外国人労働者は「新在留資格」で本当に日本に来てくれるのか

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 安倍晋三政権は、外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案を閣議決定し、臨時国会に提出した。法律が成立すれば、これまで医師、弁護士、教授など「高度専門人材」に限ってきた外国人の就労資格を「非熟練の単純労働」に広げる、日本の入国管理政策の歴史的な大転換となる。

 これまで、かたくなに拒んできた外国人単純労働者の受け入れ解禁は、日本の社会に本格的な「移民社会」の到来という、大きな変化をもたらす可能性がある。しかし、安倍首相は国会で「移民政策ではない」と答弁し、法案には具体的に受け入れる業種や人数の規模など、全体像が示されていない。

 山下貴司法相(本連載第194回)は、「人出不足が深刻で、法改正は急務だ」と述べ、法案成立を急ぐ考えを示すだけで、国会で具体的な答弁を避けている。とにかく、当面の人手不足を埋めようとする安倍政権の姿勢には、野党のみならず、与党である自民党・保守派や公明党からも「生煮えのまま進めるのは拙速だ」「なし崩しに外国人労働者が増える」と批判が出ている。

 だが、本稿は出入国管理法改正による新制度導入で、なし崩しに外国人労働者が増えるどころか、日本国内の人手不足は埋まらないと考える。国際的な観点からみると、外国の単純労働者にとって、日本は既に魅力ある働き場所ではないからだ。その意味で、この法案を巡る安倍政権の思惑も、それを批判する反対派も、どこかピントがずれているように思う。

外国人技能実習生制度の理想と現実
実態は中小企業の労働力確保

 安倍政権が、外国人単純労働者の受け入れ解禁を急ぐ理由は、端的にいえば、昨今の度重なる災害後の復興や2020年に開催予定の「東京五輪」で、非熟練の単純労働者の需要が高まっているからだ。五輪に向けた建設工事等で、新たな労働者が約80万人必要だという試算がある。だが、人手不足は深刻だ。特に建設業では、2015年には1万2000人程度だった人手不足が、2020年には33万5000人に拡大するという。

 しかし、日本では少子高齢化で若者の数が減少している上に、高学歴化、大企業志向の高まりによって非熟練の単純労働者が特に減少し、日本人だけでその穴を埋めることができなくなっている。そこで外国人労働者を受け入れるという話になるのだが、これまで日本政府は、単純労働者の受け入れを認めてこなかった。

 日本には既に127万人の外国人がおり、世界4位の受け入れ数だ。だが、専門的または技術的分野の外国人労働者のみ受け入れてきた。日本国内において実際に就労ができる資格は13種類(教授、芸術、宗教、報道、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、技術・人文知識、企業内転勤、興業、教育、技能)のみで、非熟練の単純労働者は含まれていない。

 そのため、政府は「外国人技能実習制度」という、一時的外国人労働者受け入れ制度を使ってきた。中国、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどアジア諸国から技能実習生として人材を受け入れる。1年間の研修の後、技能テスト合格を得て2年間技能実習生として勤務することができる。技能実習生を受け入れることができる主な業種は、農業、水産業、酪農、製造業、建設業などである。

 本制度の目的は、元々外国人労働者が研修で技能を習得して帰国し、その母国へ技能が移転されることを通じて、開発途上国の経済発展に貢献することだ。だから、外国人技能実習生は、労働ビザに該当しない「実習生ビザ」で来日している。しかし、現実的には、中小企業の労働力確保のために利用されてきた。近年は、前述の通り災害や五輪に向けて人材がより必要となり、2017年には外国人技能実習生の合計数は22万人を超えている。

外国人技能実習生に対する
人権侵害問題の闇

 だが、外国人技能実習生に対する人権侵害問題が、ほぼ毎年200件以上発覚し、処罰されているという。その主なものは、賃金未払いや暴力などである。よく知られた事件としては、2014年に、日本有数のレタス産地である長野県南佐久郡川上村でレタス栽培に従事していた中国人の農業技能実習生が、人権侵害を受けた事件がある。

 中国人技能実習生たちに対して、劣悪な環境の中で、労働基準法に違反した長時間の労働や暴言や暴力、不明瞭な賃金の差し引きや母国にある送り出し機関からの搾取や不必要な管理などが行われていた。技能実習生の申告により、事件として明るみに出たが、日本弁護士連合会が、管理団体である川上村農林業振興事業協同組合に対し、再発防止や被害回復等を求める勧告を行い、厚労相および、法務省に対し被害実態の調査や再発防止、技能実習制度の廃止を求める事態となった。

