利益「たった数十円」でも働くフード配達員 ひ孫請けまで広がる搾取構造を疑え

搾取される外国人

フードデリバリーのイメージ(画像:写真AC)

フードデリバリーのイメージ(画像:写真AC)

「フードデリバリーでも中抜きが増えましたね」

 個人事業主として、フードデリバリーを専業で請け負う配送員が語る。

 運送業界の中抜き問題はいまに始まった話ではないが、古くは貨物自動車運送事業の中でも大量輸送や大口輸送といった、いわゆる「大金の動く輸送事業」について語られることが多かった。うまみがないと中抜きはしないわけで、中抜きにはそれなりの予算がついていないと額が小さくなる。ゼネコンやマリコン(港湾土木)と同じで、巨大事業のほうが中抜きやそれを目的にした事業者、個人が群がってくる。

 ちなみに「中抜き」とは本来の意味では中間業者を通さない商取引をいったが、近年ではネットスラングも含め、不必要な仲介者が介入することにより、予算や報酬から差し引いたり正当でない手数料を取ったりすることを指すようになった。

「フードデリバリーの案件を、配送マッチングサービスを通して請け負った法人委託会社が個人事業主を募って配達させる、そこに至るまでに小さな中抜きが繰り返される、というわけです」

 フードデリバリーの登録形態には

・個人請負
・法人請負

がある。

 そしてフードデリバリーに限らず、近年の小口輸送には配送マッチングサービスという発荷主と着荷主の間を取り持つアプリ企業が存在する。法人請負で入った委託会社は自社で雇用契約を結んだ社員によって商品を運ぶ。ここまでは理解できるが、元請けである委託会社が個人事業主を使うとは「下請け」ということか。

「その下請けの個人事業主が、若者とか外国人に仕事を振ります。孫請けということですね。外国人は元締めとしてさらに外国人に振るのでひ孫請けになります」

 ただでさえ単価の安いフードデリバリー、ひ孫請けまで行くと1回100円とかになってしまうのではないか。フードデリバリーかいわいでは1回300円の配達を「スリーコイン」略して「スリコ」とやゆするが、それどころか「ワンコイン」だ。

「いえ、ワンコインは普通に個人の配達員でもある話ですから、そうしたひ孫請けだと数十円とかですよ」

もしや「偽装請負」ではないか

フードデリバリーを受け取る人のイメージ(画像:写真AC)

フードデリバリーを受け取る人のイメージ(画像:写真AC)

 信じがたい話かもしれないが、それでも運びたがる外国人がいるという。コロナ禍の失業により仕事を失った外国人労働者の話は多いが、かつてはフードデリバリーをじかで請け負っていた彼らの一部は、審査に通る身でないままに日本で数十円の稼ぎをしている。しかしそうした訳ありの外国人ならともかく、日本人なら直接請け負えないということもないと思うのだが。

「フードデリバリーや地域にもよりますが基本、法人委託という会社もあります。また下請け、孫請けの場合は委託会社が時間保証をつける場合が多いのです。時間保証をつけて、案件がなくても待機だけでも時給を払う、ということになります」

 確かにフードデリバリーは完全実力次第、ほとんど稼ぎにならない人もいる。それなら中抜きをされても安定して金を得られるなら、と考える人がいても不思議ではない。

「そのかわり例えば、指定エリアで12時間中の11時間はログインしてくれとか、振られた案件に拒否権は2回まで、とかです。理不尽な距離でも甘んじて走るしかありません」

 実際にこうした募集はSNSも含めたネットに散見される。例えば「新規案件大量募集! フードデリバリーの案件です! 案件を自分で取得しなくてもOK! 基本的にエリア内待機です! 安定した収入を得ることができます!」といった具合だ。

「どこのフードデリバリーかも書いてありませんし、12時間の長時間拘束です」

 中抜きうんぬんはもちろんだが、これは

「偽装請負」

ではないか。

 もちろん、フードデリバリー自体が偽装請負なのではなく委託会社が、だ。下請けである委託会社が孫請けに振るのは双方同意ならどの業態にもある形だが、それに勤務形態などが付帯されると、労働基準法違反の偽装請負で実質的には雇用関係にあるとみなされる。

「1日12時間として拒否権は2回までということはそれなりに走ることになるでしょう。ガソリン代も自腹ですし、この委託会社がマッチングサービスを通して募集をかけていれば手数料も引かれます。それでも仕事をする孫請け、ひ孫請けがいるというのも問題なのでしょうが、あんまりですよ」

