おーい衛星画像で丸見えだぞ 北朝鮮が“民間航空機”を目隠しして改造中 実はバレバレも狙いのうち!?

北朝鮮唯一の民間航空会社、高麗航空が保有する大型輸送機イリューシンIl-76が、平壌の国際空港の整備エリアで、厳重に目隠しされながら何やら改造を受けている模様です。とはいえ衛星画像からは丸見え。どのような意図があるのでしょうか。

目隠し、むしろ目立つ… 中で何をしているのか

 2023年10月、北朝鮮の平壌にある順安国際空港の整備エリアで、注目すべき動きが確認されました。高麗航空の大型輸送機イリューシンIl-76が、整備エリアに移動され、その周囲が厳重にフェンスで囲まれるという異例の措置が取られたのです。

 この整備場エリアにはジェット機の出入りが良く見られますが、特定区画だけフェンスで囲ってしまうことは珍しく、この機体だけ長期間稼働させず人目に晒したくない作業が行われていることを示唆しています。

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大型輸送機イリューシンIl-76輸送機(画像:ロシア国防省)。

 このIl-76に行われている作業は、早期警戒管制機(AWACS)への改造である可能性が高いと見られています。11月には、機体の胴体上部に新たな構造物が追加されているのが衛星画像で確認され、これがAWACS用の回転装置、アンテナ、レドーム(ロートドーム)のマウントではないかと指摘されています。

 このIl-76を保有する高麗航空は北朝鮮唯一の民間航空会社ですが、国際線はごく限られた路線しか運航しておらず、ウィキペディアによれば「英国スカイトラックス社によるエアライン・レーティング(航空会社格付け)において、世界で唯一となる最低評価の1つ星航空会社(1-STAR AIRLINES)に認定されている」と紹介されています。

 しかし金正恩総書記の専用機として使われるイリューシンIl-62Mは高麗航空の所属であり、最高指導者を乗せて外国訪問する際、Il-76は専用車などを運ぶ支援用として同行しています。Il-76は民間機登録で高麗航空に3機在籍している、北朝鮮にとって貴重な大型輸送機です。

旧ソ連が開発したAWACSとは

 AWACSとは、空中レーダー早期警戒システムのこと。地平線に邪魔されず地上レーダーよりもはるか遠距離を走査でき、航空機、船舶、車両、ミサイル、その他の飛翔体を長距離から探知し、友軍の戦闘機や攻撃機に情報を提供して指示することで、航空戦闘の指揮統制を行えます。基本的に味方制空圏内の奥深くで活動するため、地上レーダーより生存性も高いとされています。

 Il-76をベースにしたAWACS(早期警戒管制機)は旧ソ連のベリエフ設計局が開発し、1978(昭和53)年に初飛行したA-50があります。同機を運用しているのは現状でロシア空軍とインド空軍だけです。ほかに中国へもA-50Iとして輸出が計画されたもののアメリカの圧力でキャンセルされています。中国はレーダーと電子装備を除いた機体部分を引き取って、国産でKJ-2000(空警2000)として完成させています。

 A-50の詳細性能は不明ですが、センチメートル範囲で動作するレーダーステーションは、低高度では最大200?400km、高高度では300?600kmを飛行する戦闘機クラスの目標を検出できます。海上目標なら最大400kmです。同時追尾目標数は最大150機、同時誘導戦闘機数は10?12機とされています。

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ロシア空軍の早期警戒管制機(AWACS)A-50U(画像:ロシア国防省)。

 AWACSの開発や運用には高度な技術と経験が求められます。北朝鮮がこの技術を独自に開発できるとは思えません。2023年9月12日から18日、金正恩総書記が4年5か月ぶりにロシアを公式訪問し、プーチン大統領と会談したほか、宇宙基地や戦闘機工場、軍港など軍施設を視察しています。Il-76がフェンスに囲まれた整備エリアに移動したのはその直後でした。

 そして2024年6月19日、今度はプーチン大統領が北朝鮮を公式訪問し、金正恩総書記と会談して両国関係は急速に深まっています。これら時系列を見ると、高麗航空Il-76のAWACS改造にはロシアの技術協力が入っていると考えるのが自然です。

1機だけではとても戦力にならない

 もしAWACS改造が成功すれば、空中から広範囲にわたる監視と指揮が可能となり、航空作戦能力が飛躍的に向上するでしょう。北朝鮮の地上レーダー施設は平壌周辺、海岸線、非武装地帯に集中し、探知範囲は中国の遼東半島方面と日本海方向約100kmと見られているので、AWACSを使えば北朝鮮空軍の限られたアセットをより効率的に運用できるようになります。またミサイル発射の遠隔測定データをより精密に収集できるようになるとの指摘もあります。

 とはいえ、AWACSを戦力化するには高度な電子機器の管理と戦闘機や各対空システムとの通信ネットワークなど運用技術が必要であり、北朝鮮がそれを十分に扱えるかは不明です。また、1機だけでは戦力としては不十分です。

 しかし、たとえ実際の運用能力が限られていたとしても、AWACS保有を示すだけで十分な効果があります。ロシアからの技術支援を受けてAWACSを導入することは、北朝鮮とロシアの軍事協力が深化していることを内外に示す強力なメッセージとなります。これは、北朝鮮の軍事力の象徴としてだけでなく、国際社会に対し存在感を示す役割も果たすことが期待されます。

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航空自衛隊の早期警戒管制機E-767。航空自衛隊のみが4機配備している(画像:航空自衛隊)。

 筆者(月刊PANZER編集部)は、人目をはばかるように作業区画をフェンスで囲っておきながら、衛星では捉えられる露天で作業するという一見矛盾した行動の意味もここにあるように思えます。民間機登録している貴重なIl-76を、戦力化できるかわからないAWACSに改造して見せるという決断は、北朝鮮にとって戦略的には大きな意義を持つものです。

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