 立命館大学政策科学部・上久保ゼミでは、2016~17年の2年間、ある学生(現在は卒業)が外国人技能実習制度の問題に切り込んだ。この写真は、その学生が2016年6月に外国人技能実習生の調査を行った時に撮影したものである。外国人技能実習生を受け入れた企業・農家に学生がインタビューを依頼したが、ことごとく断られた。業を煮やした学生は、遂にノー・アポイントで取材を敢行した。その結果、なぜ企業が学生の訪問を頑なに拒み続けたか、理由がはっきりとわかった。冷暖房などの設備のないトラックのコンテナの中で、ベトナム人技能実習生が3年間生活していた事実が判明したのである。

 技能実習制度は、さまざまな人権リスクが起きやすい制度設計になっている。繰り返すが、技能実習制度は労働人口の減少や若年層の高学歴化、大企業志向などからくる人材不足に対する中小企業の生き残り策として存在している。そのため、技能実習生は日本人が就労したがらない労働分野での補完的役割を担っている。

 だが、日本の中小企業における労働組合の組織率はわずか1%と圧倒的に低い。本来、労働者の人権や労働環境を守るための組織である労働組合が中小企業にないことが、仕事の効率ばかりを優先させ、労働者の権利を疎かにする環境につながっている。

 その上、「3年間だけ日本国内に滞在を認める」という縛りがある。制度上、外国人労働者のための社会参加は考えられておらず、技能実習生たちの社会的孤立を高めてしまうことになる。結果として、パスポートの取り上げや賃金未払い、労働基準を超す長時間労働など、最悪死に至らしめるさまざまな人権リスクが起きやすくなっている。

 さらに言えば、この学生が、技能実習生の送り出し国に訪問してフィールドワークした結果、わかったことがある。技能実習生を送り出す国に、「悪徳仲介業者」が存在し、それが現地のマフィアと結託し、貧困にあえぐ非熟練動労者をほとんど人身売買のように日本に送り込んでいる実態だ。

 この仲介業者は、研修生を日本に送れば終わりではない。研修生が日本に送られた後も、金銭を巻き上げるだけでなく、なんと「監視役としての実習生」を日本に派遣している。そして、それに結託している日本の中小企業がある。その結果、日本にも母国にも居場所のなくなった実習生が、次々と失踪している。2015年度には4980人のもの失踪者を生み出しているのである。

 外国人技能実習制度は国際社会から多くの批判を受けている。国連のホルヘ・ブスタマンテ氏による報告書では本制度を「奴隷制度または人身売買」と判定した。その上で、日本政府に対しこの制度の廃止と雇用制度への変更、関連企業から完全に独立した監視・申し立て・救済機能の確立の勧告をしている。しかし、これまで安倍政権は、抜本的な解決などは考えてこなかった。

アジアの労働市場で
日本の優位性は低下している

 繰り返すが、安倍政権が外国人単純労働者の受け入れ解禁を決断したのは、国内の人手不足を解消するためである。だが、それは新たな制度をつくれば解決する簡単な問題ではない。実は、アジアの労働市場において、日本の優位性が低下しているからだ。

 近年、中国人「観光客」の爆買いが話題となっている一方で、中国人「労働者」が実は減少している。外国人技能実習生の受け入れがピーク時だった2008年には、およそ80%が中国人であった 。

 だが、中国経済の急激な発展によって、上海など都市部では建設ラッシュだ。賃金面で日本の優位性はなくなっている。例えば、外国人労働者のうち中国人が7割を超えていた愛媛県の中小企業団体中央会は、愛媛の最低賃金でフルタイム働いた場合の月収は、中国の都市部で働く場合と大差がないと指摘している。また、日本で高い人権リスクを背負いながら低賃金で働くより、中国の都市部で働いたほうが安全ということになっている(『日本経済新聞社』2016年7月18日)。

 現在では、中国の山間部まで募集をかけないと実習生候補が集まらない。2015年時には中国人技能実習生の割合が42%に留まるなど、中国人実習生の数は半分程度に落ち込んでいるのだ。

 また、韓国や台湾の単純労働者受け入れ政策への転換がある。日本の外国人技能実習制度は最長滞在期間が3年であるのに対し、韓国は技術が習得できれば熟練労働者に移行でき、台湾は最大12年まで滞在を延長できる 。

 また、韓国、台湾と日本の賃金格差も、アベノミクスによる円安の進行でなくなった。日本の最低賃金をドル換算すると、月額で約1060ドルで、ソウル、台北の賃金と変わらない水準となった。その結果、高い人権リスクを冒してまで日本で働くよりも韓国や台湾へ行こうと考える出稼ぎ労働者が増えている現状がある。災害や五輪で人材の需要があっても、簡単に集められない状況なのだ。

