ソックス、タオル…ファミリーマートの「コンビニエンスウェア」が売れる理由

ファミリーマートが2021年3月に全国展開したオリジナルアパレルブランド「コンビニエンスウェア」が、約3年で幅広い層から支持を集めている。

コンビニでおしゃれな服が気軽に買える新しい体験を提供し、ファッション業界にも影響を与えつつあるコンビニエンスウェア。その裏側に迫るべく、コンビニエンスウェアプロジェクトを率いるCW・雑貨部  CW・雑貨グループの須貝健彦氏にインタビューした。

▲新作の今治タオル「ガーベラ」。※店舗によっては取り扱いがない場合がございます

「いい素材、いい技術、いいデザイン」

全国展開に至るまでの道のりは慎重に進められた。須貝氏によると、コンビニエンスウェアは綿密な市場調査を経て誕生したという。

当初、ファミリーマートは関西地方の約150店舗、その後、約2700店舗で実験的に限定販売を展開。関西を選んだ理由については「消費者の反応が直接的に届きやすいこと。また、当時は東京オリンピックを控えていたため」と説明する。このテストマーケティングの結果を踏まえ、2021年3月に全国展開へと踏み切ったのだ。

コンビニエンスウェアの立ち上げ経緯について、須貝氏は次のように語る。

「以前からコンビニでは衣料品を置いていましたが、それは主に緊急需要向けの商品でした。急なビジネス出張や雨対策などに対応するものです。インナー市場は大きいのに、コンビニではそこを十分に取り込めていませんでした。

そこで私たちは、緊急用ではなく普段使いできるような商品を作れば、身近なコンビニで衣料品を買ってもらえるのではないかと考えました。これがコンビニエンスウェアの企画のスタートでした」

ブランドコンセプトは「いい素材、いい技術、いいデザイン」。この理念を実現するため、ファミリーマートは世界的に活躍するファッションデザイナー・落合宏理氏と手を組んだ。落合氏は2016年のリオ五輪閉会式「フラッグハンドオーバーセレモニー」の衣装製作を担当するなど、国際的な実績を持つデザイナーだ。

「緊急需要の延長線上で品質を高めるだけでは、ファッションアイテムとしての魅力は、お客さまに伝わりにくい部分もありまして。日常使いできるファッションアイテムとして認知してもらうため、落合さんに参画いただきました。

落合さんの世界観は、例えば今までコンビニではあまり見られなかった、ぱっと目につくビビッドな色使いなどに表れています。コンビニの売り場でも、少しでも心が動くような展開を心がけています」

このように、コンビニエンスウェアは単なる緊急用の衣料品を超え、日常使いにぴったりなシンプルなデザインでありながら、どこか洗練された印象を感じさせるブランドへと進化を遂げている。

アパレルショップとコンビニの違いを見定めた

さらに、コンビニエンスウェアの特徴は、その幅広いターゲット層にもある。

「ファミリーマートには1日約1500万人、年間約55億人もの方が来店されます。老若男女、本当に幅広い方に来ていただくことを想定しているので、ターゲットを絞るというよりは、誰にでも違和感なく受け入れられる商品づくりを目指しているんです。

「これまでは、例えば出張時のサラリーマンなどが主な購入者層でした。それが、コンビニエンスウェアを立ち上げたあとに、ソックスやショートパンツなどがSNSで話題になったことで、コンビニで衣料品が売っていること知らなかったお客さまにも、ご購入いただけるようになりました。これはコンビニエンスウェアならではの大きな変化ですね」

▲SNSでバズったことで若い世代にも注目されるようになったと話してくれた

価格設定にも工夫がある。須貝氏によると、買いやすい価格を意識しつつ、長く着用できる品質とデザインへのこだわり、コストパフォーマンスの良さを感じられるバランスを目指しているという。ファミリーマートの幅広い利用者層を考慮し、値ごろ感のある価格帯を維持しながらも、上質感のある商品づくりを心掛けているのだ。

実際の人気商品について須貝氏はこう分析する。

「もともとアパレル業界にいた私の感覚では、秋冬物、特にコートなどの高価格帯の売上が大きいのが当たり前でした。でも、コンビニ業界では、夏場の売上が非常に高いんです。暑い時期は、飲料やアイスを求めてコンビニに立ち寄るお客さまが増えるからなんですね。

だから、夏場がチャンスだと考え、ショートパンツに注力しました。ロングパンツ、特にデニムなどは裾上げが必要で在庫管理が難しいですが、ショートパンツならウエストがゴムなので、サイズの調整がしやすいというメリットもあります」

昨年12月に発売した「スウェット」は、人気の「ジョガーパンツ」同様にSNSでバズり、各所で絶賛された大ヒット商品だ。

「一般的なアパレルショップであれば、スウェットは定番の品揃えの1つですが、私たちは素材選びと作り方にこだわりました。USAコットンを使用し、シルエットや縫製などのディテールにも注意を払っています。

