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「年金返せ」は実現可能!? 日本の歪んだ社会保障を考える

今回のテーマは年金改革論です。最近では「老後の不安を感じる」が年々増加し続け、約9割に達したという調査結果もあります。その背景には年金問題もあると思います。受給開始年齢引き上げの噂もありますし。

2019年には「2000万円は貯めてね」に端を発した「年金返せデモ」もありました。“年金返せ"はちょっとムリだろうと思う方が多いかと思いますが、実はそのような年金改革論も存在したのです。詳しく見ていきましょう。

2002年の経済同友会の年金改革論とは

“年金返せ"を実現する年金改革論は、2002年に発表された経済同友会のプランです。2004年の「年金百年安心プラン(マクロ経済スライド導入)」と銘打った年金改革の数年前から、新聞社などのメディアや関連団体等が様々な年金改革論を提案しています。経済同友会のプランも、そのうちのひとつです。

経済同友会案の概要は以下となります。まず基礎年金について。

「現行の基礎年金部分を廃止して、全額税方式化とし、ナショナル・ミニマムを保障する“新基礎年金制度"を制定」。試算として年額84万円(月額7万円)としています。ちなみに現在の基礎年金満額が年額約78万円。その水準を年金受給者全員に保証するカタチとなります。

続いて厚生年金部について。

「厚生年金保険は持続不可能であり私的年金への移行の道筋をつける(厚生年金保険は清算の意)」とし、「厚生年金保険の清算・払戻しは厚生年金積立金と国債発行によって複数年をかけて実施」としています。

どうでしょうか。たしかに「年金返せ」の実現です。

現在の年金議論はもはや迷宮かも

ここから現在の日本の年金議論を少し俯瞰してみます。ご存じの通り、現在の制度は現役世代が年金受給世代を支える賦課方式です。社会保険方式が採用されていますが、本質的には賦課方式である以上、社会保険方式と言っても税方式と同義です。

よく言われる「年金の世代間格差」の問題ですが、これも賦課方式である以上、本来的にはやむを得ないことです。たとえば消費税率が上がる際に、世代間格差とは普通、言いませんよね。この辺が、日本の年金議論が迷宮化しているところだと思います。

現在の進歩的かつ代表的な年金改革論は、賦課方式から積立方式への改革でしょう。正確に言えば“積立方式の復元"ですね。日本の年金制度は積立方式が、いつの間にか賦課方式に変わってしまったのですから。もともとは積立方式だからこそ「年金積立金」が存在するわけです。

積立方式復元のネックは、いわゆる「年金債務超過」です。これは、過去期間に対応した給付債務に巨額の積立不足が発生していることです(経済同友会案では330兆円と試算)。解決策として以前は「二重の負担論(債務返済と積立)」もありましたが、現在は国債等の発行によって複数年をかけて実施する考え方が主流です。

ただ、個人的には、この積立方式復元案はピンと来ません。理由としては、経済同友会案にも記載されている「積立方式による報酬比例年金であれば、民間でも提供可能であり、国が提供する必然性はない」からです。そもそも “小さな政府"を志向する多くの人たちが、なぜ年金積立論を主張するのか理解に苦しみます。

全世代型社会保障というキーワード

さて、ここから本題です。なぜ忘れ去られた“幻の経済同友会案"を持ち出してきたかということです。それは、現在の日本の社会保障論のキーワード「全世代型社会保障」が関係しています。

「社会保障費用統計」(国立社会保障・人口問題研究所、2016年度)によると、日本の「社会保障給付費」総額は116兆9,027億円。内訳は「年金」が構成比46.5%、「医療」が同32.8%、「福祉その他」が同20.6%。

この3つの分類を統合して政策分野別で見ると、高齢者対象(65歳以上)が46.6%(直接個人に帰着しない支出まで含めた社会支出を母数とした構成比)となります。この比率は、諸外国と比べてかなり高い。全世代型社会保障論にはこれを是正しようという狙いがあります。

社会保障の入門書などでは、日本の現役世代の社会保障は企業が肩代わりしてきたという記述をよく見かけます。端的に言えば“終身雇用"がその役割を担っていたということです。

それが現在では、経団連が「終身雇用はもうムリ」と明言していますし、日本政府もジョブ型雇用への変革を推奨しています(たとえば昨年末の経済産業省「DXレポート2」でも言及されています)。

これらが「全世代型社会保障論」が浮上している背景です。別にムズカしい話ではありません。雇用流動化の進んだ先進諸外国では、当然、現役世代支援の比重が高くなっています。日本も、そのような社会にしようというだけの話です。

日本の年金議論の根本的な誤り

全世代型社会保障への筋道を考えてみます。大別すると、2つの方法論が存在します。ひとつは、現在の社会保障の枠組みを維持しつつ、現役世代向け施策をプラスする方法。当然、現在より高負担になりますよね。もうひとつの方法は、現在の社会保障の総額を変えずに、その内容を大幅に組み替える方法。

本来的には、この方法論の“2択”を詰めるべきなのだと思います。しかし、日本は常に本質的な議論を避ける傾向がありますから。個人的には日本において前者の高負担志向が果たして合意形成できるのか、少しギモンです。そして、後者の内容組み替え案を考えるならば、経済同友会案は非常に示唆に富んでいると思えるのです。

経済同友会案では、年金制度を清算した後の“その後"には触れていません。ただ年金負担(個人および企業負担)の全額とはいかなくても、ある程度を社会保障税等の名目で徴収し、新たな制度を構築するということは可能なはずです。

別に全部を現役世代に振り分ける必要はありません。高齢者や現役世代など、世代を超えて、求められるカタチに再設計するわけです。

日本の年金議論は、これも日本のお家芸ですが、年金問題に終始して部分最適化の話ばかりしています。本来は社会保障の全体最適化のなかで、年金制度を考えるというスタンスも必要な気がします。日本の社会保障費の約半分が、年金なのですから。

参考資料

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