今も全国で待機中です! 武器持たない自衛隊の即応部隊「FAST-Force」とは? でも戦闘車両には乗ることも

災害発生時、自衛隊のなかで最初に動き出す「FAST-Force」と呼ばれる部隊があります。彼らが担う役割とはどのようなものなのでしょうか。じつは日本全国にある基地・駐屯地で今も待機しています。

日没後だからこそ判明することも

 2024年8月8日16時43分頃、日向灘を震源とする地震が発生しました。宮崎県などで震度6弱を記録したこの地震に、防衛省・自衛隊は航空機を飛ばし、情報収集を開始しています。

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陸上自衛隊のCH-47JA輸送ヘリコプター。災害派遣では必ずといってよいほど姿を見せる(武若雅哉撮影)。

 海上自衛隊教育航空集団の公式Xでは、鹿児島県の鹿屋航空基地に所在する第212教育航空隊のSH-60Kヘリコプターが飛び立ち情報収集を行ったと投稿されていました。また、おそらく陸上自衛隊も熊本県の高遊原分屯地(熊本空港に隣接)や、佐賀県の目達原駐屯地などから各種ヘリコプターが飛び立っていると推察されます。

 これから暗くなる時間帯でも航空機を飛ばす理由は、暗いからこそわかる情報があるからです。それが「停電」と「火災」です。

 日本の都市部や人家がある地域は、おおむね夜間であっても街灯が煌々と光り輝いていますが、停電になると非常用の電灯や走行しているクルマのライト以外は真っ暗になります。また、火災が発生している場合は、夜間のほうが目立ちます。

 もし、各種航空機が「上空からの偵察結果、異常なし」と報告しても、これは貴重な情報として活用されます。なぜならば、この後送り込む地上部隊の行き先を決めることができるからです。

 地震では、発災から72時間が人命救助のリミットと言われています。そこで、自衛隊では全国の駐屯地すべてに災害対応における初動部隊「FAST-Force(ファスト・フォース)」を配置しています。

 これは「F=Fast(発災時の初動において)」「A=Action(迅速に被害情報収集、人命救助および」「S=Support(自治体等への支援を)」「Force(実施する部隊)」の略で、2013(平成25)年9月から自衛隊内で使われている名称です。

 今回の日向灘を震源とする地震では、幸いにして自衛隊に災害派遣要請は出ていません。しかし、防衛省・自衛隊は24時間365日、年中無休の体制で「いざ」というときに備えています。

「FAST-Force」が持つ意味とは?

 FAST-Forceの具体的な動きとしては、「震度5弱以上の地震が発生した場合は、速やかに情報収集することができる態勢」「震度5強以上の場合は、航空機による情報収集を行える態勢」の保持が陸海空の共通項目となります。陸上自衛隊では、全国の部隊で約3900名、車両等約100両、航空機約40機が待機していて、発災から1時間以内に出動できるよう、指定部隊の隊員たちは24時間待機しています。

 海上自衛隊は、地方総監所在地ごとに1隻の対応艦艇を指定し、航空機は各基地で約20名の隊員が15分から2時間以内に出動できる態勢を保持しています。

 航空自衛隊は対領空侵犯措置のため、すべての戦闘機基地で発進命令後5分以内に2機の戦闘機が離陸できる体制「5分待機」を実施していて、ほか航空救難や緊急輸送のために約10機から20機の航空機が待機しています。

 震度5強以上の地震が発生した場合には、これらの航空機を「任務転用」し上空からの情報収集活動を行えるようにしており、その離陸までの所要時間は15分から2時間と決められています。

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夜間、離着陸する陸上自衛隊のヘリコプター(武若雅哉撮影)。

 FAST-Forceに指定されている部隊の隊員たちは、自宅か基地(駐屯地)内で待機しています。それぞれの場所で待機している時に災害が発生し、その災害規模が基準に達していれば、24時間いつでも出動できるようにしているのです。そのため、普段から遠出をすることができず、陸上自衛隊の場合は所属する部隊によって、外出時の行動範囲も定められています。

 陸上自衛隊のFAST-Forceを例に出すと、指定された部隊は偵察オートバイや軽装甲機動車、高機動車といった車両を中心に編成され、発災後は速やかに地上からの情報収集に出動し、おもに「倒壊家屋の状況」「道路の通行状況」「火災や水害の発生の有無」「人命救助の有無」などの情報を収集します。

 特に「道路の通行状況」は重要な情報で、もし、道路が陥没していたり、倒壊家屋によって通行できなかったり、橋が崩壊していたりする場合などは、後続の救援部隊本隊の移動経路を変更しなければならないため、必要な場合は迂回路の確認にも向かいます。

FAST-Forceに欠かせない「当直」って?

 こうして先遣部隊から得られた情報は、速やかに連隊などの司令部に伝達され、その情報は旅団(師団)司令部などに集約されます。また、各自治体からの救援要請も集まってくるので、司令部などでは各情報を基に、それぞれの部隊の規模と派遣先を決定します。

 このFAST-Forceを機能させるために重要な役割となってくるのが、「当直」の存在です。ここでいう「当直」とは、勤務時間外において部隊の行動を統括する特別勤務者のことを指します。

 自衛官は「特別職国家公務員」ですので、通常であれば1日7時間45分の勤務時間を基準として、8時15分から17時までを「勤務時間」、それ以外の時間を「勤務時間外」といいます(ただし、駐屯地などの規則によって勤務時間に違いあり)。

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FAST-Force指定車両に貼られたマグネットシート(武若雅哉撮影)。

 当直にもいくつか種類が存在し、陸上自衛隊の場合は駐屯地を統括する「駐屯地当直司令」、連隊などの部隊を統括する「部隊当直」、中隊などを統括する「中隊当直」などがあり、勤務時間外における発災時の情報収集と人員の管理がおもな役割です。この人員の管理にはFAST-Forceも含まれているため、当直の判断によって、必要となればFAST-Forceの隊員たちに呼び出しが掛かります。

 当直は決して表に出ない地味な存在ですが、部隊が休んでいる時には部隊の目となり耳となり、万が一の災害発生時には迅速に対応することが求められる存在として、重要な役割を持っています。

 災害発生時に、その能力を最大限発揮して、様々な役割を果たすFAST-Forceですが、彼らがいるからこそ、自衛隊は迅速な人命救助活動を展開することができるのです。

 迅速な対応には、平素における各自治体や関係機関との緊密な連携も重要になってきます。防衛省・自衛隊は、各地で行われる防災訓練や協議会などを通じて、地域に密着した防災組織の一部として常に備えているのです。

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