愛車の価値が急落!? ハーレーダビッドソン日本法人の「販売店いじめ」仲間内でも影響に天地の差が…なぜ?

独占禁止法違反容疑で公正取引員会の立入検査が入ったハーレーダビッドソン・ジャパンには、新車販売好調の裏で「ディーラーいじめ」が疑われています。この件が新車販売や中古車相場に及ぼす影響は果たして……。

過剰ノルマ課されたディーラーが取り得る3つの選択肢

 独占禁止法(優越的地位の乱用)違反容疑で2024年7月30日、公正取引員会が「ハーレーダビッドソン・ジャパン」(以下HDJ)へ立入検査に入りました。同社はディーラー(正規代理店)に対して過剰なノルマを課し、目標未達の場合には新車の「自腹」買い取りを強要。応じない場合は契約を打ち切るなど、正常な商習慣に照らして不当に不利益を与えたことが問題視されています。

 近年、HDJは販売台数で前年比120%の伸びを見せていましたが、その原動力になっていたのが、独占禁止法に抵触するような違反行為であったとするなら非常に残念なことです。

 なぜHDJはそこまでして拡販路線に走ったのか、その原因はどこにあったのかは、今後の公正取引員会の立入検査の結果公表、あるいは第三者の調査報道が待たれるところです。

 しかし、原因がいずれにあったとしてもすでに実害は発生しています。2022年の時点で110店舗あったディーラーは、2024年8月現在で97店舗にまで減少。わずか2年間で13店舗が廃業しています。

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過剰なノルマを課せられたで全国のハーレー・ディーラーの経営は圧迫されている。画像はイメージ(山崎 龍撮影)。

 HDJから過剰なノルマを課されたディーラーには、合意がないまま店舗の規模に応じて毎月決まった台数の新車が強制配車されていました。当然のことですが、ディーラーはHDJから送られてきた新車を販売しなければ利益は得られません。すぐに顧客がつけば良いのですが、HDJが過大な販売目標を立てていたこともあって、ここ数年は供給が需要を上回っており、ディーラーの在庫はどんどん積み上がっていきました。

 販売現場の実態が無視され、それでもHDJからの新車の供給が止まらないとすれば、ディーラーが取り得る選択肢は限られます。

 具体的には、
1、用品サービスを含む大幅値引きをして自社で販売する
2、ディーラー以外のバイク店に業販する
3、自社登録をした上で未使用中古車(新古車)として中古車市場に流す
 こういった手段しかありません。

 しかし、どの販売方法も利幅が薄くなるため、長期的に見ればディーラーの経営を圧迫することになるでしょう。

ハーレー未使用中古車が市場にあふれた弊害

 実際に中古車サイトを確認したところ、2024年8月現在、2022~2024年型の現行モデルで走行距離が1~1000kmのハーレーの中古車価格は、メーカー小売希望価格より50~100万円ほど安く販売されています。販売台数は2024年型の低走行距離車だけで350台以上。しかも、正規ディーラーで販売されている車両がかなりの割合を占めています。

 走行距離100km以内の当年式の車両は、「未使用中古車」と呼ばれるものがほとんどで、ナンバーを1度取得していることから法的には中古車になりますが、実質的な新車といって差し支えありません。

 このような話をすると、「憧れのハーレーが安く買えるのだから結構なことじゃないか」と考えるかもしれません。確かに、これからハーレーを買おうと思っている人には、新車同様の車両がお値打ち価格で買えるわけですから、見方によっては今がチャンスといえるでしょう。

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「キング・オブ・モーターサイクル」の称号を持つハーレーダビッドソン。販売好調の裏でHDJによる「ディーラーいじめ」が疑われている(山崎 龍撮影)。

 しかし、問題はHDJが無茶な拡販路線に入る前、2021~2022年頃に新車を購入したユーザーです。これまでハーレーはそのブランド価値に支えられ、値落ちの少ないバイクとして定評がありました。そうしたこともあって新車購入時の値引きが少なく、彼らの多くは希望小売価格とほとんど変わらない金額で新車を購入しています。

 しかし、未使用中古車が格安で売られている以上、一般の中古車の再販価格はさらに安くならざるを得ず、その影響は当然ながら買い取りや下取り金額にも大きく作用します。

 その結果、現ユーザーが今の愛車を手放して他のバイクに乗り換えようとしても、条件が合わずに買い替えを断念せざるを得ない状況に陥るのです。これはブランドを信頼して購入したファンへの裏切り以外の何ものでもありません。

 1度痛い目を見たユーザーが、再びハーレーの新車を買う可能性は低いでしょう。

ブランドイメージ失墜の恐れも

 今回の問題による影響なのか、バイクブーム終焉によるものかは定かではありませんが、現在のハーレーの中古車相場は2~3年前に比べてわずかに下がっている印象です。

 特に2021年から生産国がタイに切り替わった現行モデル(CVOシリーズやトライクを除く)は、安価な未使用中古車が大量に出回っていることもあり、中古市場にはこれからより深刻な影響が出るものと予想されます。

 それ以前の北米で製造されたハーレーについては、ファンの中には北米モデル信仰を持つ人も少なくないため、一時的に中古車価格が下がっても、やがては絶版車人気のような形で中古車相場が回復することもあり得るでしょう。

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公正取引委員会の立入検査によりHDJによる無理な拡販戦略が露呈した結果、今後のハーレーの新車販売や中古車相場への影響が懸念されている(山崎 龍撮影)。

 ユーザー内で「ハーレーは新車価格こそ高いのに、買い取りや下取り金額は二束三文になる」といった悪評が広まると、熱烈なファン以外は購入を躊躇するようになり、これまで好調だった新車販売にも悪い影響が出るようになるのは間違いありません。

 ブランド価値を失うのは一瞬ですが、それを取り戻すには大変な労力と長い時間がかかるものです。筆者(山崎 龍:乗り物系ライター)も1人のライダーとして、HDJの動きは今後も注視していきたいと考えています。

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