現代戦じゃ絶対ムリ!?「屋根なし戦車」パッと見キケンなのにナゼ? 実は大きなメリットも

現在の戦車はトップアタックを警戒し、車体上部に金網を始め色々なものを付けるようになっています。しかし、かつては砲塔内部がむき出しだった車両も存在しました。アメリカが開発した駆逐戦車です。

むき出しの原因は当時の米軍戦術

 2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻は、戦車のあり方を大きく変えました。これまで弱点である装甲の薄い車体上部は航空機にしか狙えませんでしたが、ドローンによるトップアタック(車体上部への攻撃)で損傷を受けるケースが続出し、「コープケージ」と呼ばれる金網を張るなどの対策を取らねばならなくなったからです。しかし、過去には上部の防御を全く考慮しておらず、“むき出し”だった車両もありました。そのひとつが第二次世界大戦中にアメリカで開発された駆逐戦車です。

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フランスのヴェックリングに戦争記念碑として置かれるM10「ウルヴァリン」(画像:アルフ・ファン・ベーム/CC0)。

 M10「ウルヴァリン」、M18「ヘルキャット」、M36「ジャクソン」などに代表されるこれらの戦闘車両は、アメリカ陸軍のみならずイギリスやフランスなど連合軍を構成する各国に供与されましたが、厳密には戦車ではなく、対戦車自走砲の一種となっています。

 見た目は戦車そのものですが、実は砲塔に屋根がなくオープントップ(露天)構造になっています。なぜこのような奇妙な構造が採用されたかというと、アメリカが第二次世界に参戦する直前に考え出された戦術に理由がありました。

 アメリカ陸軍は第二次世界大戦に参戦する直前の1941年12月3日、「戦車駆逐大隊」というものを作りました。この部隊の基本方針は「探し出し、攻撃し、駆逐せよ」です。敵戦車が出現したら素早く現場に急行し、火消し役になることが求められていました。

 そのとき、この部隊に配備された車両は、戦車ではなくGMC(Gun Motor Carriage)というハーフトラックの戦闘室に榴弾砲を取り付けた車両や、軍用トラックの荷台に対戦車砲を取り付けたものが主流でした。

むき出しには大きな意味があった?

 これらは機動性を重視した“動く対戦車砲”といえるものです。なぜ、こうしたかというと、実は当時のアメリカ陸軍では、戦車に対して戦車が相手をするケースというのは偶発的な“遭遇戦”のみに限定していたからです。そのため、積極的に機動力を使って敵より先手を打ち戦車を撃破する役割は、「専門家」である戦車駆逐大隊に任せようという考え方でした。

 しかし、戦争に参戦し北アフリカでドイツ軍との戦闘が始まると、すぐさま戦車駆逐大隊の戦車砲や車両では、ドイツ戦車相手に非力であることが明らかになります。

 この問題を解決すべく、アメリカは慌ててM4中戦車の車体を流用した50口径3インチ(76.2mm)砲を搭載したM10駆逐戦車を開発、1942年6月に制式化します。このとき、オープントップの砲塔が採用されましたが、これは軽量化のほかにも、3人の乗組員が肉眼でいち早く敵戦車を発見し、有利な位置にいち早く先移することで先制攻撃や待ち伏せを行いやすくするという理由からでした。

 その後も、M18「ヘルキャット」やM36「ジャクソン」など類似の駆逐戦車を制式化しますが、M10と同じように砲塔をオープントップにしています。なお、一見すると防御力に不安があるように思えますが、近距離での戦車相手ならば、砲塔については正面装甲さえしっかりしていれば、飛んでくる砲弾は直射のため頭上に降り注ぐことはほぼありません。実際、砲塔が直接攻撃を受けるケースは少なかった模様です。

 しかもアメリカが組した連合軍は、ドイツとヨーロッパで戦うようになって以降、常に航空優位を得ていたため、空襲を受けることはほぼありませんでした。そのため、機敏に動き、敵の側面や背後を脅かす戦法なども多用しています。ただ、敵戦車に先に発見された場合や対歩兵戦における装甲の貧弱さが仇となったため、戦場に急行し、敵攻撃後は即離脱するというヒット&アウェイ戦法を取るのが絶対条件でした。

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市街地戦を行うM36「ジャクソン」(画像:アメリカ国立公文書館)。

 しかし、戦車と比べて目覚ましい戦果をあげた訳ではなく戦車同様、全周旋回砲塔を備え、ほぼ同等の火力と機動力を持ち、防御力がぜい弱な戦闘車両をわざわざ別ライン作る必要もないだろうと、戦後は姿を消すことになります。

実はドイツにも似たようなコンセプトの車両があった

 実は第二次世界大戦中にはドイツ軍でも既存戦車の生産ラインを流用しつつ、生産が面倒な砲塔を撤去し、代わりに砲を車体に直付けする対戦車自走砲が開発されています。

 これら車両は最初の「マルダー」シリーズこそ上部はむき出しの状態でしたが、後に登場した「ヘッツァー」に関しては密閉式の固定砲塔となっています。「ヘッツァー」は、大戦後半のドイツ軍の敵の進入路で罠を張る機動防御で待ち伏せ車両として使われるようになると、真価を発揮するようになります。

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ワルシャワ蜂起で鹵獲された「ヘッツァー」初期型(画像:パブリックドメイン)。

 同じ「戦車を駆逐(追い払う)」する車両ではありますが、アメリカ軍の駆逐戦車は「攻め」待ち伏せに特化し、ドイツ軍の方は「守り」の待ち伏せ特化したため、その車体の構造には大きな違いが生まれましたといえるでしょう。

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