空自の巨大輸送機が「地上をバック」してドデカ消防車が迎える!? 小牧基地が見せた“珍風景”とは?
航空自衛隊には輸送機や救難ヘリコプターなど多様な航空機が所属します。それらが一同に会したイベントで実機を見てきました。
C-130H輸送機やUH-60J救難ヘリコプターが一堂に会す
愛知県にある航空自衛隊の小牧基地には、C-130H戦術輸送機やUH-60J救難ヘリコプターなどの航空機が配備されています。2024年9月21日、あいち航空ミュージアムで開催された「暮らしを守る航空機たち2024」では、これらの機体や、オーストリア・ローゼンバウアー製の空港用化学消防車が展示され、自衛隊員が自ら各機体を解説しました。
C-130は、ターボプロップエンジンを4発搭載した輸送機です。初飛行は1954年8月29日で、今年に初飛行からちょうど70年を迎えた超ロングセラー機です。航空自衛隊のC-130Hは、輸送機型と空中給油機型(KC-130)があり、全機が小牧基地の所属となっています。
イベント当日は、「05-1084」号機が展示されました。機体は、パイロット(操縦士)、コパイロット(副操縦士)、ナビゲーター(航法士)、フライトエンジニア(機上整備員)、ロードマスター(空中輸送員)2名の6名が搭乗して運用されているそう。
ナビゲーターは上空でパイロットに天候や飛行ルートの案内を行います。フライトエンジニアは燃料の配分、離着陸に必要なデータの算出などを担当。ロードマスターはキャビンと呼ばれる機内貨物室の安全を管理する任務を担っています。
解説で印象に残ったのは、困難な飛行計画でも6人のクルーそれぞれがアイデアを出し合い、安全かつ確実にミッションをこなすよう心がけているということでした。C-130Hは災害で被害を受けたデコボコの滑走路に離着陸したり、気象が不安定な航路を飛行したりするケースもあります。そんなとき、仲間で知恵を絞って飛行させると安心感が高まるのだそうです。
開放されたキャビンには、重症患者を長距離搬送する「機動衛生ユニット」が展示されました。同ユニットには医官、看護師、救急救命士、管理要員の4名が搭乗。「空飛ぶICU(集中治療室)」の異名通り、ICUと同様の装備を備え、患者急変時に対応した処置が行えます。
当日、展示を終えたC-130Hは、会場から駐機場まで、「リバースタクシー」を交えながら地上を引き上げていきました。リバースタクシーとは、エンジンに設置されたプロペラの角度を変更し前方に空気を噴射してバックすること。化学消防車による放水アーチをリバースタクシーでくぐるC-130Hの姿はとても貴重なシーンとなりました。
東海道新幹線と「ほぼ同じ速度」で飛ぶ!?
もうひとつの展示機UH-60Jは、アメリカ陸軍向けに開発された「ブラックホーク」とも呼ばれるUH-60多用途ヘリコプターを、航空自衛隊の救難機向けに改造した機体です。原型となるUH-60は1974年11月初飛行しており、今年で初飛行から50年を迎えます。
当日はUH-60Jの「88-4608」号機が展示されました。主に海上などで遭難した戦闘機のパイロットの救助に当たり、遭難者を探すU-125A救難捜索機とセットで運用されます(同機も展示予定でしたが、都合により中止)。
機体には救助に使用する「ホイスト」と呼ばれるウィンチケーブルの操作を行う機上整備員、機外に出て救助を行う救難員2名、そしてパイロット、コパイロットの計5名が搭乗します。これまでの災害派遣では東日本大震災をはじめ、各地の水害や海難事故などにも出動した実績があります。
特徴としては、飛行に必要な発電機や油圧ポンプなどを3系統装備し、2つまで故障しても飛行可能なように冗長性を確保している点があげられます。航空自衛隊では、海が多い国土で長時間飛行可能な救難機として使用するため、外付けの燃料タンクを左右に2槽追加しており、機体本体に搭載する燃料と合わせて5時間30分ほど飛行可能とか。展示機はさらに、C-130Hから空中給油を受けられるようにプローブと呼ばれるストローのような装置を備えています。
もう一つの特徴は、そのスピードです。東海道新幹線(最高285km/h)に匹敵する最高270km/hで飛行できるので、解説に立った隊員は「東京駅に行くには、途中で止まらない分だけUH-60Jのほうが新幹線よりも早く着けます」と教えてくれました。
展示飛行では県営名古屋空港の滑走路脇にある草むらを使用して、隊員が降下する様子が実演されました。UH-60Jのメインローターから発生するダウンウォッシュ(下に向かって吹き下ろす風)で草が波打つ中、救難員が降下し、機上整備員がウィンチを引き上げる様子は臨場感たっぷりです。また、空港上空を周回飛行し、最後は滑走路にランディングする様子も迫力満点でした。
自衛隊ももってます「空港のドデカ消防車」
小牧基地は県営名古屋空港と滑走路を共用しており、FDA(フジドリームエアラインズ)の旅客機をはじめ、航空機に火災が発生した際には、いの一番に現場へ駆けつけて消火作業を行う空港用化学消防車もいます。
そのスピードは空港のどこにいても火災発生現場へ「3分以内」に駆けつけられるほど。空港が運用されている時間帯は、2名体制で滑走路の両端に車両を「航空救難待機」させ、万が一に備えています。
車両の大きな特徴は「タレット」と呼ばれる放水機。火災が発生し現場に向かう際には、車両上部に設置された「メインタレット」から放水しながら走行します。メインタレットは、無風であれば航空機全体を覆うほどの水量を放出できるといいます。
車両前部には「バンパータレット」が備えられ、消火用の放水に使用されるほか、水を霧状にしてフロントガラスを高温の炎から保護する機能もあります。また「アンダートラックノズル」が地面へ向かって散水して車両下部を熱から守り、車両横側に備えた「ハンドラインノズル」も活用して消火・救助活動を実施します。
イベント当日は映像プロデューサー・ライターの杉山 潔氏による特別講演「自衛隊の災害派遣とは何か ~東日本大震災で命を護った航空機たち~」も行われました。杉山氏は東日本大震災で自衛隊自身が被害を受けながらも多様な航空機を活用し、行方不明者の捜索や救助といった任務にあたったことを紹介。
そのうえで「災害派遣は自衛隊の主要任務ではあるけれども、従たる任務。災害発生時に備えて防災用品を準備し、自分で自分の身を守ることが大切です」と自助の大切さを説きました。
10/16 08:42
乗りものニュース