「はい荷物出してください~」って一切言われなかったぞ… 驚愕の「駆け込み乗車すらできちゃう飛行機」何でそんなにユルいの?

飛行機の出発時刻が迫っているのに、空港の保安検査で長い行列に阻まれ、やきもきすることがあります。しかし、カナダの航空会社には、空港でそれらをパスして搭乗口までスムーズに向かえる路線があります。体験してきました。

保安検査をスキップ!? まさしく「空飛ぶ電車」

 ANAホールディングス傘下の格安航空会社(LCC)、ピーチ・アビエーションは「空飛ぶ電車」というコンセプトを掲げています。それでも電車と大きく異なるのが、空港の保安検査を通過しなければならない点です。

 保安検査は、ハイジャックやテロなどを未然に防ぐために必須の手続きですが、それがあるためにどうしても電車のように「飛び乗る」ことはできません。ANA(全日本空輸)やJAL(日本航空)など多くの航空会社は、国内線利用者の保安検査場の通過締め切り時刻を出発20分前と定めています。それまでに保安検査を終えないと予約便に乗れないため、出発時刻が迫る中で検査待ちの長蛇の列ができていた場合には焦燥感が募ります。

 ところが、筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部記者)が今年(2024年)9月にカナダを訪れた際、保安検査をスキップしてまさしく「電車」同然で手軽に航空機に乗ることができました。

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カナダ・ユーコン準州のホワイトホース空港でエア・ノースのATR42に乗るためエプロンを歩く利用者ら(2024年9月5日、大塚圭一郎撮影)。

 搭乗したのはカナダ西部ユーコン準州の地域航空会社、エア・ノース(AIR NORTH)です。カナダ国内に数多くの路線を運航しており、州都ホワイトホース空港を拠点にドーソンなどの州内都市、羽田・成田と結ぶ路線が多く発着する西部バンクーバー、西部カルガリーなどを結んでいます。なお、オーストラリアにも同名企業がありますが、無関係だそうです。

 航空機はベストセラージェット機のボーイング737とプロペラ駆動のコミューター機ATR42を保有しており、筆者は後者で運航されているホワイトホース~ドーソン線に乗りました。ドーソンは19世紀終盤にはゴールドラッシュに沸いた都市で、2023年9月に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されています。この街のウリは、西部劇に出てきそうな古い木造の建物が連なる街並みや、出現率が高いオーロラです。

到着後の動線を「逆行」保安検査のない理由を尋ねたら

 ホワイトホース空港でチェックイン後に地上職員から「通路をまっすぐに進んでください」と案内され、到着客が預け入れ荷物を受け取るカルーセルの脇を抜けます。すると、その先に「エア・ノース271便 ドーソン行き」と画面に表示した6番搭乗口が見えました。

 一般的には航空機を降りた利用者が通る動線を“逆行”することで、通常ならば保安検査後でなければ立ち入ることができない危険物等所持制限区域(クリーンエリア)に入ったことになります。

 日本では、航空法第131条で「空港等の管理及び運営の状況その他の事情を勘案して国土交通省令で定める者が行う検査を受けた後でなければ、危険物等所持制限区域内に立ち入ってはならない」と定めているため、保安検査を受けずにクリーンエリアへ立ち入ることはできません。

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カナダ・ユーコン準州のホワイトホース空港にあるエア・ノースのカウンター(2024年9月7日、大塚圭一郎撮影)。

 この点についてエア・ノースの広報担当者、マリア・コスタラスさんに尋ねると「空港の保安検査は、カナダ運輸省の管轄下にあるカナダ航空輸送安全公団(CATSA)が担当しています」とし、検査がないのはCATSAの判断であって「航空会社の影響力は及びません」と説明されました。

 CATSAは原則として「カナダの空港の全ての旅客は保安検査を通過しなければならない」と定めていますが、例外として一部の小さな空港では実施していません。理由は公表していませんが、ユーコン準州の旅行業界関係者は「目が行き届きやすい利用者の少ない路線では安全が脅かされるリスクが小さいため、保安検査を省略しているのではないか」との見方を示しました。

保安検査がない代わりに…

 エア・ノースの就航先では、ユーコン準州の小さな都市であるドーソン、イヌビク、オールドクローの各空港において保安検査がありません。ホワイトホース空港ではドーソン線の保安検査はない一方、バンクーバー線では実施しています。

 それでも広報担当者のコスタラスさんは「旅行者と航空機、乗務員の安全は当社の最優先事項で、運輸省が定める規則を順守しています」と強調します。その方法は搭乗口を抜け、航空機が止まっているエプロンへ向かうために階段を降りたところで分かりました。

 地上職員が航空券と身分証明書を確認しており、その際に2個まで持ち込める手荷物の大きさの規定(高さ38cm、縦22cm、横28cm)などに合致しているかを目視でチェックしていたのです。

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カナダのエア・ノースのホワイトホース発ドーソン行きで提供されたサンドウィッチ。ターキーとハム、ベジタリアン用があり、筆者はターキーをもらった(2024年9月5日、大塚圭一郎撮影)。

 機内は、42席のどこに腰かけても良い自由席。飛行中は飲み物に加えてサンドウィッチも提供され、窓の外に広がる大自然の風景を楽しみながら大らかな空の旅を満喫することができました。

 機内で話したカナダ人男性は「(2001年の)アメリカ同時多発テロが起きる前の航空機に簡単に乗れた時代を思い出したよ」と振り返っていました。彼が言うとおり、あの事件以降、空港のセキュリティは大幅に強化され、保安検査も厳格に行われるようになっています。

 それでも、無差別テロに近い殺傷事案は新幹線をはじめとして鉄道でも起きているため、日本を含め、各交通機関のセキュリティが緩和されることはまずないでしょう。

 そのため、前述したようなカナダの「かなり緩い」保安検査は世界的に見てもレアケースです。まさしく電車に乗るように航空機に乗れる希少な体験がいつまで続くのかは見通せません。

 エア・ノースへの搭乗を目的のひとつにして、ユーコン準州を訪れてみてはいかがでしょうか。

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