なぜウクライナにF-16引き渡されない? 最新ステルス戦闘機がもたらした “大影響”とは

ウクライナ待望のアメリカ製戦闘機F-16の供与が計画からだいぶ遅れそうです。ただ、その理由は同じくアメリカで生産されている最新ステルス戦闘機のアップデートが進んでいないからだとか。どういうことなのでしょうか。

F-35の計画遅延がなぜウクライナに影響するの?

 ロシアによる侵略戦争に対抗するため、各国が力を入れるウクライナへの軍事支援において、重要な役割を担うはずだったF-16「ファイティングファルコン」戦闘機の同国への供与がいまだ始まりません。当初は、2024年の春に引き渡しが開始される予定でしたが、その気配はなく、7月現在でも最初の作戦を実施したという情報はないままです。

 このように、F-16供与の計画は明確に遅れていると言えるでしょう。その主な要因は、ウクライナ空軍パイロットのF-16への機種転換訓練に時間を要しているからだと推測されます。しかし、ここにきてもうひとつの波乱が訪れているようです。それは最新鋭ステルス戦闘機F-35「ライトニングII」の開発スケジュール遅延という思わぬ落とし穴です。

Large 240717 ukraina 01

アメリカ海軍で運用した頃のF-16戦闘機(画像:アメリカ海軍)。

 F-35戦闘機は、アメリカを中心に多国間で共同開発された次世代戦闘機であり、ステルス性能や高度なセンサー技術を備えています。しかしその開発が難航しており、これが原因で引き渡しが停止しています。この遅延はすでに1年近く続いており、来年まで続く見込みです。

 F-35の遅延が、なぜウクライナへのF-16供与に影響を与えるのでしょうか。その理由は、F-35の配備が進むことで、F-16が余剰機となり、それをウクライナ向けにするという流れで供与計画が立てられているからです。

 具体的には、NATO(北大西洋条約機構)に加盟するベルギー、オランダ、ノルウェー、デンマークの空軍が保有するF-16のうち、95機がウクライナに供与される予定です。つまりF-35が配備されない限り、これらの国々はF-16を運用し続ける必要があり、結果としてウクライナへの供与が遅れるのです。

もし見切り発車しても問題は残ったまま

 F-35はすでに戦闘機として実用化され量産中ですが、それと並行して性能向上型の開発が進行中で、新規生産は搭載コンピューターのハードウェアを一新した性能向上型「TR-3(テクニカルリフレッシュ3)」に切り替えられています。しかしTR-3を動作させるための改良型ソフトウェア「ブロック4」の実証が遅れており、すでに100機近いF-35がハードウェアだけ完成した状態で保管され、新しいソフトウェアのインストールを待っている状態となっています。

 この事態に対し、まず訓練は可能ですが実戦投入は不可能な「機能限定型ブロック4」の開発を急ぎ、とり急ぎ各国空軍への引き渡し停止を解除し、後に作戦能力を持った正規型のブロック4へアップグレードするという計画が立案されています。

 機能限定型ブロック4の完成は7月を見込んでいますが、本記事執筆時点(2024年7月上旬)で開発完了したという情報はまだなく、8~9月頃になるのではないかと目されます。ただ、正規型ブロック4は来年以降になってしまうと見積もられているため、さらなる遅延も十分にありえます。なお、F-35 TR-3は既存の作戦能力を持ったソフトウェアである「ブロック3F」は動作しません。

Large 240717 ukraina 02

アメリカ、デンマーク、オランダ、3か国のF-35A戦闘機(画像:アメリカ空軍)。

 機能限定型ブロック4の完成によってF-35の引き渡しは再開できるでしょうが、ロッキード・マーティン社では月20機、すなわち1営業日あたりおよそ1機の割合で納入できると予想しています。とはいえ保管状態の機体が約100機にも達し、新造機も続々と完成しているため、遅れをすべて解消するには1年はかかると考えられます。

 現状、前出した4か国のF-16が、いつ、どのようなスケジュールでウクライナ空軍へ引き渡されるのか明らかになっていません。戦闘機の導入はウクライナの独立と自由を守るために不可欠な要素であるため、一刻も早い供与が望まれます。

 ただ、その一方でF-35納入遅延の影響は深刻であり、当面大きな課題として残り続けるのではないかと予想されます。

ジャンルで探す