介護保険のリースには原則要介護2以上などさまざまな条件があるが、最大でリース料の9割が補助される。例えば、月額1万円のリース料が1000円になる計算。リース料金は販売店で確認できる。
トヨタは「Mobility for all-すべての人に移動の自由を-」をスローガンに掲げ、さまざまなモビリティを提供してきた。これは、シーウォークエスを利用することで、「すべての人」、つまり外出が困難な高齢者や障がい者に移動の自由を提供したいという同社の思いが込められている。
介護・福祉の現場では、移動したくてもできない人たちが確かにいる。なぜトヨタはシーウォークエスを開発したのか。なぜ介護保険に適応したのか。
免許返納者の新たな移動手段
超高齢社会の日本にとって、免許返納後の交通手段の確保は課題だ。
警察庁によると、2019年から2021年までの3年間に免許を返納する人は約155万人。その数に対して、新たな移動手段を検討する必要がある。こうした移動困難者の課題を背景に、トヨタは「Mobility for all」をスローガンに、さまざまな移動手段のひとつとしてシーウォークエスを開発した。
シーウォークエスは満充電で半径4~5kmの走行が可能で、これはほぼ中学校の通学範囲に相当する。この範囲は「地域包括ケアシステム」のエリアと一致している。
地域包括ケアシステムとは、住み慣れた地域で最期まで自分らしい生活をできるだけ長く続けられるよう、支援やサービスを提供するシステムのこと。つまり、シーウォークエスは、高齢者や障がい者が日常生活の範囲内で総合的に利用できるよう、充電機能を持たせているのである。
一方、一般的な電動車いすでは、
・バッテリー切れ
・坂道での走行
など、安全上のリスクがあることが厚生労働省から報告されている。こうしたリスクに対して、シーウォークエスはどのような対策を講じているのか。安全性能をご覧いただきたい。
安全性能の強化
厚生労働省の資料によると、電動車いすの特徴と使用上のリスクは次のとおりである。
・早歩き程度のスピードで走行|道路や踏切横断に時間がかかり事故要因
・重量がある|緊急時(踏切脱輪時)の自主退避が困難
・高齢者の利用|加齢に伴う操作性や注意・判断力の低下
・電動で動く|バッテリー切れによる走行停止
・歩道や施設内を走行できる|歩行者や障がい物などとの衝突事故
・座った姿勢で外出|高さが低く自動車から見落とされやすい
・三輪・四輪で走行・転回する|左右差、側溝、内輪差による脱輪・転倒
・幅がある|車幅感覚のズレによる他者・他物との接触
このようなリスクに対して、厚生労働省は、踏切では原則として車両を走行させないこと、迂回路を設けることを求めている。やむを得ず走行する場合は介助者の同伴を強く推奨しており、踏切での脱輪や事故のリスクが高いことを示している。
一方、シーウォークエスのリスク対策としては、バッテリー残量が一目で確認できる表示パネル、人や障がい物との衝突回避を支援する障がい物検知機能、減速やハンドル操作を自動で支援する運転支援機能などがある。また、シーウォークエスには、旋回速度制御機能や急傾斜地進入時の減速をアシストする急傾斜地検知機能も標準装備され、高い安全性能を実現している。
しかし、シーウォークエスをより安全に使用するためには、試乗、上記リスクに関する教育、運転方法の指導、実際の運転体験などを踏まえて使用する必要がある。
道路交通法では歩行者扱いだが、そもそも車いすは「車」であり「椅子」である。車である以上、直感的で操作が簡単であっても練習が必要である。実際、介護保険の電動車いす貸与のガイドラインでも練習が推奨されているほどだ。シーウォークエスをより安全に使うための注意点を意識して練習しなければならない。
普及に向けた課題
シーウォークエスは、外出時に標準的なコンセントで充電することができる。つまり、孫のいる遠方や買い物先、友人宅などで充電してから帰宅することができるのだ。
しかし、シーウォークエスに限らず電動車いすが普及するためには、次のような課題を解決する必要がある。
・高齢者が日常的に使用することが自然である認識が薄い
・バスや鉄道などで電動車いすが利用できる体制の促進
経済産業省によると、電動車いすを使ったことがない人は、「歩く機会が減りそう」という印象を持っているようだ。しかし、使用後の満足度は総じて高い。電動車いすに対する抵抗感をなくすことが重要だ。
シーウォークエスは、このような課題に対して、スタイリッシュなフォームで抵抗感を軽減している。シーウォークエスのような製品は、歩道を「歩く」ものとして認知される必要がある。
トヨタは介護保険に対応した「Mobility for all」をスローガンにシーウォークエスを開発した。しかし、すべての人が移動できる街づくりには、鉄道やバスなどの交通機関の連続性が重要だ。
シーウォークエスが歩行者と一緒に歩くのが当たり前の社会でありたい。
11/11 09:10
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