ダイハツ不正問題、なぜ起こった? トヨタ豊田会長「抜本的な改革必要」、佐藤社長「ダイハツが世の中に必要か問われる」 認証経験者が解説

2023年12月に世間を揺るがした「ダイハツ不正問題」。約30年前からあったと言われる不正行為の数々ですが、なぜ不正に至ったのでしょうか。過去に自動車メーカーで認証業務に携わった筆者の見解を交えて解説していきます。

ダイハツ不正問題、トヨタ豊田会長、佐藤社長が語る

 ダイハツの「認証申請における不正行為」。
 
 すでに様々なメディアが取り上げていますが、内容が複雑なためユーザーが分かりづらい部分もあります。
 
 過去に自動車メーカーで認証業務に携わっていた筆者が現状を元に解説していきます。

ダイハツの不正問題なぜ起こった?

ダイハツの不正問題なぜ起こった?

 そもそも、「認証」とは何なのでしょうか。

 正式には「型式認証制度」の事を意味し、クルマのナンバーを取得する際、本来は1台1台陸運局で保安基準に適合しているか検査を受ける必要があります。

 この制度はその手続きを自動車メーカーが予め行なうことで、その検査を省略できる制度になります。

 そのために、自動車メーカーは様々なサンプルやデータを用いて国土交通大臣に申請/届け出を行なうのですが、ダイハツはここに不正があったわけです。

 その発端は2023年4月に海外向けモデル、同年5月に日本向けのロッキー/ライズ(HEV車)のポール衝突試験不正(助手席側の試験結果を運転席側として提出)が発覚した事でした。

 そこから外部(第三者機関)による調査が行なわれましたが、全90万件の中の調査結果から25の試験項目において174件の不正行為があることが確認。

 対象車種はすでに生産終了した物を含めて、64車種3エンジン。これが12月20日に発表された内容です。

 これまでに前例のない不正の数に多くのメディアが驚きました。

 ただ、調査報告書(全162ページ)を見てみると、174件のうち147件については基準に合格していない数値を改ざんしたのではなく、何もしなくても基準を合格しているにも関わらず良い数値を記載していたとあります。

 要するに「100点取れるはずだけど、ギリギリで心配なので120点になるようにズルをしていた」と言うわけです。

 残りの27件は様々で、計測結果ではなく目標値の記載(開発途中でデータがなかった)、量産部品が間に合わず別の部品を使用などがありました。

 唯一マズいのは、「キャスト」の側突時乗員救出性能が法規に適合していない可能性がある事(エアバック展開時にドアロックが解除されない)。

 これは今回の発表を待たずにリコールすべきだったと思っています。

 この174件はトヨタと共に再度検証を行ない、そのデータは第三者機関である「テュフ・ラインランド・ジャパン(ドイツの認証機関に日本法人)」で確認しています。

 つまり、保安基準には適合しているので、「今すぐに使用を停止してください」と言う状況ではありません。

 ただ、技術的にはOKでも不正をして型式指定を取ったのは紛れもない事実です。

 不正の内容により、国交省は道路運動車両法に基づく最も重い行政処分となる「型式取り消し」も視野に入れるでしょう。

 現在生産は全てストップしており、国内工場は現時点では2024年1月末まで停止と発表。

 新聞・経済メディアは、「いつ再開なのか?」を気にしていますが、それはダイハツが決める事ではなく国交省の判断(型式取り消しもあり得る)なので、延長の可能性も。

 それに伴い、サプライヤー(一時請けの423社)に今後について(補償も含めた)の聞き取りが始まっているようですが、順番があいまいでまだ連絡が全く来ていない企業も。

 また、販売会社はユーザーに対して個別に対応を行なっているようですが、人員に対して台数が膨大で追い付いていないようです。ちなみに生産停止で納車ができないユーザーには代車の案内も行なっているそうです。

なぜ不正に至ったのか? 認証業務に携わった筆者の見解は? トヨタ豊田会長が語った内容は?

 ここからは自動車メーカー勤務時代に認証業務を担当していた筆者としての見解です。そもそも、なぜこんな事が起きてしまったのか。そのひとつが「短期開発」です。

 一般的には自動車開発は通常3-4年は掛かりますが、2012年に登場した「ミラ・イース」は僅か17か月の短期開発が話題となりました。

 トレンドを逃さず、ライバルよりも先に投入を考えると、それはある意味で正論です。しかし、この成功体験を元に更なる短期間開発が求められるようになりましたが、そこで犠牲になったのが認証部門でした。

 認証業務は開発業務に目途が付かないとスタートすることができません。なぜなら、申請のための正しいデータが手に入らないからです。

 開発は「時間が押し押し」→「でも発売時期は決まっている」→「結果として認証部門にしわ寄せ」と言う感じです。

 更に2014年頃からトヨタへのOEM供給(国内向けのみならず海外向けも増加)が増えた事もあり、業務はパンク。そんなカツカツの状況の中で、「型式認定が取れなかったら?」、「不合格だったら?」と言う強烈なプレッシャーがあったのでしょう

 ちなみに型式認証を行なうための試験を大きく分けると、国交省の立ち合い試験と社内試験のふたつに分かれます。社内試験は国交省から信頼されているが故に行なわれており、いわば「性善説」で成り立っていますが、それも悪用してしまったわけです。

