新型プリウスはなぜ大ヒットしたのか? 衝撃的「デザイン変化」だけじゃない、3つの深意とは
納車は2024年の半ば
新型プリウスは2023年1月の発売開始以来、好調なセールスを重ねている。価格帯は従来の200万円台前半からアップし、新型では200万円台後半からのスタートである。
さらに従来の1.8Lモデルに加えて、主力と思われる2Lモデルは300万円以上となっている。それにもかかわらず、今から注文しても納車は2024年の半ばまで待つ状態だ。
新型は先代までのプリウスの「小型で卵型のエコカー」というデザインコンセプトを、一新した。地をはうような低いノーズに、ふくよかに張り出したリアフェンダーなど、スポーツ4ドアクーペという形状に生まれ変わっている。
販売チャンネルも従来のデイーラーのみならず、サブスクリプションの「KINTO」専用モデルなど、最新のトヨタ車の販売戦略にも車種構成から対応している。
いずれは「走行用バッテリー交換」が必要になるハイブリッド車。だからこそ、長期の車所有にあまり思い入れのないスマートフォン世代である20~30代に向けて、保険も含めたシンプルなカーライフを提供する狙いのように思える。KINTOの方が実は納車が早い、ということもまるで追い打ちをかけているかのようだ。
しかし、それだけではこの好調の背景を説明できないのではないか。そこで筆者(J.ハイド、フリーライター)は新型プリウスを実際に試乗することにした。
試乗の感想
試乗車はZグレードで、販売価格は370万円だ。実際の乗り出しには経費を含め400万円超が必要となり、国産車ではかなりの高価格帯だ。しかし実車を目の前にすると、その価格に見合うスポーツカーのような低いデザインの新型プリウスには、まばゆいばかりの赤がよく似合っている。
前席は、普段スポーツタイプ多目的車(SUV)に乗っている筆者からしても、窮屈なイメージは皆無である。そして驚いたのは、身長176cmの筆者が座った前席シートポジションのまま、後席に座ると両足の膝の前には十分なゆとりがあることだ。
もちろん足を組めるほどではないが、天井高も含め後席も圧迫される感じは一切ない。つまり低いデザインでスポーツカーのような新型プリウスは大人4人を乗せての快適なドライブに、しっかりと対応できる車に仕上がっているのだ。
そしてZグレードになると、目に見える部分のほとんどに合皮の内装が用いられており、400万近くの価格帯であることを納得させられる演出に満ちている。トヨタが「ディスプレイオーディオ」と呼ぶ大画面のナビも、使い勝手が良さそうだ。
試乗した印象では通常の2Lハイブリッドモデルの動力性能は必要にして十分なものだった。もし、さらなる性能を求めるなら100万円近い追加を払ってプラグインハイブリッド車(PHEV)にすれば、そのフォームにふさわしいスポーツカーといえるパフォーマンスを手に入れることができるだろう。
補助金が認められている場合は、両モデルの価格差は縮まり、この3月のPHEV発売に関しては事前抽選が行われるほどの人気である。
試乗を終え、車から降りて斜め後方から眺めてみる。後席ドアは、量産車としてはアルファロメオが早くに採用した、Cピラーとドアノブを一体化したデザインとなっている。この辺りもリアドアからリアフェンダーの膨らみへの連続した面の美しさを損なわないノウハウであり、デザイナーの関わりを感じさせる部分である。
望むべくもないが、アルファロメオのエンブレムが付いていたら、世界中の車好きが注目するのではないかと思われる、驚くほど完成されたデザインだ。
デザインだけでないヒットの理由
新型プリウスは、このようにその衝撃的なデザイン変化に話題が行きがちだ。しかし、冷静に考えて見れば今回のヒットには、デザイン以外にも理由が三つほどあると思われる。
第一の理由は、ガソリン価格が高騰するなか、相変わらずうれしいトップクラスの低燃費である。メーカーの協力を得て195/50/19といった「大口径、超扁平(へんぺい)ながらやや細い」といった新規格のタイヤを装着するなど、燃費性能を重視する思想に抜かりはない。
実は絶対的な燃費ということでいえば、1.8Lハイブリッドの先代プリウスが優れていた。しかし、新型プリウスも多くの小型ハイブリッド車同様にカタログ値では30km/L前後、もちろんレギュラーガソリンになるので財布に優しいのは、すぐにわかる。輸入車に多く見られるマイルドハイブリッドがカタログ値では、ほとんどが20km/L以下であるのとは対照的だ。
タンク容量は控えめな43L。だが、実用燃費20km/L程度とすれば、走行距離が月間800kmに満たない平均的なドライバーであれば、月に1回程度の給油で事足りる計算だ。
