「“戦車大国”やめます」「やはり復活します」方針転換に高い壁 手放した代償はどれだけ大きい?

かつては戦車大国だったオランダ。しかし世界が融和ムードになりつつあった冷戦後、財政上の理由もあり戦車を手放しました。ただ、ロシア・ウクライナ戦争を機に方針転換。戦車復活を急ぎますが、空白だった期間は想像以上に痛手です。

戦車は維持するだけでも大きな負担

 かつてオランダは最大で約900両の戦車を保有する戦車大国でした。1960年代から465両のレオパルト1を配備し、1981(昭和56)年にはレオパルト2を最初に購入した国となり、445両を取得しました。当時の人口が約1400万人だったことを勘案すると、いかに防衛力整備に注力していたかが分かります。
 
 しかし1990年代初頭、冷戦が終結すると、財政上の理由と国際情勢の変化から、オランダ政府は戦車が不要と判断し削減を進めました。戦車戦力を維持することは相当な負担だったことがうかがわれます。

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レオパルト2の最新バージョンA8(画像:KMW)。

 余剰となったレオパルトは中古市場に放出されます。そして2011(平成23)年に戦車全廃を決定。オランダはNATOで主力戦車を持たない唯一の国となりました。

 ほとんどのレオパルト2A6は、オーストリア、カナダ、フィンランド、ノルウェー、ポルトガルへ売却され、オランダには約20両がモスボール(使用しなくなった機材を、劣化を防ぐ処理をした上で保管すること)されるのみでした。この時期のヨーロッパでは、戦車は時代遅れでコストのかかる装備だとする風潮が広がっており、オランダの方針は注目されました。

 しかし、2014(平成26)年にロシアがクリミアを併合し、情勢は一気に緊迫しました。オランダも防衛力強化のため、2015(平成27)年には戦車の復活を決定します。しかし、予算の制約と空白期間の影響は大きく容易ではありませんでした。

同盟国とはいえ様々な壁が…

 そこでオランダはドイツに協力を依頼しました。モスボールされていたレオパルト2A6はドイツに送られ、オランダ軍の通信システムにリンクできる仕様のレオパルト2A6MA2に改修されます。しかし予算の制約で、車体所有権をドイツに売却し、リース料を支払ってオランダ軍が使うというリースバックとせざるを得ませんでした。

 2016(平成28)年には、オランダ軍の約100名の兵員と18両のレオパルト2A6MA2で1個中隊が編成され、ドイツ連邦軍第414装甲大隊に統合されました。指揮権はドイツ軍が持っており、現在でもオランダには正式な戦車部隊は存在せず、「戦車のカン」を取り戻そうと必死に努力している最中です。

 オランダとドイツは同盟する隣国で文化的にも近いのですが、相互運用性は言うほど簡単ではありません。まず言葉が違い、部隊内ではドイツ語が使われるので、オランダ軍人は全員習得する必要があります。

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ラトビアでNATO合同演習に参加したレオパルト2A6。ドイツ軍の鉄十字標識とオランダ陸軍のライオンエンブレムが描かれている(画像:NATO Enhanced Forward Presence in Lithuania)。

 また、部隊運用はドイツのシステムで行われます。オランダ軍人は「隣国ではありますが、私たちはまったく同じ人々ではありません。(中略)緊張を生み出すことがあります」と漏らします。双方の運転免許証の扱いから、平時にドイツの衛生兵がオランダ兵への医療行為を実施できるのか、オランダの整備士がドイツ軍の戦車を修理することができるのかなど、教育や資格といった実務的な問題までを一つひとつ解決しなければなりません。

 2022年2月にロシア・ウクライナ戦争が勃発すると、ロシアとの対決は決定的となり、2024年9月5日に発表されたオランダの防衛白書では、戦車部隊の完全な復活が計画されました。国防予算は大幅に増額され、新型戦車の導入が検討されています。導入される戦車は明言されていませんが、最新型のレオパルト2A8でほぼ確定と見られています。

「国防は蓄積である」

 NATOの標準的な戦車大隊は44両で編成され、訓練用や予備車両も必要です。オランダは1個大隊分の戦車46両に追加オプションを6両、合計で最大52両の新型戦車を調達する計画ですが、かつて900両の戦車を運用したノウハウは、ほとんど失われています。取り戻すには長い時間とコストがかかりそうです。

 オランダ紙『NRCハンデルスブラッド』によると、レオパルト2の年間の維持費用は最大で約3億5000万ドル(503億円)と報じられています。NATO加盟国は国防費をGDPの2%とする目標を立てていますが、とてもそれでは足らず、軍内で優先順位の取り合いになっています。

 日本においても、主力戦車は削減される方向です。地政上の環境は違いますが、オランダの例は「国防は蓄積である」ということを再認識させられます。

 16式機動戦闘車は戦車と見なされていないものの、防衛省や自衛隊では機甲科として戦車に準じた運用が期待されています。「装輪戦車」は戦車取扱いのカンを持続的に維持するひとつの選択だと筆者(月刊パンツァー編集部)は考えます。来年度からは退役した74式や90式戦車がモスボールされる予定です。

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90式戦車(左)と74式戦車。戦車は退役すると少数は静態展示されることもあるが、ほとんどが溶鉱炉行きになる。来年度から一部モスボールされることが決まった(画像:那覇駐屯地)。

 オランダ空軍のアンドレ・ステュール中将は、「ロシアだけが脅威ではないが、ロシアが2022年2月24日時点の完全な戦力に回復するまでのスピードを見ると、我々の動きは遅すぎる。それは同盟国全体でも明らかだ」「ここにいる全員が戦争を防ぎたいと望んでいる。だから最も重要なのは、我々が戦争を抑止できる力を持つことだ」と話しています。

 限られた予算をどのように配分し、どの装備を持続的に運用するかを見極めるのは非常に難しい課題です。

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