ドイツ生まれの「最新ニコイチ戦車」どこがイイ? 実はメリット盛り盛りの“超コスパ良しタンク”だった
ドイツのラインメタル社が、このたび開催されたユーロサトリ2024に2種類の最新戦車を展示していました。ただ、一方は明らかに既存戦車の派生型。しかし、その方が商機があるのかもしれません。
「砲塔だけ新型」の戦車が展示 なぜ?
2024年6月にフランスのパリで開催された安全保障関連の防衛見本市「ユーロサトリ2024」にて、ドイツの防衛企業ラインメタル社が新型戦車KF51「パンター」の派生モデルを出展しました。KF51は、2022年に開催された前回のユーロサトリで初公開されましたが、今回はそれをベースにした異なるモデルが2種類、展示されました。
1台は「KF51-U」。この車両は、CUT(コンセプト無人砲塔)と呼ばれる新型砲塔を搭載したのが一番の特徴です。またそれ以外にも、乗員すべてを車体側に配置するなどの従来戦車とは異なる部分が多く、次世代の戦車の方向性を提示するコンセプトモデルとなっていました。
しかし、筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)が注目したのは、そこまで革新的とはいえないもう1台、「パンター・EVO・アップグレード」です。
この戦車はKF51用の有人の新型砲塔を、現用の「レオパルト2A4」戦車のシャシーに搭載したもので、新旧のパーツが組み合わさったハイブリッド戦車といえるモデルです。新型砲塔には、ラインメタル社の新たな主砲システムであるFGS(フューチャー・ガン・システム)が搭載可能で、この他に徘徊ドローン発射機やセンサーと統合化された新しいRCWS(リモート・コントロール・ウェポン・ステーション)も装備されています。
そんな最新鋭の砲塔が、なぜ真新開発の車体ではなく、古い技術で作られた既存戦車の車体と組み合わされたのでしょうか。
世界中の「レオパルト2」ユーザーが潜在顧客に
「パンター・EVO・アップグレード」は、その名前にアップグレードとあるように、これまである資産を改良して活用するのが狙いです。ラインメタル社の説明によれば「レオパルト2」を運用する国であれば容易かつ短期間でKF51にアップグレードできるため、新型戦車を導入するよりもコストパフォーマンス(費用対効果)に優れるそうです。
「レオパルト2」はドイツが開発・生産する戦車ですが、運用はドイツだけに留まりません。ヨーロッパに限っても、オーストリア、オランダ、ギリシャ、スペイン、スイス、ノルウェーなどがあり、それ以外の地域を見渡してもトルコやインドネシア、シンガポール、チリ、カナダなど、採用国は世界中に存在しています。
KF51自体は新型戦車であるものの、その一部を現役戦車へのアップグレード用パーツとして提供できれば、これら「レオパルト2」を運用する国々を潜在的な顧客として捉えられるようになります。
また、運用国から見ても、現役戦車のアップグレードという方法はメリットがあります。「パンター・EVO・アップグレード」は車体を流用することで、兵站や乗員教育などの運用面でも従来戦車と一部共有化できるため、運用コストの削減や配備までの時間短縮が可能になります。ラインメタル社では、「パンター・EVO・アップグレード」と「レオパルト2」の消耗部品は共有化されていることから、2種類の戦車をひとつの部隊で同時に運用することも可能だと説明していました。
主砲交換も段階的アップグレードもOK
「パンター・EVO・アップグレード」は単純に砲塔を付け替えるだけでなく、車体も含めて、各種のカスタマイズされたアップグレードが可能だそうです。たとえば、主砲は現在主流の120mm砲だけでなく、次世代戦車で普及していくと目される新たな130mm砲に交換することも可能です。「パンター・EVO・アップグレード」を導入した国は、既存の120mmを運用しつつも、周辺情勢を見ながら新型の130mm砲へと交換することができます。また、使われているシステムは完全なデジタル化がされており、さらにNGVAと呼ばれるNATO規格のモジュラー式オープンシステムで設計されているため、定期的な更新や改良も可能だといいます。
2024年7月現在、ドイツとフランスは双方の主力戦車の後継車両開発をMGCS(陸上主力戦闘システム)計画の名前で共同に進めており、この計画には欧州域内のNATO(北大西洋条約機構)諸国も注目しています。そのため、開発される新戦車は2か国だけでなく、他国にも採用される可能性が高く、もしその国の数が大幅に増えたなら、次世代のNATO標準戦車になる可能性も秘めていると言えるでしょう。
しかし、開発計画は大きく遅れており、実際に配備されるのは2030~35年とされるため、MGCS完成までの繋ぎとなる戦車を各国は求めています。ラインメタル社にとしては、そこにKF51の商機を見出しているようで、その「繋ぎ用戦車」に、導入しやすい「パンター・EVO・アップグレード」というオプションを提示することは、自社製品のユーザーを増やすだけでなく、将来のMGCS計画に対して、一定の影響力を発揮できることにも繋がります。
KF51自体はいまだ開発中ですが、2023年12月にハンガリーが次世代戦車として共同開発の契約を締結。さらに最近の報道では、イタリアが「レオパルト2」の導入を取りやめ、代わりにKF51の導入を検討しているとも伝えられています。今後、どのような国でどんな形のKF51が導入されるかはわかりませんが、こうしたことを鑑みると、近年中にKF51が配備される可能性は決して低くはないようです。
07/22 06:12
乗りものニュース