今ひとつの理由は、拡大するサイズの中で横幅を1780mmに収めたことだ。長くなったホイルベースにより大人4人が快適に過ごせる空間を確保しながらも、この車幅であれば、駐車場や狭い道でもあまり気を使わずに済むのである。
輸入車の場合はコンパクトといわれるミニやBMW1シリーズでも1800mmスタートであり、5シリーズなどのEセグメントになるといずれも1850mm以上となって、住宅街の狭い道や街中の立体駐車場の利用に神経質にならざるを得ない。
「スペシャリティカー」の色合い
もちろん、低い車高とデザイン優先のためか、カタログでは410Lと初代並みになってしまったトランク容量など、エコカーとしてみれば疑問に思う仕様も少なくはない。前述のコンパクトなドイツ車以上の容量を確保したということになるが、ここは何か工夫が欲しかったところだ。
最後のそして最大の理由、それはブランドポジショニングの妙だ。新型プリウスは、かつて代表的なカテゴリーであったにも関わらず、今は皆無となった
「スペシャリティカー」
というジャンルにぴったりの車であるように思われる。
スペシャリティカーは
・セリカ
・シルビア
・プレリュード
など、2ドアボディに2L DOHCなどの小気味よいエンジンを積んで、本格的ではないが、ややスポーティーな運転を楽しむ車だった。オートエアコンや音の良いオーディオなど気の利いた快適装備も併せて、自動車評論家からは
「デートカー」
などとやゆされていた。しかし、当時の20代からは憧れを持たれ、日本だけでなく北米でも売れに売れた。
その後、デートカーの役割はバブル期後半ぐらいから、BMW3シリーズなどのドイツのスポーツセダンに徐々に移っていき、本格的な国産スポーツカーは、GTR、フェアレディZ、トヨタ86やマツダロードスターとして生き残ることになる。
結果として、スペシャリティカーの代表ともいえるトヨタ・セリカは2006(平成18)年に終売を迎える。
新鮮な運転感覚
新型プリウスのデザインが一新されたのは、先代に対する豊田社長(当時)の「カッコ悪い」発言へのコンプレックスなのか、それともスペシャリティカーの復権を狙ったのか、真相はわからない。
ただいずれにせよ、BMW3シリーズを始めとするドイツのスポーツセダンがハイブリッドでは600万前後の高価格帯にシフトするなか、価格対パフォーマンス(仕上げの上質さ含め)という意味で、4ドアスポーツとしての新型プリウスは実に魅力的だ。
何より普段SUVや背の高い軽自動車に乗り慣れている人ほど、新型プリウスの運転感覚は新鮮に思える。「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」と呼ばれるプラットホームは「低重心」を実現するという。それは同乗者でもすぐにわかる走りの「いいモノ」感、安定感につながっている。
そして前述のように、いずれは走行用バッテリーの交換が必要になるハイブリッドのみの車種のため、KINTOのような長期所有を前提としない販売形式にマッチしているという印象を与えやすい。
一方、同じく長期使用における走行用バッテリー交換という宿命を抱えたEVは、都市部を除けばまだ充電スポット数に不安がある。かたや
「本格的なEV時代が来るまで、サブスク&ハイブリッドの新型プリウスにしておこう、プリウスならいつでも給油すればOK」
であるという安心感。それはユーザー目線なら誰もがたどり着きやすい、納得のストーリーだ。
「車とデート」 デートカーに非ず
多くの人がハッとするデザインと運転感覚。環境にも優しく経済的で、シンプルなライフスタイルにも良いモノと過ごす実感をもたらす、新型プリウス。
価格さえ納得できれば、性や年齢、家族構成を問わず、数年間の生活をともにするスペシャリティカーとしては非常に良い選択肢なのではないだろうか。
かつてのデートカーではなく、車好きが忘れかけていた
「車とデートする」
ような日常。それを想起させる新型プリウスの出来栄えは、とても印象的だ。
同じ思いに至ったのか、そのカタログは「愛しさが、連続する」というコピーで始まる。つまり、環境性能も含めた高いパフォーマンスと美しいデザインは、ドライバーのライフスタイルのためといった新しいスペシャリティカー像が、さりげなく主張されているように思われるのだ。
トヨタ内だけでもさまざまなハイブリッド車がラインアップされ、近年は陰りが見えてきたかのようだったプリウスブランド。その人気復活、大ヒットの予感を、新型プリウスの好調な売れ行きと、実際に試乗した際の出来栄えの良さに強く感じた次第である。
03/19 06:11
Merkmal