「プリンスの暴走」に見るサウジアラビアの不都合な真実

■日本人が知らない「国際ニュースの核心」

激動の国際情勢を、一段深く理解したい。そのためには、世界史の知識が欠かせない。この連載では、世界史を大きなストーリーとして捉える見方でおなじみのカリスマ塾講師・茂木誠氏が、現在の国際情勢の歴史的背景を、キーワードで解説する。

■イランとサウジアラビアはなぜ対立を続けるのか

民族間・宗教間の紛争がいまだ続く中東。中東の情勢は複雑でわかりにくいと感じる読者も多いのではないでしょうか。

中東を理解する視点として、イランとサウジアラビアの対立があります。両国は2016年から現在まで国交断絶が続いています。

サウジアラビアがシーア派の宗教指導者を処刑したことにイラン国民が反発し、テヘランのサウジ大使館を襲撃したことが引き金になりました。

両国の対立の背景にあるのは、宗派の違いです。イスラム教には、シーア派とスンナ派があります。シーア派は、イスラム教を始めた預言者・ムハンマドの血統を重視し、彼の12人の子孫を指導者とする立場を取ります。

シーア派を代表する国がイランです。スンナ派は「預言のすべてはコーランに書かれている」と考え、血統より教典を重視します。スンナ派は、アラブ諸国で多数派を占め、その代表格がサウジアラビアです。

このような宗派の対立はあるものの、両国はずっと対立してきたわけではありません。

サウジアラビア王家であるサウード家は、20世紀前半からアメリカの石油資本に石油を掘らせ、膨大な利益を得てきました。サウジアラビアが親米国家である理由はこれです。また、イランも1970年代まで、ソ連の中東進出を防ぐ防波堤の役割を果たしてきた親米の王政国家でした。

両国の対立が鮮明になったのは、79年に起きたイラン革命以降。この革命は、近代化による富の不均衡に対する反発が、「イスラムの伝統に戻るべき」というイスラム主義の台頭を招いたことが背景にあります。イランにシーア派革命政権が誕生すると、ペルシャ湾岸諸国のシーア派がこれを支持。アメリカとべったりのサウジアラビアを批判し、イランへなびくカタールのような国も現れました。

そればかりか、サウジアラビア東部のシーア派住民がイランに寝返る可能性も出てきました。油田が集中するこの地域を失えば、サウジアラビアには砂漠しか残りません。サウジアラビアがイランとの対立姿勢を強める裏には、宗派対立に加え、石油の奪い合いがあったのです。

■MBSを消して得をするのは誰か?

この状況に危機感を覚え、サウジアラビアの改革を進めているのが、高齢のサルマン国王に代わりこの国を治めるムハンマド・ビン・サルマン王子(通称MBS)です。オイルマネーに胡坐をかいてきた王族たちを排除するなどの粛正を断行してきました。当然、MBSに不満を持つ王族も多くいます。

サウード家の腐敗を暴いてきたトルコ系サウジアラビア人ジャーナリストであるジャマル・カショギ氏の殺害事件。同氏は結婚届を出しに行ったトルコのサウジアラビア領事館で消息を断ち、トルコ政府がサウジ当局による殺人だ、と発表したのです。サウジアラビアの国際的な立場は悪くなり、同国を擁護するトランプ大統領への反発も強まっています。

誰が殺害を命じたのかは明らかになっていません。MBS黒幕説もありますが、なぜ証拠が残る領事館でわざわざ殺すのか、疑問が残ります。

むしろ、MBSを陥れようとする勢力の陰謀である可能性が高いでしょう。カショギ氏殺害によって、サウジアラビアの深刻な内部対立が明らかになり、米国のサウジ離れも進みます。サウジアラビアの苦境を一番喜んでいるのは、イランでしょう。

茂木 誠(もぎ・まこと)
駿台予備学校世界史科講師
東京都出身。駿台予備学校やネット配信のN予備校にて世界史の講師として多数の受験生を指導している。受験の参考書のほか、『経済は世界史から学べ!』(ダイヤモンド社)『マンガでわかる地政学』(池田書店)『ニュースの〝なぜ?″は世界史に学べ』(SB新書)『世界史につなげて学べ 超日本史』など著書多数。(『THE21オンライン』2019年07月03日 公開)

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