「スーパーに行けば何か買える」を当然と思うな! 物流危機で露わになった運送会社の不断の努力、2024年問題は「宅配問題」だけではない

「2024年問題」多くのメディアが報道

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

「物流の2024年問題」に対し「EC(電子商取引)の翌日配送くらい我慢するよ」といった声も上がりつつある。だが物流クライシスはそんな生易しいものではない。これまでの「当たり前の日常」が崩れつつあるのだ(前後編の後編)。前編は「「卵」品薄騒動は運送会社にも大ダメージ! 2024年問題に見る、消費者そっぽ向きな辛らつ物流事情と」(2023年5月14日配信)

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 昨今、物流に関するニュースが、一般メディアでも広く取り上げられるようになった。とりわけ、「物流の2024年問題」については、毎日のように複数のメディアが取り上げている。

 これはとても良いことだ。物流の、とりわけトラックドライバーの苦境について、多くの人が知り、また協力的、あるいは好意的な意見も多く見受けられることはとてもありがたい。

「荷物を持って走っているドライバーを見ると、『そんなに急がなくてもいいよ』と声をかけたくなる」
「そもそも、ECの翌日配送が間違っている。翌々日、あるいはもっと遅くても全然困らないのに」
「ECでポチった荷物が、再配達になってしまった。申し訳ない」

 SNS、あるいは「物流の2024年問題」を取り上げたニュースのコメント欄には、このような声が見受けられる。物流ジャーナリストの筆者(坂田良平)は、本当にありがたいことだと思う。

 だが同時に、「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスとは、そんな甘いものではない。もっと大きな犠牲を私たちの日常生活に強いる可能性がある。

「物流 = 宅配」のミスリード

宅配のイメージ(画像:写真AC)

宅配のイメージ(画像:写真AC)

 そもそも、物流クライシスの多くがEC配送や宅配と結びついて考えられる(あるいは報道される)ケースが多すぎる。

「物流 = 宅配」

のミスリードについては、筆者が当媒体に寄稿した「個人が宅配を始めても「ドライバー不足」は全然解消しない! そもそも「運送 = 宅配」は完全な間違いだった」(2022年10月16日配信)でも述べ、記事中では

・単純に重量比で考えると、航空貨物を除いたトラック輸送による宅配便の重量比は、最大でも3.8%にすぎない。
・運送イコール宅配と勘違いしている人は、たった3社(ヤマト運輸、日本郵便、佐川急便)で94.8%のシェアを持つ宅配だけを運送ビジネスとみなし、残り6万社以上の運送会社における事業活動に対し、見て見ぬふりをしていることになる。

と指摘した。

 だが、相変わらず「物流 = 宅配」のミスリードを続ける報道は後を絶たない。その上、国土交通省までが、2023年4月を「再配達削減PR月間」と銘打ち、

「『物流の2024年問題』対策のため、再配達を減らしてください」

などとミスリードを助長している。これは本当に良くない。なぜならば、物流クライシスを矮小(わいしょう)化させ、

「本当の危機から目をそらせてしまう」

危惧があるからだ。

「店にはモノがある」は当たり前ではない

卵(画像:写真AC)

卵(画像:写真AC)

 国内輸送において、企業間取引にともなう輸送活動の割合は高い。そして、企業間輸送される貨物は完成製品だけではなく、半製品、材料、原料、部品などが含まれる。つまり、物流クライシスがもたらす影響のひとつは、

「モノが作れなくなる」

ことなのだ。そしてもうひとつ起こりうる影響は、当たり前の日常が維持できなくなる可能性である。

 私たちは店に行けば、常に多種多様なモノが並んでいることを当たり前だと思っている。しかし、この当たり前の影には、運送会社による不断の努力がある。

 そして、この「当たり前の日常」が、物流クライシスによって限界を迎えつつあることは、記事「「卵」品薄騒動は運送会社にも大ダメージ! 2024年問題に見る、消費者そっぽ向きな辛らつ物流事情とは」(2023年5月12日配信。本編の前編)において、卵を例に説明した。端的に言えば、「運送会社による不断の努力」はもはや限界を迎えているのだ。