複雑構造の裏にあるもの

雨の中を走るフードデリバリー(画像:写真AC)

雨の中を走るフードデリバリー(画像:写真AC)

 かつてのブラック派遣労働のような偽装請負もまた、労働者の事情につけこみ、理不尽な中抜きと自己責任労働を押し付けてきたが、フードデリバリー業界もまた、各社の思いもよらない方向から配達員の環境が悪化している。もちろん各社委託に関しての管理は徹底しているのだろうが、現実は彼らの知らないところで2次、3次と下請けに配達の仕事が下りている。その手口はさまざまで、別の配達員によれば委託法人の名義で「うまい具合に」回しているという。

「アマゾンの配達員のように声を上げるしかないのでしょうが、フードデリバリーの場合はあくまでマッチングアプリですから、委託法人の問題です」

 この場合、フードデリバリーというマッチングアプリと配送のマッチングサービスを通して飲食店が、法人請負で登録している会社に配達を依頼している、という実に複雑な状態だ。

 さらにその法人か個人事業主に、ことによっては個人事業主が誰かに配達を依頼する。発荷主である飲食店や着荷主である料理の注文客からすれば「誰?」という別人が来る事例も耳にする。もちろんサポートセンターに通報して構わないが、その事例の裏にはこうした問題が起こっている。

「もっと安心に届けたいのですけど、このように複雑で人間の欲とか、事情というのはキリがありません。だからこそ、声を上げるべきだとも思います」

 フードデリバリーではないが、大手通販会社アマゾンの配送システム・アマゾンデリバリープロバイダ(デリプロ)で働く配達員が2022年に入り、ユニオン(労働組合)として声を上げた。

 こちらのケースも同様に、アマゾンから下請けの大手運送会社、孫請けの中小運送会社、そしてひ孫請けの個人事業主という構図だが、実質的な拘束やノルマにより「偽装請負」とユニオンから指摘されている。

 アマゾンフレックス(アマフレ)という元請けの個人事業主として配達する形態もあるが、これも完全実力主義のため安定するかは自分次第、デリプロのほうが大手運送会社も入っているから安心(実際はその下に2次、3次と下請け孫請けが入っている)とこちらを選ぶ配送員もいる。

 しかし、先の「偽装請負」とされる問題はもちろん、中抜きに関しても報酬から手数料やロイヤルティーの名目で各下請け段階から引かれてしまう。システムの違いはあれど、構図はまったく同じだ。

「請ける側も請ける側だ」は間違い

フードデリバリー用の自転車(画像:写真AC)

フードデリバリー用の自転車(画像:写真AC)

 中抜き問題で筆者(日野百草、ノンフィクション作家)はこれまで多くのルポで訴えてきたが、実際に働く現場や労働者に正当な対価が支払われないのは明らかにおかしい。

 この国は古くからのゼネコンや2000年代のブラック派遣労働はもちろん、東日本大震災の復興や除染作業でもひ孫請けどころか8次下請け、9次下請けまで野放しにしてきた。この体質は新しい働き方ともてはやされたネット宅配やフードデリバリーでも健在で、もはや中抜きもまた「日本病」ではないかとすら思わされる。

「でもね、請ける側も請ける側だ、という人はいますが、そこしか行く場所のない人もいるのです。そういう人だから中抜きされても構わないなんて、理不尽だと思います」

 配送員のいう通りで、本来はそういった人でも安心して働ける社会やシステムを目指すべきだが、国の対応は後手後手に回り、それをいいことに一部クライアントが過度の中抜きという一線を越える。

 先にも言及したがじつのところ、フードデリバリーがアマゾンのような発注者であるならともかく、あくまで仲介アプリであるという体をとっている部分もこの問題を複雑にしている。日本はまだ国としてこの新しいサービスに対処しきれていない。

 それでもアマゾンのユニオンが声を上げたことはフードデリバリー業界の問題にも参考になる。フードデリバリーにもユニオンはあるが、今後は連帯して企業や国と、対立ではなく建設的な意見を上げるべきだろう。「声なき声」が

「声ある声」

に変わることで社会は変わる。日本のデリバリーも全体もまた変わる。この中抜きという「日本病」はもはや個人の努力ではどうにもならない段階に来ている。

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