 また、試験を行なう環境にも少々問題があったように感じます。ダイハツの技術部門は大阪部池田市の本社にありますが、車両・エンジンの各種性能評価チームは滋賀県竜王町にある滋賀工場の一角に存在します。

 ここには役員が訪れる事はほとんどなく、現場任せ。ある意味「陸の孤島」状態で、担当者は「どこかおかしい?」と思いながらも、目の前の仕事に追い込まれ、やむにやまれず不正行為に及んでしまった可能性があるようです。

 つまり、本来の認証業務はクルマ開発における社内の「最後のフィルター」のような役割を担っていますが、ダイハツはそれが機能するどころか“スカスカ”だったと。

ダイハツ工業の代表取締役社長 奥平総一郎氏

ダイハツ工業の代表取締役社長 奥平総一郎氏

 2023年12月20日の会見でダイハツの奥平総一郎社長は「増加する開発プロジェクトを短期日程で進める中で、経営陣・管理職が現場の負担や辛さを十分に把握せず、困った時に声を上げられない職場環境、風土を放置してきたことにあると考えています」と語りましたが、まさに筆者が思っていた通りでした。

 この会見には親会社のトヨタから中嶋裕樹副社長も同席。「弊社は2013年以降、OEM供給車を増やしています。これらの開発がダイハツの負担となっていた可能性がある事、そしてダイハツにおけるこのような認証業務の状況を把握できていなかった事について深く反省をしております」と語っています。

 新聞・経済紙はこの言葉から、「トヨタにも責任がある」、「親会社であるトヨタのプレッシャー」などと伝えていますが、筆者はこのように分析しています。

 トヨタはダイハツの小型車づくりのノウハウ・経験を高く評価して開発委託をしていますが、その評価が逆にダイハツの「コンパクト系モビリティカンパニー」としてのプライドを引き上げてしまい、結果として無理難題に対して「無理」と言えない企業体質を作ってしまった事に対して、中嶋副社長は“反省”と言ったと思っています。

 更に言うと、トヨタ向けのOEMモデルもダイハツが認証業務を担っており、「そこをトヨタは追いかけられるか?」と聞かれると、それも含めて委託しているので不可能でしょう。
 
 会見ではとある新聞社から「なぜ、豊田会長や佐藤社長が出てこないのか?」と言う質問が出ていましたが、本来はダイハツのみでやるべき会見にサポート役として技術トップである中嶋副社長が同席。

 筆者は残念ながらダイハツだけではあの状況で上手く説明できるとは思えなかったので、「トヨタの中で最も適正な人が参加してくれた」と考えています。

タイでのレース参戦会見に登場したモリゾウ選手(豊田章男会長)

タイでのレース参戦会見に登場したモリゾウ選手(豊田章男会長)

 実はタイで豊田会長にこの件について話を聞く機会があり、質問をするとこのように答えてくれました。

「まずはダイハツ車に乗るユーザー、納車を待つユーザー、事態を知らされていなかった販売店スタッフやダイハツ従業員に迷惑をおかけして本当に申し訳なく思います。

 本当はもっと早く公表したほうが良かったのですが、トヨタがダイハツの中に入って膿を出し切る覚悟で調査を行なったことで時間が掛かってしまいました。

 原因は色々ありますが、ダイハツは異常があってもアンドン(生産ラインで異常時にアンドンを引っ張るとラインが止まるシステム)を引けなかった。

 特に開発/認証チームはそんな環境だったと想像しています。私が社長になりアメリカでのリコール問題をキッカケにクルマづくりの考えを改めました。

 優先順位は1.安全2.品質3.量4.原価。安全/品質を最重要視することは自動車会社としては当たり前ですが、それを徹底するには経営陣が従業員としっかり向き合わなければダメですが、ダイハツはそれができていなかった。

 今後は別の会社を作るくらいの気持ちで抜本的な改革が必要だと思っています」

トヨタ佐藤社長も語ったダイハツ不正問題

 また、とある機会に佐藤社長はダイハツの件に関して語ってくれました。

「毎日ダイハツと動いています。

 まず、心からお客様にお詫びし、正しい仕事ができる会社になるように膿を出し切るつもりです。

 トヨタも同じ気持ちで向き合っています。

 ダイハツが世の中に必要としていただけるかどうかが問われていると思っています。

 全力で取り組んでいきます」

 佐藤社長は社長就任前にダイハツの社外取締役を勤めていたので思い入れも強いようで、記者会見などは中嶋副社長に任せ、自ら問題解決にむけて最前線で動いているそうです。

佐藤社長は社長就任前にダイハツの社外取締役を勤めていた

佐藤社長は社長就任前にダイハツの社外取締役を勤めていた

 ちなみにダイハツは2023年12月22-25日に開催された「福岡モビリティショー2023」に加えて、2024年1月12-14日に開催される「東京オートサロン2024」への参加を辞退。

 この状況では仕方ないと思いますが、2022年から復帰したモータースポーツ活動はどうなるのか。

 トヨタと同じく「道が人を鍛え、クルマを鍛える」の信念でもっといいクルマづくりのために参戦している事を考えると、色々言う人は出てくると思いますが止めないで欲しいと願っています。

 今回のダイハツがやった事はそう簡単に許される事ではありませんが、信頼回復に向けて生まれ変わる事はできるのか。

 そこは感情的にならず冷静に見守っていくつもりです。クルマ屋はクルマで結果を出すしかないので。

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