"世界の下請け"に変わった日本企業の末路

バブル崩壊以後、日本メーカーの役割は激変した

世界的にスマートフォンの販売が伸び悩んでいる。特に、アップルのiPhoneの需要低迷は顕著だ。わが国の企業にも無視できない影響が出始めている。

たとえばシャープは、亀山工場(三重県亀山市)で手がけていたiPhone用センサー部品の生産を、親会社である鴻海(ホンハイ)精密工業の中国拠点へ移したと報じられている。このため亀山工場では3000人以上の外国人期間労働者を減らしたという。

この変化は、必ずしもシャープ固有の問題ではない。重要なポイントは、わが国製造業が担う役割が変化していることだ。

2018年3月10日、中国・上海の展覧会に出展したシャープのブース。(写真=Imaginechina/時事通信フォト)

1990年代初頭の資産バブル(株式と不動産の価格が高騰した経済環境)の崩壊まで、テレビなどを中心にわが国企業の競争力は高かった。1980年代後半、世界の半導体市場ではわが国電機メーカーが米国を追い抜き、40%程度のシェアを誇った。しかし、バブルの崩壊とともに、競争力は低下した。バブル後の資産価格の急落と経済の低迷に直面し、電機メーカーなどは構造改革を進めるよりも、現状維持を重視した。

世界経済の構造変化に適応できなかった

一方、半導体市場では台湾・韓国企業のシェアが高まった。2000年代に入ると、買収やIT関連技術の普及により中国企業の競争力も高まってきた。テレビやパソコン事業から撤退する国内企業が増えていることを見ると、わが国の企業は世界経済の構造変化に適応できなかったといえる。身の回りを見ても、スマートフォンをはじめ海外メーカーの製品が増えている。

米国ではビジネスモデルの変革が進んだ。アップルは、コンピューターメーカーというよりも、製品のコンセプト、デザイン、規格などを創造する企業としての存在感を強めた。アップルは、台湾企業であるホンハイの中国子会社(フォックスコン)にiPhoneなど完成品の組み立てを委託している。

その中で、わが国の企業はiPhoneという完成品に必要な部品などを提供する役割を求められてきた。シャープは液晶パネルやセンサー関連部品のサプライヤー、ソニーは画像処理センサー(CMOSイメージセンサー)などを手掛ける半導体メーカーとしての存在感が強くなっている。

「下請け的な役割」が強くなってきた

わが国の製造業の役割は、消費者向けの完成品よりも、海外の企業向けの部品・部材ビジネスを主とするものに変化してきた。踏み込んでいえば、世界のメーカーの下請け的な役割が強くなってきたといえる。そのため、国内企業の業績は完成品の需要動向に左右されやすい。わが国の株式市場を“世界の景気敏感株”と評する専門家がいるのはこのためだ。

見方を変えれば、わが国の企業は、新興国企業などの台頭が進む中で技術力を活かして活路を見いだしてきたといえる。企業の成長のためにそれは重要だ。さらに、新しい製品を生み出すことができれば、わが国の製造業の存在意義は大きく変わる可能性がある。わが国の企業の競争力向上には、新しい最終製品を生み出す=プロダクトイノベーションが大切だ。

なぜ、最終製品の創造が重要かといえば、それは、人々に夢を与えることができるからだ。

iPhoneの登場以後、パソコン出荷台数は減少傾向に

わが国の企業が生み出してきた製品を振り返ると、人々の生活を劇的に変えた商品が多い。ソニーのウォークマンはその典型だろう。また、トヨタのハイブリッドカーは省エネと静かな車内を実現することで、カーライフを一変させた。

これまでにはない新しいヒット商品が登場することによって、わたしたちの生活様式は大きく変わる。アップルのiPhoneの登場もよい例だ。iPhoneの登場とともに、パソコンからタブレット型デバイスへの移行が進んだ。その結果、2017年まで6年続けて世界のパソコン出荷台数は減少している。

ヒット商品の創造は、需要の創造と同義である。それが実現できれば、経済成長は可能だ。反対に人々が欲しいと思ってしまうような最終製品が生み出されないと、いずれ需要は飽和してしまう。そうなると、企業業績や経済の停滞懸念は高まるだろう。

iPhoneの販売が伸び悩んでいることを見ると、すでにスマートフォンはその局面を迎えたということだろう。その状況下、わが国の電機関連企業などの業績懸念は高まりやすい。シャープはその一例と考えるべきだ。

アップルの株価が下がり、アマゾンが持ち直す理由

リーマンショック後の世界経済を考える上で、スマートフォン登場のマグニチュードは大きかった。スマートフォンという新しい商品の創造=イノベーションは、さまざまなIT技術の実用化(SNSなど)を可能にし、波及需要を生み出した。それによって、中国ではモバイル決済が急速に普及した。

反対に、スマートフォン販売が頭打ちとなる中、これまでのようなペースで世界経済の回復が続くとは言いづらくなっている。その中で、わが国企業が成長を目指すには、各企業の独自の取り組みとして、新しい発想をはぐくみ、それを基にして新商品の開発を進めることが欠かせない。

今後の普及が注目されるのが、IoT(モノのインターネット化)に関する機器だ。10月以降の世界的な株価下落の中で、アップルの株価下落は顕著である。その一方、アマゾンの株価には持ち直しの兆しがうかがえる。両社の違いは、スマートスピーカーのシェアにある。アマゾンのエコーは世界のスマートスピーカー市場でシェアトップだ。グーグルや中国企業との競争も激化している。アップルはこの動きに乗り遅れている。

さらにその先の展開を考えると、人工知能(AI)を搭載した家庭用ロボットの実用化がある。それは、 「ドラえもん」が家にやってくる時代といってもよい。もし、人とコミュニケーションを行い、自律的に作業するロボットが家にあればどうだろう。家事などに割く時間が減り、より多くの時間を趣味や自己研鑽に回せるようになる。そうした夢を現実とするのがイノベーションだ。わが国の企業には、イノベーションを生み出す豊かな発想が求められている。

真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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