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リニア中央新幹線の乗り心地は「浮く」のか「沈む」のか?

 リニア中央新幹線は「浮く」か「沈む」か?

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 開業できるかできないか、という話ではない。乗り心地の話だ。

 リニア中央新幹線は磁力で浮上する。ただし、停車中と低速時はゴムタイヤで走行する。これは飛行機と同じ。空高く飛ばないけれど、走行中の車体は空中を飛んでいる。そこで疑問が生じる。発車して、低速走行から浮上走行に切り替わり、車輪は車体に格納される。つまり地上からの支持力を失う。その瞬間はどんな挙動だろう。ふわっと浮くか、それとも車体の重みでちょっと沈むか……。

実験線を走行中のL0系、笛吹市の花鳥山一本杉公園にリニア撮影用の展望台がある

 答えは「どちらでもない」。航空機のような高揚感もなく、地面に這いつくばるような高度低下もない。タイヤ走行時の音が消え、風切り音が増える程度。そして列車は速度をどんどん上げて、最高時速500km/hに達する。それでも乗り心地としては時速約300km/hの新幹線と変わらない。騒音は新幹線よりちょっと高く、航空機と同レベルだ。隣の席と会話できるし、前後の席の話し声も判別できる。

時速500km/hで「普通」が凄い

 あまりにも普通で拍子抜けした。リニア中央新幹線「らしさ」とはなにか。いや、そもそも私はリニア中央新幹線に何を求めていたのだろう。もっと未来感に満ちた「新しい体験」があると思っていた。しばらくして「普通」であることの凄さを理解した。地上で、時速500km/hで、新幹線と同じ乗り心地。これがすごいことだった。

 リニア中央新幹線が品川~名古屋間で営業運転を開始したら、このスピードでホットコーヒーを飲み、駅弁を食べ、ビールを飲んでくつろげる。約40分では熟睡する時間はないけれど、居眠りはできる。ただし、それは音速に近い航空機でもできることだ。

 リニア中央新幹線は鉄道というより、航空機に近い乗りものだ。減速し、車輪走行に移るときのショックと減速感も飛行機と同じ。気圧の変化で耳ツンっぽくなるところも。

 ただし、航空機に対して圧倒的に優位なところがある。巨大な滑走路も不要だから、都市の真ん中で発着できる。もともと地上の軌道を走るから墜落しないし、従来の鉄道と同じ運行システムを採用したから追突も衝突もない。したがって、シートベルトが要らない。この開放感はありがたい。

 最新技術を使っているのに、新しさを感じない。先進技術はこうでなくちゃ普及しない。2015年、リニア中央新幹線山梨実験線で開催された一般試乗会に参加したときの感想だった。

新型車両と旧型車両の違い

 あれから5年が経った。2020年10月。リニア中央新幹線の報道関係者試乗会に参加した。今回は改良型試験車を使った初の報道試乗会だ。

 5年前に乗った試験車両は「L0(エルゼロ)系」という形式で、製造番号は900番台。9は国鉄やJRで試験車両に与えられる数字だ。営業運転を見据えて、客室設備も整えた車両として16両が作られた。実際の営業に使う12両編成の走行試験や、短い2編成に組み替えてのすれ違い走行の試験も実施した。

 改良型も「L0系」だ。ただし製造番号は950番台とした。つまり、クルマに例えると「基本設計を維持したマイナーチェンジ版」という位置づけになっている。外観上の大きな違いはないけれど、よくみると、先頭車の形が違う。

 900番台は前方へ向かって板を薄くしていく形だ。ヘッドライトと監視カメラは最先端にある。950番台は中央部を高く「鼻筋」を通した。最先端部もカマボコのような丸みがある。ヘッドライトと監視カメラは後退し、新幹線の運転席にあたる部分にある。950番台はN700系のセンスを取り入れたようにも見える。先頭形状の変化によって、空気抵抗を約13%低下させ、車外騒音も低減したという。

