「韓国イージス艦」なぜ武装テンコ盛り!? 海自「あたご」「まや」とは似て非なるワケ 実は「ならでは」の事情も

2024年末に4隻目のイージス駆逐艦が就役予定の韓国海軍。同国のイージス艦は一見すると日米の同種の艦とよく似ているものの、極めて重武装なのが特徴です。ただ、そうなったのには「大人の事情」があったようです。

もうすぐ4隻目が就役予定

 2024年現在、韓国海軍はイージスシステムを搭載したミサイル駆逐艦の増備を進めています。

 今年(2024年)末には最新の「正祖大王(チョンチョデワン)」が就役する予定ですが、その原型といえるのが世宗大王(セジョンデワン)級です。「正祖大王」は、この世宗大王級の改良型という位置づけになります。

 いうなれば、世宗大王級は韓国初のイージス艦と位置付けられますが、モデルとされたアメリカ海軍のアーレイ・バーク級駆逐艦や、ほぼ同じ大きさである海上自衛隊のあたご型護衛艦と比べると圧倒的に武装が強力です。ただ、そこまで大量の武装を備えたのには、韓国ならではの事情もあったようです。

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韓国海軍のイージス駆逐艦「世宗大王」。一見すると日米のイージス艦とよく似ているが、艦橋前方に装備した近接防御用の対空火器が、20mmバルカン・ファランクスではなく、RAM対空ミサイル発射機である(画像:韓国海軍)。

 そもそも、世宗大王級は2008年から2012年にかけて3隻が建造されました。就役は、1番艦の「世宗大王」が2008年12月で、2番艦「栗谷李珥(ユルゴク・イ・イ)」が2010年9月、そして3番艦「西厓柳成龍(ソエ・リュ・ソンニョン)」が2012年9月と、ほぼ2年おきになります。

 なお、1番艦と3番艦は現代重工業で、2番艦は大宇造船海洋(現ハンファ・オーシャン)でそれぞれ建造されています。

 世宗大王級は、満載排水量が1万455トンで船体寸法は全長165.9m、全幅21m。艦橋を始め、その後ろにある煙突などの上部構造物、そしてヘリコプター格納庫へと続く船体形状はアーレイ・バーク級やあたご型と似ているものの、艦首に備えた波よけ用の囲い、いわゆるブルワークや、艦内に収めた搭載艇などに、独自のデザインを見ることができます。

 そして、この船体に固有武装として垂直発射システム(VLS)計128セルに加え、対艦ミサイル(SSM)4連装発射筒4基、近接防空ミサイル(RAM)発射機1基、近接火力システム(CIWS)1基、3連装魚雷発射管2基、そして5インチ単装砲1基が搭載されています。

至るところに独自装備がチラホラ

 世宗大王級がモデルにしたのは、アーレイ・バーク級のなかでも後期型といえる「フライトIIA」ですが、このクラスはVLSが96セルです。前出した日本のあたご型護衛艦も、同じくVLSは96セルです。

 一方、世宗大王級は前出のようにVLSだけで128セルもあります。なぜ、日米のイージス艦よりもVLSの数が多いのかというと、アメリカのロッキード・マーティン製Mk.41と、韓国が独自開発したK-VLS-I、両者を備えているからです。

 Mk.41は船体前部に48セル、後部に32セル搭載しており、艦対空ミサイルとして「スタンダード」SM-2MRブロックIIIAを搭載します。一方、K-VLS-Iには国産兵器が搭載できるようになっており、艦対地巡航ミサイル「海星2」や対潜ミサイル「赤鮫」などの発射に用いられます。

 ただK-VLSは国産ミサイル発射用に開発されたため、Mk.41に搭載するアメリカ製兵器を運用する能力は持っておらず、とうぜん「スタンダード」SM-2の発射機能もありません。つまり、両者は全く互換性がないため、弾道ミサイル防衛を含む広域防空艦として運用するためにはアメリカ製Mk.41は外すことができず、対地・対潜能力を確保するためにはK-VLSも必須という状況で、これだけ多くのVLSを搭載しているといえるでしょう。

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韓国海軍のイージス駆逐艦「世宗大王」。2本ある煙突のあいだに斜めに搭載されているのが国産の艦対艦ミサイル(画像:韓国海軍)。

 なお、韓国の独自装備は対地・対潜ミサイルだけではありません。対艦ミサイル発射筒に搭載されるのは、国産の亜音速SSM「海星」。これは、韓国の水上艦艇における対艦兵器の主力であり、射程は180km程度とされています。

 また近接防空システム、いわゆるCIWSは日米の艦艇で見られる口径20mmのバルカン・ファランクスではなく、オランダのシグナール(現・タレス)が開発した口径30mmの「ゴールキーパー」です。ヘリコプター格納庫は左右両舷にあり、「スーパーリンクス」2機を運用できます。

重武装の理由は「全方位対応」

 それでは、なぜ世宗大王級はここまで重武装の船として誕生したのか、その理由はひとえに韓国海軍が置かれた状況に「全方位対応」しようとしたからだといえるでしょう。

 韓国は、いまだ北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と戦争状態にあります。朝鮮戦争はあくまでも「休戦」であり、北緯38度線を挟んで対峙した形です。朝鮮戦争は地上戦がメインであることから、韓国軍それに対応すべく陸軍に比重を置いた予算・編成を採っており、万一再び戦火が交わされるようになったら、北朝鮮の地上部隊を撃滅するために、海からも対地支援を行うことになるでしょう。

 一方、北朝鮮の海軍力は、陸軍戦力と比較して圧倒的に小さく、かつその主体は潜水艦です。ということは海戦については対潜戦が中心になるでしょう。なお、北朝鮮については、核兵器や弾道ミサイルにも警戒する必要があります。

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船体前部のVLS(垂直発射装置)から「スタンダード」対空ミサイルを撃った世宗大王級イージス駆逐艦(画像:韓国海軍)。

 また、韓国は竹島(韓国名ドクト)で日本と領有権を争っており、日本と対峙することも想定しているほか、最近では海上戦力の強化が著しい中国にも警戒する必要が出ています。

 こうした状況から、世宗大王級は日米のイージス艦のように、その能力を対空メインに振ることができず、結果として重武装になったとも言えるでしょう。

 ただ、やはりアメリカ製と国産、両方のVLSをこれだけの数搭載するのは非効率だと判明したのか、改良型の「正祖大王」では、その数は88セルにまで減る模様です。

 ある意味で、初めてのイージス艦だからと武装をテンコ盛りにしてみたと形容できる世宗大王級駆逐艦。それは、韓国海軍が置かれている状況を映した「鏡」だったといえるのかもしれません。

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