北海道地震:観光立国、天災の試練 訪日敬遠「情報不足」

普段は記念写真を撮る観光客でにぎわう小樽運河。外国人観光客の減少で人もまばらだった=北海道小樽市で2018年9月14日午後0時11分、竹内幹撮影

 国内有数の人気観光地を抱える北海道は、地震の影響で震源地から離れた観光地も軒並み閑散としている。観光振興の目玉にしていた外国人旅行客のキャンセルも相次いでおり、重要な産業の一つである観光業の失速で地域経済全体が冷え込むことに懸念が広がる。地震の直前に列島を直撃した台風21号でも関西国際空港が閉鎖され、関西各地で外国人観光客が姿を消した。政府は2020年までに訪日外国人(インバウンド)4000万人の目標を掲げ、「観光立国」の実現を目指すが、災害大国の課題を突きつけられた。

 地震発生直後の今月8、9日、民間調査会社サーベイリサーチセンター(東京)は、札幌市内の観光案内所で訪日外国人185人に聞き取り調査を実施した。

 地震発生時に困ったこととして、「言葉が分からず、どこに行けば良いか分からなかった」(29.2%)、「多言語での災害・交通・避難情報がなかった」(18.4%)など外国人ならではの悩みが挙がった。

 地震発生時の希望には「インフォメーションセンターを充実してほしい」(42.2%)、「母国語のマニュアルを配布してほしい」(38.4%)などが挙がり、災害情報のスムーズな伝達が課題に浮かんだ。現地で調査に関わった同社の鈴木敬さん(38)は「ホテル到着時に事前説明があるかどうかによって発災後の行動は変わる。施設側の準備は不可欠」と話した。

 関西各地でも、台風21号の影響が訪日外国人でにぎわう観光地に影を落とす。昨年初めて訪日外国人が1000万人を突破した大阪では、大阪城天守閣(大阪市中央区)の入館者数が今月1~12日は昨年同時期より約35%減の約5万人となった。担当者は「館内も日本人の割合が目立つ」と話す。

 相次ぐ災害で政府は、実際の被害以上にリスクがあるとのイメージが海外で持たれ、今後の訪日客に影響が出ることを懸念する。海外では今回の地震や台風のニュースが東日本大震災の映像と合わせて放送されたり、誤った情報が発信されたりしたケースがあったという。

 日本政府観光局は地震発生翌日の7日から、北海道の地震と台風21号に関する重要情報をホームページに英語や中国語などで掲載。「今回の地震で津波の危険はない」と情報発信を始めた。さらに英語、中国語、韓国語で外国人旅行者からの問い合わせに24時間対応する電話窓口を設けるなど対応に追われた。

 観光立国実現に向け、どのような対策が必要か。北海道大観光学高等研究センターの石黒侑介准教授(観光地経営論)は、「必要以上にリスクを感じさせない情報発信をすべきだ」と指摘する。「起こりうる災害の情報は事前に知らせる。交通手段を失った外国人が身を寄せられる拠点整備などの対策をし、何かがあっても対応できることを周知することが重要だ」と話す。

 工学院大の久田嘉章教授(地震工学)は「災害時、外国人は情報過疎に陥りやすい」と指摘する。自治体は防災計画などで居住者を優先して情報発信し、外国人観光客へのケアはおろそかになりがちといい、「国や複数の自治体が連携し、SNSなどさまざまな媒体を通じて自然に情報が広がる仕組みをつくるべきだ」としている。【飯田憲、川口雅浩、神足俊輔】

道内閑散 札幌・ホテル稼働率3割/小樽・建物被害無いのに

 札幌の奥座敷、定山渓温泉(札幌市南区)。定山渓観光協会によると、6日の地震の揺れは震度3で施設に被害はなく、停電も翌朝には復旧。約20軒あるホテル・旅館は、ロビーの照明を暗くしてエレベーターを間引き運転するなどの節電に取り組みながらも、通常通り営業を続けている。だが地震直後から予約のキャンセルが相次ぎ、年内は計約3万人、3億3000万円分が取り消された。全体の予約の6割に当たる。

 同協会の橘真哉マネジャーは「10月にかき入れ時の紅葉シーズンを迎えるが、このままでは死活問題だ」と話す。JR札幌駅直結の「JRタワーホテル日航札幌」も今月分の予約は2000件のキャンセルがあり、9割を超えていた稼働率が3割まで低下した。

 小樽市の旧運河近くにある「小樽堺町通り商店街」は、菓子や手作りガラスなどの有名店が建ち並ぶ人気観光スポットで、普段は観光客でにぎわう。停電は7日夜に全面復旧し、建物被害もないが、晴天に恵まれた14日も、観光客の姿はまばらで、観光バスでいっぱいになる駐車場も半分以上空いていた。

 9月は祝日が多く、本来なら大事なかき入れ時だ。しかし商店街で20年以上カニを販売する高橋一彦さん(60)は「開店休業状態だよ」と嘆く。停電で水槽の温度調整ができなくなり商品のカニは全滅。水槽の掃除を終え、8日にようやく営業を再開したが、肝心の客足が戻らないという。千葉勇己さん(36)が営む昆布店も、地震後の売り上げはほとんどなく、14日からは日中の従業員を1人減らしたといい「この状態が続いたら、倒産を考える店も出てくる」と危機感を募らせる。

 函館市の国指定特別史跡・五稜郭跡を一望できる観光名所「五稜郭タワー」は、7日に停電から復旧し営業を再開した。この日は1143人の利用があったが8日は747人、9日476人と激減。団体予約客のキャンセルはこれまでの概算で5000~7000人にも上り、この時期なら何重にも順番待ちの列ができる展望台へのエレベーター前は、閑散としている。

 同タワーは「道央入りを予定していた人などが安全を考慮したのかも」と分析する。【三瓶杜萌、山田泰雄】

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