選挙カーは走行中シートベルトしなくてイイの? 法律違反も警察が見逃すというのは本当でしょうか

候補者の氏名を連呼し続ける「選挙カー」をうるさく感じる人も多いことでしょう。しかし「選挙カー」は騒音規制条例の対象外。そしてほかにもさまざまな法律の例外となっています。とはいえ、事故を起こせばペナルティも課せられます。

音のうるさい「選挙カー」は取り締まれないの?

 第50回衆議院議員選挙が公示され、街中で選挙カーを見かける機会が増えました。選挙カーというと、「ウグイス嬢」と呼ばれる女性の車上運動員が候補者の氏名を連呼しながら走る姿を思い浮かべる人も多いかもしれません。

 にぎやかな繁華街ならともかく、閑静な住宅街や農村部では、スピーカーからぶしつけに流れてくる候補者名の連呼は必要以上に響き渡り、静寂を望む住民にとってはもはや騒音公害と言っても過言ではないほど。事実、選挙が始まると各自治体には必ずと言って良いほど「選挙カーがうるさい」というクレームが多数寄せられるそうです。

 じつは、候補者が選挙カーを使用するには、さまざまな制約が課せられています。公職選挙法の第140条2項には「連呼行為の禁止」があり、そこには候補者が「選挙運動のため、連呼行為をすることができない」と記されています。

 ただし、例外として「選挙運動のために使用される自動車・船舶の上では、連呼行為をして良い」とも明記されています。逆に言えば、候補者の連呼行為は選挙カーの上でのみ許されている行為なのです。そうした例外ゆえに、選挙カーは走行中に候補者の氏名と所属政党、短いキャッチフレーズのみを連呼し続けるわけです(停車して演説することは問題なし)。

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選挙活動のイメージ(画像:写真AC)。

 また、選挙カーの使用は、公示日に立候補届が受理された瞬間から投票日の前日まで可能で、候補者の氏名を連呼できるのは朝8時から夜8時までのあいだに限られています。学校や病院、診療所などの施設前では連呼が禁止されており、これに反すると公職選挙法の違反となる恐れがあります。

 なお、右翼団体の街宣活動などには騒音規制条例により音量規制が設けられていますが、選挙運動は規制対象から除外されています。従って選挙カーがどれほど大音量で連呼を繰り返していても、それが選挙運動の一環である場合は警察が取り締まることはできず、住民は我慢して通り過ぎるのを待つしかありません。

 ほかにも公職選挙法では、選挙カーに取り付ける看板のサイズにもルールがあり、縦273cm×横73cm以内と定められています。

選挙カーはシートベルトしなくても良いってホント?

 これら規制は、公正な選挙を目的とした公職選挙法によるルールになりますが、選挙カーは公道を走行する自動車である以上、一部に例外規定があるとはいえ、原則として道路交通法や車両運送法を守る必要があります。

 選挙カーで使用が許される車種は、3ナンバー、5ナンバー、4ナンバーの乗用車と商用バン、4WD車とされています。なお、候補者の身体に障害がある場合に限って、8ナンバーの「福祉車両」の使用が認められています。

 これら車両を選挙カーとして使うためには、マイクやスピーカーの音響設備や看板、演説台を追加する必要がありますが、こうした装備を勝手に設置すると違法改造車となります。そのため、選挙カーは「設備外積載」という特定の期間のみ運行できる許可を警察署に申請する必要があり、万一この手続きを怠ると、道路交通法や車両運送法の違反となる可能性もはらんでいます。

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選挙カーのイメージ(画像:写真AC)。

 公道を走る以上、選挙カーも法律や交通ルールを守らなければ警察の取り締まりを受けることになりますが、道路交通法や道路標識で定められている駐車禁止のほか、通行止めや歩行者用道路は除外対象となっており、走行が認められています。ただし、交差点内や坂の頂上付近、駐停車禁止とされている場所は除外されません。

 道路交通法施行令では、選挙運動中の選挙カーはシートベルトの着用義務が免除されています。ただし、助手席の窓枠に腰を掛けて身を乗り出して乗車するいわゆる「箱乗り」はアウト。昭和の時代には「箱乗り」で選挙を戦う候補者の姿がよく見られましたが、道路交通法では座席以外に乗車することは禁止されています。

 ただし、実際に警察官が取り締まりを行うことは少なく、ほとんどが見て見ぬ振りをしているようです。とはいえ、国民の代表である国会議員に立候補している人間の行為としては褒められたこととは言えません。

事故のペナルティは一般車と同じ

 静岡県伊豆市で2024年10月14日、市議会議員選挙の選挙活動中に、候補者の乗る選挙カーとオートバイが衝突し、オートバイを運転していた男性が全身を強く打って重傷を負う事故がありました。

 交通事故が発生した場合、当たり前ですが選挙カーといえども、負傷者の救護、他の交通への危険防止、警察への事故報告の義務が課されます。そして、警察の捜査の結果、過失割合に応じて刑事・行政・民事の処分を受けることになります。

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選挙カーを使った街頭活動のイメージ(画像:イラストAC)。

 公職選挙法により選挙カーの使用は原則として候補者1人につき1台(参議院議員選挙の比例代表選出の場合は2台)までと定められていますが、事故などで選挙カーが使えなくなった場合は、代替の選挙カーを用意することが認められています。ただし、選挙管理委員会に車両変更の申請が必要なほか、所轄の警察署へ「設備外積載」の再提出などといった手続きも必須であることから、限られた選挙戦の日程の中で時間的なロスは避けようがありません。

 また、事故が候補者のイメージダウンにつながる恐れもあり、結果として有権者の投票行動に影響が及ぼすことも多分に考えられます。こうしたマイナス面を考えると、選挙カーは一般のドライバー以上に交通安全意識を持ち、絶対に事故を起こさないようにしなければならないと言えるでしょう。

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