外国人労働者の人権保護対策が
強行裁決後に「例外」で骨抜きの悪夢

 安倍政権の入管法改正が、現行の外国人技能実習制度の人権侵害問題と、海外との人材獲得競争での劣勢を多分に意識したものだということは明らかだ。

 新たな在留資格「特定技能」を2段階で設けている。「特定技能1号」は、最長5年の技能実習を修了するか、技能と日本語能力の試験に合格する「相当程度の知識または経験を要する技能」を持つ外国人が得られる資格である。滞在期間は通算5年で、家族は認められない。

「特定技能2号」は、さらに高度な試験に合格し、熟練した技能を持つ人に与えられる資格である。1~3年ごとの期間更新が可能で、更新回数に制限がなく、配偶者や子どもなどの家族の帯同も認められる。10年の滞在で永住権の取得要件の1つを満たし、将来の永住に道が開ける。一方、受け入れ先機関が外国人労働者に日本人と同等以上の報酬を支払うなど、雇用契約で一定の基準を満たす必要があることも法案に明記されている。

 菅義偉官房長官は、「外国人が働く国を選ぶ時代になったと認識している。外国人が働いてみたい、住んでみたいと思える国を目指す」と発言し、「(1)自治体における相談窓口の一元化、(2)日本語学校の質の向上、(3)外国人を受け入れられる医療機関の体制整備、(4)保証金や違約金を徴収する悪質な仲介業者の排除」の検討を表明している。

 しかし、安倍首相は国会答弁で再三にわたって「移民政策ではない」と強調している。これは、安倍政権のコアな支持層である「保守派」(第144回)を意識した発言であることは明らかだ。保守派の圧力に配慮すればするほど、「労働力」としての外国人単純労働者受け入れ制度の導入をなんとか通そうと焦り、いつものように国会答弁がいい加減になり、さまざまな問題が何も修正されないまま、強行採決で法律を通してしまうことが懸念される。

 その上、外国人労働者の人権保護対策等は、菅官房長官が言及したように、法律が成立した後に検討されるのだろう。その時は、声が大きいが少数派に過ぎない保守派以上に、外国人労働者を低賃金で使いたい中小企業の支持を受ける自民党のほとんどの議員が、なんだかんだと理屈をつけて、「例外事項」を設けるために動くだろう。人権保護対策は、実質的になにも整備されないまま、新しい制度が動き出すことになる。

野党の追及にも違和感
拙速な「多文化共生社会」の主張

 一方、野党の国会での追及も違和感がある。安倍首相に「これは、移民政策ではないのか?」と迫り続けるのは、いつもの執拗な「揚げ足取り」「失言狙い」の生産性のない言葉遊びだろう。

 より問題なのは、野党が安倍政権に対抗するために、「拙速」に「多文化共生社会」を打ち出してきたことだ。これは、一見結構なことのように思える。だが、実際は「多文化共生社会が整備されていない」ことを理由として、法案に反対するために使われている。野党は、「拙速に進めるべきではない」「なし崩しに外国人労働者が増える」と政府を批判して、「保守派」とともに「同床異夢」で法案撤回を求めている。野党の姿勢は、まるで「極右政党」(第185回)にしか見えないという違和感があるのだ。

 野党が、政府を追及すべき問題はいろいろある。(1)外国人技能実習生の人権侵害問題の実態、それに対する具体的な対応策、(2)実態が不透明な海外の悪徳仲介業者をどう排除するのかの具体策、(3)主な受け入れ先となる建設業の中小企業や農家は、日本人労働者並みの条件で外国人労働者を受け入れられるのか、(4)上記を踏まえた、アジア労働市場における競争力をどう確保するのか、等である。要は、「本当にこんな政策で、外国人労働者が日本に来てくれるのか?」を政府に厳しく問うべきなのである。

 野党が「多文化共生社会」を訴えるのならば、外国人労働者の増加を止めるための詭弁として用いるべきではない。真剣に多文化共生社会の実現を実現する、外国人にも日本人と同等のフルスペックの人権を保障する「移民政策」を考えるべきだ。

 安倍政権が若い世代の支持を得ているのは、いろいろ問題を抱えながらも、現実社会の課題を直視し、それを変えようという姿勢が見える「改革派」と評価されているからだという。それに対して、野党は、「55年体制」「東西冷戦期」のシステムを頑なに守ろうとする「保守」だとみなされ、支持されないのだ。

 外国人労働者の受け入れについては、各種世論調査では国民の約半数が賛成し、特に若い世代では60%以上が賛成し、抵抗が少ないという(『読売新聞』2018年10月29日)。安倍政権が踏み込むことができない「移民政策」を訴えることは、野党が「保守」ではないことを訴える好機だ。それは、日本の「サイレントマジョリティ」である中道の支持を得ることになる(第136回・P.3)。なにも躊躇することはないのではないだろうか。

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

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