 内部の変化として、車内で使う電力の供給方式が変わった。リニア中央新幹線は地上設備と接触しないため、架線や軌道設備から電力を取り込めない。そこで900番台はガスタービン発電機を使っていた。最先端の磁気浮上列車が内燃機関を持ち、わずかながら排気ガスも出す。煙を出すリニア新幹線とは腑に落ちない方式だった。

排ガスのない、未来の列車

 これに対して950番台は「誘導集電方式」を採用した。簡単に言うとスマホや電動歯ブラシで採用された「非接触充電器」のような仕組みだ。軌道上に送電用のコイルを敷き、車両側に受電用のコイルを搭載する。送電用コイルに電気を流すと磁界が発生し、受電用コイルは磁力で電力を発生させる。排ガスのない、未来の列車らしい姿になった。

 リニア中央新幹線は、浮上用の磁力、走行用の磁力、発電用の磁力が発生する。磁力だらけだけれども、客室は磁界から遮断される。乗車口は堅牢な金庫の入口みたいだ。身体や電子機器に影響はない。もっとも、磁気健康器具のような効果も期待できないが。沿線への磁気影響も基準値以下だという。

内装と座席はフルモデルチェンジ

 900番台は16両作られた。これに対して950番台は2両、先頭車と中間車が1両ずつだ。試験走行にあたって、900番台の7両編成のうち、東京側の2両を950番台に交換した。先頭車が7号車、中間車が6号車だ。報道試乗会では新型車両1往復、旧型車両1往復の乗りくらべができた。

 客室はかなり変わった。900番台の内装は従来の新幹線車両とほぼ同じ。950番台は7号車と6号車で天井、照明、荷棚などが異なる。7号車は天井に膜素材を使い、間接照明を採用して温かみのある空間をめざした。6号車は天井にガラス素材の吸音パネルを採用し、昼白色LEDの直接照明で明るさを演出した。走行区間にトンネルが多いため、明るさにこだわっているようだ。

 座席は簡素で、新幹線車両というよりも、航空機の軽量型エコノミークラスのようだ。座面、背もたれとも薄く、構造全体でクッションの役目を兼ねる。車両の挙動を体感しやすいともいえる。これに対して950番台は背ずりにやや厚みがあり、頭部がバケット状になったため、高級感が出た。背もたれは900番台がスポンジだけ、950番台はバネを追加した多層構造になった。リクライニング機構も900番台の背ずりだけから、950番台は座面もスライドする。

背ずりを高くしてプライベート感UP

 950番台は座席のサイズも大きくなった。幅が22mm、座席奥行きが40mm、背ずり高さが140mm拡大された。高い背ずりとバケット状の頭部デザインによって、プライベート感が増したと思う。私が気に入ったところは、2座席の間にある肘掛けだ。先頭車の先端と同様に中心線が盛り上がり、左右のどちらからも半分ずつ使える。これなら取り合いにならず、意地の張り合いも遠慮も要らない。今の新幹線などでもすぐに採用してほしい。

 座席の下には大きな空間ができた。フレーム構造を見直し手荷物を置く場所を作ったという。航空機の機内持ち込みサイズに対応しているという。荷棚に荷物を載せる動作は身体への負荷が大きいから、これは良いアイデアだ。この空間を設けたため、7号車の荷棚空間は小さくなり、着席時の頭上空間が広くなっている。

 背ずりを高くしてプライベート感を演出するアイデアは、小田急の地下鉄直通ロマンスカーMSEでも採用された。座席下の荷物スペースのこだわりは、小田急の最新型ロマンスカーGSEでも採用されている。過去をさかのぼれば、東海道新幹線0系電車の開発にあたり、小田急電鉄ロマンスカーSEを東海道本線で走らせる実験が行われた。偶然だろうけれど、そんな昔話を思い出した。

写真=杉山淳一

さらなる改良で“未来の乗り物”リニア新幹線はどこまで進化したのか へ続く

(杉山 淳一)

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