コロナ禍を越え、日本人は戻るのか 常夏のグアムのいま
グアムの観光名所タモンビーチ。日本人観光客の姿はほとんど見られなかった=グアムで2023年2月6日、木下翔太郎撮影
新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5月8日に「5類」へ引き下げられる。このタイミングで海外旅行への機運が高まることに、旅行業界が強い期待を寄せている。「行きたい海外旅行先」トップ10常連の米領グアムも旅行者の増加が見込まれる観光地の一つ。英語を学ぶ高校生らの修学旅行先としても人気が高かった常夏のグアムを記者が2月上旬に訪ね、現地の状況や課題を探った。【木下翔太郎】
戻らぬ日本人観光客
リゾートホテルが建ち並ぶグアム島随一の繁華街・タモン地区では、カップルがレストランのテラス席で食事をしたり、家族連れがショッピングモールで買い物をしたりしていた。
日本語の看板を掲げる店も目立つが、日本人とおぼしき姿はちらほら見かける程度だ。地区の北側に向かって歩いてみると、真っ白な砂浜とエメラルドグリーンの海が目に飛び込んできた。タモンビーチだ。しかし、ここでも格安航空会社(LCC)がグアム便を増やしている韓国からの観光客は多いが、日本人はほとんどいなかった。
国内旅行業者約1100社でつくる一般社団法人「日本旅行業協会」(JATA)が2月上旬に実施したグアムへの視察に記者も同行した。
グアムは年間を通して温暖な気候で、成田空港や関西国際空港などから3時間半ほどで行けることから「安近短」の観光地として日本人に人気だ。コロナ禍前の2019年にグアムを訪れた来島者約166万6000人のうち約40%の約68万4000人が日本からだった。
だが、グアムでコロナの初感染が確認された20年3月にロックダウンが実施されると、観光客は激減。20年に訪れた日本人は19年比約80%減の約14万4000人、21年はさらに減少し約4000人にまで落ち込んだ。22年には日本の水際対策が緩和された影響もあり、2万3000人ほどが訪れたが、コロナ禍前の19年の3%程度に過ぎない。
一方、韓国からの22年の来島者は19年の約25%にあたる約19万3000人と、回復の兆しが見られる。その中でも、多くの日本人観光客がやってくる光景を待ちわびている現地経済界の人たちがいる。
「観光客向けの店にはまだ休業中のところもある。私たちの店もそうだ」。日本で入手しにくいブランドのアクセサリーや洋服を扱うセレクトショップ「バンビーノ」オーナーの富田歩美さん(44)はそう話す。コロナ禍前は客の約90%を日本人が占めていた。22年夏に日本とグアムを結ぶ直行便が増便されたため約2年半ぶりに再オープンしたものの客足は鈍く、約1カ月で再び休業した。
富田さんは「再起のために日本からの観光客を待っている人は多い。多くの日本人にグアムの魅力を感じてほしい」と言い、今春には本格的に再オープンできるように準備を進める。
グアムのレオンゲレロ知事はJATAの視察団に「グアムは安全だ。すぐにでも多くの日本人が来てくれることを願っている」と話す。グアム政府観光局は日本人観光客を呼び込むために写真共有アプリ「インスタグラム」を使って、恋人岬などの「インスタ映え」スポットを日本語で紹介するなど力を入れている。
修学旅行には壁も
海外に行って、日本に帰国する際の水際対策は緩和されたが、まだコロナ禍前のようにはいかない。以前義務付けられていた現地出発前72時間以内の陰性証明は不要となったが、3回のワクチン接種証明の提出が条件だ。またグアムに到着した時も、米本土と同じく2回のワクチン接種証明が求められる。
このため、修学旅行・研修のように集団で渡航する「教育旅行」は一般の旅行よりハードルは高い。
公益財団法人「全国修学旅行研究協会」によると、19年度に海外への修学旅行・研修を実施した高校は約3200校(参加生徒約21万7000人)あり、グアムにも19年度は64校から約8200人の生徒が訪れた。現地の住民と交流したりマリンスポーツを体験したりするプログラムが人気だったという。
しかしコロナ禍で20、21年度は、グアムを含めた海外への修学旅行・研修はゼロだった。
ある旅行会社幹部は「グローバル教育のニーズは冷めておらず学校も生徒を海外に出したいと考えている。しかし、参加者全員を行かせるにはワクチン接種や陰性証明がネックとなり、再開に踏み切れていないところが多い」と漏らす。
JATAの視察団はグアムのテノリオ副知事と面会し、日本からの教育旅行について「費用面などで生徒への支援があると非常に助かる」と求めた。テノリオ副知事は「教育旅行の活性化につながるプログラムを推進したい」と応じた。
JATAで教育旅行を担当している福田叙久(のぶひさ)理事は取材に「多くの学校は修学旅行の行き先を前年度の12月までに決める。24年度には回復できるよう国際交流の土壌を再び作っていきたい」と話した
水際対策は変化
政府は2022年、新型コロナウイルスの水際対策を段階的に緩和した。
22年3月、それまで原則禁止だった外国人の新規入国はビジネスや留学生など観光目的以外に限って容認した。6月には外国人観光客もツアー限定で受け入れを再開。同時に入国時の検査や自宅待機も3回のワクチン接種証明があれば免除した。
また、現地出発前72時間以内の検査による陰性証明の提出も義務付けられていたが、9月に3回のワクチン接種証明があれば不要となった。10月には入国者数の上限を撤廃し、外国人の個人旅行とビザなし渡航も解禁された。
現在も3回のワクチン接種証明あるいは陰性証明がなければ入国できないもののインバウンド(訪日客)は回復しつつある。
一方、22年12月の状況をみても日本からのアウトバウンド(海外旅行客)を含む出国した日本人の数はコロナ禍前の19年12月の25%程度にとどまっている。
JATAの高橋広行会長は「円安などの影響もあるが、コロナ禍が長引いたことが大きい。『海外旅行をしてもいいのか』と日本人は特に気にする傾向にあり、そのマインドが(低迷の)根底にある」と指摘。5月8日の新型コロナの「5類」引き下げに向けて、「そうしたマインドから解き放たれたら、海外旅行の復活につながるのではないか」と期待している。
03/19 10:00
毎日新聞