 皆さんは

「卵の入荷は、月・水・金だけなので、卵が欲しければ、いずれかの日に必ずスーパーに行かなければならない」

という日常を受け入れられるだろうか。物流クライシスは、そこにモノがあるのが当たり前の日常を崩壊させる可能性すらある。「ECの翌日配送ができなくなる」程度の話ではないのだ。

「積載効率」増加に必要なこと

閉店したガソリンスタンド(画像:写真AC)

閉店したガソリンスタンド(画像:写真AC)

 物流クライシスの原因は、トラックドライバー不足である。しかし、少子高齢化が進み、2070年の日本の総人口が8700万人まで減少すると予測される日本において、ドライバー不足が解消する見込みはない。

 だからこそ、限られた輸送リソース(トラックなど)を無駄遣いせず、輸送効率を高める工夫が必要であり、そのためにさまざまな人や機関が知恵を絞っている。

 現在の積載効率は低い。1990年代には50%以上あった積載効率が、現在では

「40%以下」

まで落ちている。ただし、これは単純計算すれば、1台のトラックで運ぶ貨物量を2倍にすることができれば、現在のトラック輸送リソースの半分で、現在と同じ貨物を運ぶことができることを示す。よく言えば、現在の積載効率の低さは、イコール伸びしろとも解釈できる。

 ただし、高い積載効率を実現するためには、物量をまとめることが必要だ。まとまった物量がない貨物は、トラックで運ぶに足る物量にまとまる頻度でしか運べなくなる可能性がある。

 前編では、

「これまで日々輸送されていた鶏卵が、鳥インフルエンザの影響などにより生産数が減少した結果、隔日輸送しかできなくなったことで、卵の品不足に拍車がかかっている可能性」

を指摘したが、これが鶏卵に限らず、ありとあらゆる日用品において発生する可能性があるのだ。

 例えば、自動車のEV(電気自動車)シフトが進み、ガソリンや軽油の消費量が減少した将来において、現在と同じ輸送網を維持するのは難しい。当然、今までよりもガソリンスタンドに対するガソリン・軽油・灯油の供給頻度は少なくなるだろう。

 こうなると、

「ガソリン・軽油・灯油がないから、週に4日しか営業しない」

というガソリンスタンドが増えてもおかしくない(もっとも、その前にガソリンスタンドが淘汰(とうた)される)。

物流クライシスにもっと危機感を

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

「物流の2024年問題」が注目されていることから、筆者のようなメディアに属さない野良犬物流ジャーナリストも、大手メディアから見解を求められる機会が増えた。

 大手メディアの記者やディレクターなどは、当然ながら物流の専門家ではない。彼ら彼女らが、物流クライシスをEC遅配に結びつけたがるのも致し方ないことだし、物流ビジネスの課題をとうとうと語る筆者に、困惑した顔を隠さないのも当然だとは思う。

 だが一方で、

「物流クライシス = ECの翌日配送が実現できなくなること」

程度の認識で、物流クライシスを乗り越えられるのだろうか。その対策には、全方位での取り組みが必要となるし、それでも「

店に行けば、常に多種多様なモノが並んでいる」

といった今まで享受してきた便利な日常を手放さざるを得ない「痛み」を国民に強いるケースだって起こりうる。

 これ以上トラック輸送リソースが減少していけば(減少するのは確実だが)、例えば、医薬品・医療品の輸送を最優先し、緊急性の低い日用雑貨の輸送は後回しにするような、いわば

「トリアージ(振り分け)」

を行わざるを得ないようなケースだって起こるかもしれない。せめてもう一歩二歩、一般メディアでも深掘りした物流クライシスを伝えてほしい。

 物流は「経済の血液」と呼ばれる。もし物流が動脈硬化を起こせば、その影響は全国民に及ぶ。そうならないために、あるいはその現実を受け入れるためには、すべての人が、より物流クライシスに緊張感を持つことが必要なのだ。

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