JR東日本「銀行の特典」が超手厚いワケ 鉄道4割引は“客寄せ”以外にも狙いアリ 「JRE BANK」に乗り出す目的は?
JR東日本が2024年5月、デジタル金融サービス「JRE BANK」を始めました。このサービスは、システム的には楽天銀行の支店扱いで、JR東日本にとって直接的なメリットはないはずですが、それでも「銀行代理業」に乗り出す目的は何でしょうか。
JR東日本に「銀行」の直接的メリットはないが…
※本記事は『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』(枝久保達也著、河出書房新社)の内容を再編集したものです。
2024年5月9日、JR東日本ブランドのデジタル金融サービス「JRE BANK」が誕生しました。鉄道事業者としては、2023年9月にサービスを開始した京王電鉄の「京王NEOBANK」に次ぐものですが、国内最大の鉄道事業者JR東日本の参入は大きな注目を集めました。
JR東日本の喜㔟陽一社長は2024年6月26日付の朝日新聞デジタルのインタビューで「スタートダッシュとして非常に好調な手応え。想定を上回る形でご支持いただいている」として、目標に掲げていた100万口座の開設を「年度内には達成したい」と述べています。
まず前提として、JRE BANKは預金を集め、資金を必要とする人や企業に融資する一般的な銀行業ではなく、銀行法第2条第14項が定める、所属銀行のもとで預金や資金の貸し付け、為替取引や住宅ローンなどの契約を代行する「銀行代理業」というビジネスモデルです。
楽天銀行が所属銀行、JR東日本の完全子会社・ビューカードが銀行代理業者となり、預金・融資・決済などの銀行機能をクラウドシステムとして提供する「BaaS(Banking as a Service)」を使用してサービスを提供します。つまりJRE BANKは、システム的には楽天銀行の1支店として扱われるのです。
後述するように手厚い特典を用意したことで申し込みは順調で、仮に目標の1割にあたる10万人が特典を得られる最低金額の50万円を預金すれば500億円もの資金が集まりますが、管理や運用は楽天銀行が行うためJR東日本に直接的なメリットはありません。なぜJR東日本は「銀行」に乗り出したのでしょうか。
JRE BANK構想が発表されたのは2022年12月のことでした。プレスリリースには「人生に体験と経験を。」をコンセプトとし、一般的な銀行サービスに加え、「JR東日本グループの事業領域を活かした特典の提供」を行うと記されていました。
手厚い特典を用意する意義は?
2024年4月に発表された特典は予想以上に手厚いものでした。目玉はJR東日本線の片道運賃・片道料金が4割引という、株主優待券と同じ割引率の「JRE BANK優待割引券」です。株主優待券と同じ割引率の特典が資産残高50万円以上でビューカード利用代金の引き落とし口座に設定すると年2枚、給与口座に指定すれば年4枚、資産残高300万円以上で引き落とし口座、給与口座の両方に設定すると最大の年10枚もらえます。
またJRE POINT(東京・上野・大宮駅発は6000ポイント、仙台・盛岡・新潟・長野発は5000ポイント)で、JR東日本の新幹線停車駅からランダムに提示される4駅の「どこか」に行ける「どこかにビューーン!」サービスの「2000ポイント割引クーポン」や、モバイルSuica限定の「Suicaグリーン券」も預金額に応じて付与されます。
なぜこれほど手厚い特典を用意するのか、銀行代理業に参入する意義、メリットについてJR東日本に聞くと、「一般の銀行にはない独自性の高い特典でお客さまに口座を開設していただくことで、当社グループの各サービスの入り口として接点を持つことが可能」だからだと述べます。
そして「当社グループのさまざまなサービスをおトクにご利用いただくことでグループ内のサービスの認知度やご利用の拡大を図っていきたい」として、特典で鉄道需要を喚起するだけでなく、それに伴うグループ全体への波及効果を期待します。
もうひとつの狙いはユーザーのお金の動きをつかむことです。同社はグループ経営ビジョン「変革2027」のなかで、「移動のシームレス化」と「移動・購入・決済のワンストップ化」、「金融機関、決済企業等の商品・サービス」の強化を掲げています。
JR東日本は2023年度末時点で9000万枚以上のSuica、2621万枚のモバイルSuica、月あたり約3億件の電子マネー利用、550万人以上のビューカード会員を有しており、これらのサービスを結びつけるJRE POINT会員は1500万人に達していますが、JRE BANKの特典を得るためには口座とJRE POINTの紐づけが必要です。
Suica鉄道利用、電子マネー利用、ビューカードを連携してグループ全体の購買データを一元的に把握するJRE POINTに、JRE BANKの口座情報、入出金記録を組み合わせることで利用者の消費活動の全貌をつかみ、JR東日本経済圏のマーケティングデータとして活用することが、JRE BANK設立の最大の目的といえるでしょう。
※9月12日9時、誤字を修正しました。
09/11 09:42
乗りものニュース