商品が発売されると、YouTuberの方などが他社製品と比較したレビューをしてくださることが多いのですが、そうした評価でもシルエットや素材感の良さを好評いただきました。そうした口コミが広がったことも人気の要因だと思います。

スウェットの素材は本当にしっかりしていて、部屋着としてではなく、ファッションアイテムとして着られるクオリティを目指しました」

コラボ商品から世界初のファッションショーまで

日本各地、さまざまな場所にあるファミリーマート。コンビニエンスウェアの売上動向についても聞いてみた。

「ブランド立ち上げ前の衣料品と比較して、約4倍売り上げが伸長しています。店別の売上は基本的にはファミリーマート全体の売上と連動しています。例えば、都内などの売上が高い店舗では、コンビニエンスウェアの売上も必然的に高くなっています。

一方で、サービスエリアなど、立地によって特徴が出ている店舗もあります。アウトドアアイテムの需要が見込めるロケーションでは、レインポンチョやサンダルなどもよく売れます」

ブランドの認知度向上については、ユニークな取り組みもしている。昨年の「FUJI ROCK FESTIVAL '23」では、コンビニエンスウェアでは初となるポップアップストアを設けて、コラボレーション商品を含む衣料品を販売。普段はあまりコンビニで服を買わない層にも、商品の魅力を直接感じてもらえる機会となった。

特にレインポンチョなどのアウトドアアイテムは、フェス需要にマッチして「手ぶらでもフェスに必要なものがそろう」と、多くの来場者から好評を得たこともあり、今年も会場内にポップアップストアを出店した。

また、昨年11月にはファミリーマートが東京・国立代々木競技場 第二体育館で「ファミフェス」を開催し、コンビニ業界初となるファッションショーを実施し大きな話題を呼んだ。

コンビニがファッションショーを開催することが非常にインパクトがあり、国内外の多くのメディアに取り上げられ、コンビニエンスウェアの認知度向上に大きく貢献したとのことだ。さらに、地域に根差したコラボレーション商品の展開にも力を入れている。

「広島東洋カープとのコラボを皮切りに、福岡ソフトバンクホークスや琉球ゴールデンキングスなど、各地のプロスポーツチームとタッグを組んでいます。地域に愛されるチームとコラボした商品は大好評で、ファンの方たちに喜んでいただけて、各地の店舗でも品切れしてしまうこともありました。

とくに沖縄の方の琉球ゴールデンキングス愛は凄まじく、コラボソックスを履いて観戦に来られるお客さまが多くいらっしゃいました」

トータルコーディネートが組めるようになった

そうした一方で、課題もあると話してくれたが、須貝氏は課題をチャンスに変える解決策を模索中だ。

「課題としては、店舗での販売方法が挙げられます。現状は商品がパッケージされた状態で陳列されているので、素材感やサイズ感がわかりにくいということがあります。Tシャツ1枚1,490円という価格は一般的には買いやすい価格とはいえ、失敗したくないと感じるお客さまにとっては、ちょっと抵抗があるかもしれません。

一般的な解決策として、素材感については、お客さまに直接触れていただくことが一番なのですが、衛生面を考えると商品を開封するわけにもいきません。サイズ感に関しては、ホームページ上でバリエーション画像を充実させたり、売場で着用イメージPOPを展開したりと、お客さまがイメージしやすいよう日々模索しています。

とはいえ、いろんな方が訪れるのがコンビニの特性。一度でも“コンビニで買った服が良かった”と認知されれば、次からはあまり抵抗なく手に取ってもらえていると感じています。

ラインソックスに関しては、話題だからと買ってみたところ、品質の高さとデザイン性、履き心地の良さから、リピーターとなってくださるお客さまも多いんです。価格以上の価値を感じていただけていると思うので、まずは1回でも試していただく機会を増やすことが大切です」

アパレル業界は近年、ユニクロやGUなど安価で高品質な商品を提供するファストファッションブランドが台頭し、競争が激化している。そうした流れのなかで、コンビニエンスウェアも独自の立ち位置を模索しているという。

「駅や空港、サービスエリアなど、時と場所を問わず、必要なタイミングですぐ手に取れるのは、やはりコンビニエンスウェアならではの大きな強みです。ファッションを通して、お客さまの生活に寄り添えるブランドに成長させていきたいと思っています」

最後に、コンビニエンスウェアの今後のビジョンについても聞いてみた。

「現状の商品だけでも、トータルコーディネートが組めるようになっています。昨年にショートパンツとサンダルを発売したことで一歩前進し、今年はジョガーパンツやボタンダウンシャツ、帽子などのバリエーションも拡大しています。

今後も“コンビニで衣料品を買う文化”を根付かせることも目標として、お客さまに喜んでいただける商品を開発していきたいです」

▲この日の服装は全身コンビニエンスウェアのものだ(靴以外)

コンビニでファッションアイテムが買える。この新しい体験価値を、ファミリーマートは追求し続ける。コンビニエンスウェアの挑戦は、次なるステージに向けて加速していく。その先には、私たちの日常に溶け込んだ、新しいファッションの形があるのかもしれない。

(取材:すなくじら)


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