「へ、メーターもない?」ミニマムすぎる斬新SUVが好調 でもそれは“ボルボらしい”のか?

ボルボのコンパクトSUV「EX30」が好調。戦略的な価格設定で、クルマの買い方も大きく変えています。メーター類すらも廃したミニマムさも先進性を演出しているものの、果たしてそれは“ボルボ”らしいのでしょうか。

戦略的な価格の「プチボルボ」

 ボルボのコンパクトSUV「EX30」が好調です。戦略的な価格設定を武器に、ボルボというブランド内でのBEV(バッテリーEV)の普及を牽引していますが、そのEX30、クルマづくりの面でも従来の“ボルボ”のイメージを大きく覆しています。

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ボルボEX30(大音安弘撮影)。

 北欧の自動車メーカー・ボルボといえば、こだわりの安全性能が支持され、多くの人に愛されてきました。現代のボルボは、さらなる価値として「電動化」を掲げています。既にピュアなエンジン車はラインアップになく、マイルドハイブリッドとプラグインハイブリッドの電動車が主力。日本でも2021年11月のコンパクトクーペSUV「C40リチャージ」を皮切りに、BEVの導入を開始しました。最終的には、2030年までに全てのボルボ車をBEVとすることを掲げています。

 2023年11月より販売を開始したコンパクトSUV「EX30」は、BEV専用設計となる新世代モデルの第一弾です。先行したBEVの「C40リチャージ」と「XC40リチャージ」よりも安価なのはもちろんのこと、BEVながら、補助金を含めるとボルボのエントリー車となる「XC40プラス」の549万円より安価となります。

 EX30は、SUVタイプのBEVであると共に、現行ラインアップの中で最も小型なモデルとなっています。そのボディサイズは全長4235mm×全幅1835mm×全高1550mmと、国産車のトヨタ「ヤリスクロス」より少し大きいというくらい。標準車向けの立体駐車場に収まる全高も大きな強みです。

 現在の日本仕様は後輪1モーターの後輪駆動車で、最高出力200kW(272ps)、最大トルク343Nmを発揮。69kWhの駆動用バッテリーを搭載し、一充電の走行距離は560km(WLTCモード)を確保しています。装備もボルボ独自の先進安全運転支援機能を始め、googleナビ搭載のインフォメーションシステム、高性能オーディオシステム、パノラマガラスルーフ、パワーテールゲートなどを標準化しています。

 ここまで充実の内容を誇りながら、559万円という現実的なプライスを掲げ、そこに補助金も適用されます。最もBEVへの補助が大きい東京都の場合、政府と自治体の補助金を合わせて、85万円が支給されるうえ、自動車税が5年間免税になるため、最も手頃な新車のボルボという立ち位置となっています。

ボルボはもはやEVメーカー “お試しボルボ”も好調

 戦略的な価格と補助金の効果もあって、2024年の1月から4月までのEX30の累計登録台数は942台と、輸入車EV車名別登録台数でトップを記録。さらに同期間の全ボルボ車の国内登録台数4200台に対して、BEVの3車種が占める“EV比率”は25.8%にも達しており、今やボルボ車の4台に1台がBEVへとシフトしています。

 では、ボルボBEVの主力となったEX30は、どのような人が購入しているのでしょうか。

 ボルボカージャパン広報部によれば、購入者の平均年齢は50代前半。ただし購入者層としては、20代~70代と幅広いそうです。購入者の地域は、東名阪が多く、降雪地のユーザーは少なめだそうですが、これはEX30の日本仕様に、現時点で4WDが未設定なことが影響していると見ているようです。

 手軽にEV生活が始められるサブスクシステムの提案も、ボルボEVの特徴のひとつ。C40リチャージに続き、EX30も導入記念企画として、300台限定で実施されました。車両代や税金、任意保険料などを含め、月々9.5万円で最大24か月の利用が可能なほか、さらに3か月前の申し出で途中解約も可能となっています。

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ダイヤサイズは245 45R19、最低地上高は175mmを確保。それでいて全高は1550mmに抑えられている(大音安弘撮影)。

 EX30のサブスクへの申し込みは375件あったそうですが、契約まで至ったのは、143人だったそう。このことはEVへの関心は高まりつつあるものの、まだ購入を躊躇してしまう人が多い現実を伺わせます。ただ、ボルボ国内初のBEVとなった「C40リチャージ」で実施されたサブスクを含め、半年以内の解約は全体の20%と、BEVをお試しで終えた人は意外と少なく、多くの利用者がBEV生活を満喫しているとのことでした。

 また契約者も個人が75%と多かったのも、現状のBEV購入検討者にとって、サブスクは魅力的な提案だったといえそうです。

「メーターなし」は先進的か、コストダウンか

 実際に、ボルボEX30に触れてみると、日本でも家具や雑貨で人気の高い北欧テイストを前面に打ち出した内外装は、ドイツ車やフランス車などの日本でメジャーな輸入車とも異なる世界観を見せてくれます。

 T字を横にしたトールハンマーデザインヘッドライト、素材へのこだわりとフィットの良さを感じさせるシートなどのボルボらしい特徴を受け継ぎつつ、グリルレスのフロントマスクや、センターディスプレイのみの表示システムなどは、EVらしい新たなスタイルも打ち出されています。

 ドライブに連れ出すと、手頃なサイズ感が生む取り回しの良さに加え、高い静粛性やモーターによる俊敏な加速など、BEVならではの価値が感じられます。

 一方で、全高を抑えた結果、ボディ下部へのバッテリー搭載による後席の床面の高さ、それによる後席の着座姿勢への影響に加え、メーターパネル廃止に代表される合理化がもたらす操作系や表示系への影響を感じたのも確かです。

 BEVとして、高価な駆動バッテリーを使いながらも現実的な価格を実現すべく、新たなアプローチによるコストダウンが行われています。それが分かりやすく反映されているのが、メーターパネルやスイッチ類の削減というわけです。さらに内部構造でいえば、車内に設置される配線の数や長さまで、切り詰められています。

 それらの取り組みは、環境資源の有効活用にも繋がるため、決して悪いことではありません。ただ使い勝手という面では、既存のクルマとは異なる方向性に進み、ある意味の割りきりが生まれているのも事実なのです。

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後席は下部にバッテリーがあるため床がやや高い。パワーウィンドウの開閉スイッチはドアになく、ドアはほぼ純粋に“ドア”だ(大音安弘撮影)。

 ボルボの普及型EVとしての役目を担うEX30、その“ボルボらしさ”を受け継ぎつつも劇的な改革を図る姿は、今後のEV専用車の在り方を知るうえで最適な1台といえるでしょう。ただ、先進性こそ際立つものの、合理的なEX30のスタンスは、これまでのボルボらしさが良くも悪くも薄まったように思える部分も有ります。

 今後、唯一残った北欧生まれの量産車メーカーとして、ボルボがどう独自性を表現していくのか、筆者は注目しています。

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