名古屋名物「反対車線にはみ出すバス」でどこまで行ける? 名駅から1時間の最長路線 終点が…存在しない!?

道路の中央をバスが走る「中央走行式」のバスレーンは全国で名古屋市にしかありません。バスレーンには名古屋市バスだけでなく名鉄バスも乗り入れます。名鉄バスが20km以上を走行して目指すのは「バスの聖地」でした。

「え、瀬戸までいくの!?」

 名古屋市には、概ね鉄道や地下鉄に比肩するサービス水準を備えた「基幹バス」と呼ばれるバス路線が存在します。その最大の特徴は、道路の中央をバスが走る「中央走行式」のバスレーン(以下、基幹バスレーン)でしょう。全国でも名古屋にしかない方式で、本数の多さや速達性の確保に貢献しています。
 
 基幹バスレーンの区間には、名古屋市営バスの基幹2号系統のほか、名鉄バスも乗り入れます。今回は、そのなかでもとりわけ長距離を走る系統に乗車しました。

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「中央走行式」のバスレーンを走る名鉄バス(乗りものニュース編集部撮影)

 名鉄バスは基幹バスレーンを走る系統として、名古屋駅に隣接する名鉄バスセンターと、尾張旭市の尾張旭向ヶ丘や、長久手市のトヨタ博物館など、郊外を結ぶ7系統を運行中。その中でも特筆すべきなのが、名鉄瀬戸線の終点・尾張瀬戸駅(瀬戸駅前)へ向かう36系統と、瀬戸市内のニュータウンである菱野団地へ向かう35系統の2つです。

 走行距離はいずれも20km以上。終点まで乗り通した場合の乗車時間は1時間を超える便ばかりで、なかなかのロングドライブが楽しめる路線です。

平日の朝、名鉄バスセンター6時20分発の36系統瀬戸駅前行きには、10名が乗りこみました。発車すると、すぐ右手に名鉄やJRの線路を眺め、バスセンターのある3階から地平まで一気に坂を下ります。

下広井町線に入ったバスは、移転のためほとんどバスが見られなくなった元名鉄バス名古屋中央営業所の前を通過。栄の街に差し掛かると、すでに渋滞が発生していました。
 
 栄を発車すると車線を左端から右端へ移り、桜通大津交差点を過ぎるといよいよ基幹バスレーンに入ります。市役所を出発したバスは右に大きくカーブして出来町通へ。バスレーンを快調に走行し、各停留所では、名鉄バスセンターからの乗客が1人、また1人と降りていきました。

乗換ないし早いし便利、とはいっても…?

 基幹バスレーンでは、先述の通りバスが道路の中央寄り(右側)のレーンを走行するのが特徴です。一般的にバスは車線の左端を走行し、停留所は車道に面した場所や歩道に設置されます。ところが、基幹バスレーンでは道路の中央にシェルター型の停留所が設けられ、バスは中央分離帯から反対車線へはみ出して走行し、停留所に停車もしくは通過します。

 とはいえ、バスレーンはカラー舗装で一目瞭然に明示されており、走行するバスや、バス専用となる時間帯以外に走行する一般車は、普通に反対車線へはみ出し、カラー舗装に従ってもとの方向の車線へと戻っていきます。

 さて、基幹バスレーンをゆく瀬戸駅前行きのバスは、名鉄バスセンター方面へ向かうバスとひっきりなしにすれ違っていきます。夏休みだったので学生は少ない様子でしたが、通勤客で混雑している様子が見て取れました。一方で、名古屋市営地下鉄名城線と乗り換えできる茶屋ヶ坂以降の停留所では乗車する人も現れ、都心、郊外双方向への流動があるようです

 乗車して1時間ほどで基幹バスレーンが終了する引山に到着。名古屋市バスのターミナルですが名鉄バスも乗り入れます。

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名鉄バス 36系統瀬戸駅前行き。名鉄バスセンターから1時間以上かけて終点へと向かう(水野二千翔撮影)

 ここから走行車線は再び左端へ。沿道にはチェーンの飲食店や大型ホームセンターなどが並び、ぐっと郊外らしさがでてきます。さらに車窓には、「多治見」や「中津川」といった地名が表示された案内標識も登場。遠くまで来たことを実感できます。

 7時50分、栄での渋滞の影響を受け、定刻から4分ほど遅延して終点の瀬戸駅前に到着。いつの間にか名鉄バスセンターからの乗客もいなくなっていました。

 乗り換えがない分、便利だと思うのですが、地下鉄と瀬戸線を乗り継ぐ鉄道と比べても30分ほど余分に時間がかかるのがやはり難点なのでしょう。運行を終えた運転手に名鉄バスセンターから瀬戸駅前まで乗り通す人がいるか聞いても「いないですねえ」とのことでした。

「菱野団地」そんなバス停はありません!?

 名鉄バスセンターから瀬戸市方面に向かうもう一つの系統・35系統菱野団地行きにも乗車してみました。名鉄バスセンターから瀬戸市内にある停留所の西原までは36系統と同様の経路を走行します。

 午前中、最初で最後の便である西原11時4分発のバスに乗車すると、先客が2人。やや延発し、西原2丁目交差点を右折したバスは35系統だけが走行する区間を走ります。瀬戸口町、西米泉町といった小さな停留所でそれぞれ下車していった様子をみると、普段から乗り慣れている乗客なのでしょう。

 やがてバスは原山台西に到着。周囲には背の高い集合住宅がいくつも現れました。車道をオーバークロスする歩道も見られ、ニュータウンらしさを醸し出しており、どうやら菱野団地に入ったようです。

 終点の菱野団地停留所まで乗り通してみようと思ったのですが、原山台東、萩山台北、センター前、萩山台南、八幡台東と進み、八幡台西停留所に到着。ここが終点だというのです。「菱野団地」という名前の停留所はついに現れませんでした。

 実は、菱野団地一帯にある原山台西~八幡台西の各停留所の総称が「菱野団地」となっており、菱野団地という停留所は設置されていません。「菱野団地」というバスの行き先表示は目的地を表しているだけで、終点の停留所名を表しているわけではないというのが真相でした。

 菱野団地へは、瀬戸駅前や名古屋市営地下鉄東山線の藤が丘駅からバスが出ており、住民はこれらを活用して出かけています。八幡台西で話を聞いたご婦人は「名古屋駅まで行くときは、普段は瀬戸駅前に出ています。タイミングが合えば名鉄バスセンター行きに乗りますが……」とのこと。

 現在の35系統は朝に名鉄バスセンターヘ向かい、昼間に運行がなく、夕方に菱野団地へ帰ってくる運用が中心のダイヤ。これでは乗り換えがないといっても、利用しづらいでしょう。長距離を走る35・36系統ですが、区間利用がほとんどというのが実態のようです。

 なお、瀬戸市は「国鉄バス発祥の地」であり、いわばバスの聖地。名鉄バスセンターから長距離乗車を味わい、最古の国鉄バス駅・瀬戸記念橋の跡地に立つ記念碑を見学するのも楽しいかもしれません。

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