空自の戦闘機派遣「ワンチームで行くぞ!」豪州演習で見せた“少数派”こその強み

オーストラリアで2年に1回開催されている「ピッチ・ブラック」演習。前回に引き続き日本からも航空自衛隊のF-2戦闘機が参加しましたが、彼らを率いた指揮官いわくF-2乗りは「小さな世界」なんだとか。その真意を聞きました。

南半球の一大演習に空自F-2戦闘機が参加

 2024年7月12日から8月2日にかけて、オーストラリアのノーザンテリトリー(北部準州)において同国空軍主催の多国間共同演習「ピッチ・ブラック24」が行われ、航空自衛隊もF-2戦闘機やE-767AWACS(早期警戒管制機)、隊員約230名が参加していました。

「ピッチ・ブラック」演習は、もともと今から40年以上前の1981年にオーストラリア空軍の単独演習として始まりましたが、その後徐々にオーストラリアと防衛協力関係にある国々の空軍も参加するようになり、前回の2022年開催時からは航空自衛隊も加わっています。

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オーストラリアのダーウィン空軍基地に着陸するF-2戦闘機。機体は第8飛行隊の所属機(布留川 司撮影)。

 今回はオーストラリアや日本以外に、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、シンガポール、イタリア、韓国など20か国から140機以上の軍用機が参加する史上最大規模となりました。そのため、演習に参加する戦闘機も多種多様で、アメリカ製の傑作機F-16「ファイティングファルコン」や最新のステルス機F-35「ライトニングII」はもちろんのこと、フランス製の「ラファール」や欧州共同開発の「ユーロファイター」、韓国製のFA-50「ゴールデンイーグル」、インド空軍のロシア製Su-30「フランカー」なども翼を並べていました。

 まさにオリンピックのような国際色豊かな一大実動演習でしたが、では晴れ舞台ともいえる「ピッチ・ブラック24」に、航空自衛隊はどのような陣容で参加したのでしょうか。

機体は福岡から、でも隊員は「オールジャパン」

「ピッチ・ブラック」演習の期間中は、各国の派遣部隊幹部による共同記者会見が行われており、航空自衛隊からは派遣部隊指揮官を務めた第8航空団の飛行群司令、小林1等空佐が列席していました。そこで、筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は質疑応答の時間に、派遣部隊について質問してみました。

 先に述べたとおり、日本からはF-2戦闘機が派遣されていましたが、その数は6機で、すべて福岡県築城基地の第8航空団に所属する機体とのこと。ただし、第8航空団には第6飛行隊と第8飛行隊があり、双方から派遣されたと小林1佐は答えてくれました。

 ちなみに、前回(2022年)行われた「ピッチ・ブラック22」には茨城県の百里基地に所在する第7航空団が参加しており、その隷下の第3飛行隊の所属機が派遣されていたため、今回は別の飛行隊が選ばれたことになります。

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記者会見前にニュージーランド(左)とオーストラリア(右)と記念写真に収まる第8航空団の飛行群司令、小林1等空佐。和やかな雰囲気で撮影に応じられるのは、日頃からコミュニケーションを行っていることの賜物ともいえるだろう(布留川 司撮影)。

 とはいえ、機体こそ築城基地のものであるものの、人員は前出の3つのF-2飛行隊からそれぞれ派遣されているそうで、実質的には日本全体のF-2飛行隊が合同した「オールジャパン」的な陣容となっていたようです。

「今回の演習では第3飛行隊(百里基地)、第6飛行隊(築城基地)、第8飛行隊(築城基地)の3コ飛行隊がチームとしてひとつにまとまっており、その中には2022年の演習に参加したパイロットも含まれています。また、参加によって得たノウハウは他の隊員たちにも共有されており、効率的な訓練を行うだけでなく、現地での飛行における安全性を確保しています」と小林1佐は説明していました。

1000km以上離れていても想いは一緒

 なお、小林1佐によれば、こうした異なる飛行隊でのノウハウの共有は日常的に行われているとのこと。航空自衛隊の戦闘機飛行隊は全国の基地で活動しており、F-2戦闘機も築城基地と百里基地という離れた場所で、異なる航空団の下で日々任務に就いています。

 しかし、飛行隊のパイロットや隊員たちは、1000km以上離れた基地どうしでも日頃からビデオ会議のようなシステムを利用してコミュニケーションや情報交換を行っているらしく、そこにはF-2戦闘機独自のコミュニティーのようなものがあるといえるでしょう。

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ダーウィン基地をタキシングするF-2戦闘機。奥は先に着陸したオーストラリア空軍のEA-18G「グラウラー」(布留川 司撮影)。

 2024年現在、航空自衛隊の主力戦闘機であるF-15J「イーグル」の飛行隊は全国4つの基地に7つの飛行隊がありますが、F-2飛行隊はその半分以下の3つしかなく、パイロットの多くは所属する飛行隊が違っても、これまでの訓練や転勤によってお互いの顔を知っており、小林1佐も「スモールワールド(小さい世界)」とコメントしていました。

 演習期間中、筆者は航空自衛隊のパイロットたちを見かける機会が何度かありましたが、彼らの飛行服には所属する飛行隊を意味するワッペン(パッチ)がついており、それが異なる飛行隊のモノであってもパイロットたちは親しげに会話していました。

 航空自衛隊にとって「ピッチ・ブラック」のような国際演習は、自身の技量や能力を試すだけでなく、他国の空軍との連携やコミュニケーションも図れる貴重な機会といえます。そこで得られた経験は、普段行っている国内の訓練では手に入らないものであることから、参加した隊員はそれを個人としての経験だけに止めず、全体共有することで、航空自衛隊という組織そのものや、ひいては日本の安全保障にも寄与するようにしていると、現場で彼らの動きを取材して実感しました。

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