「ナナメ前が見えづらい!」そんなクルマがなぜ増えたのか 未だに続く改善の試行錯誤

ナナメ前方の視界が悪い――というクルマが少なからず存在します。以前よりもずいぶん改善されてきたものの、未だに試行錯誤が続いているようです。そもそもなぜ、ナナメ前方は「見えづらく」なってしまったのでしょうか。

ナナメ前方視界を“さらに改善” 新型フリード

 ホンダの人気コンパクトミニバン「フリード」がフルモデルチェンジし、2024年6月28日に発売。その発表の説明を読んでいると、「ななめ前方の視界をより向上させ歩行者を認識しやすくするなど、運転時におけるさらなる安心感を提供することを目指しました」とあります。
 
“ナナメ前”の視界向上とは、けっこう地味な話と思う方もいるかもしれませんが、実際に運転する身として考えると、かなり重要なポイントではないでしょうか。

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ナナメ前方の視界がピラーで遮られることがある。写真はイメージ(画像:写真AC)。

 そして、“ナナメ前”が見えにくいクルマが少なからず存在していることに気が付きます。交差点を曲がるときに歩行者確認がしにくい、あるいはナナメ前から来るクルマに気づきづらい――そうしたクルマがなぜ生まれてしまうのでしょうか。

“ナナメ前”が見にくいクルマの要因は大きく2つ考えられます。ひとつは「Aピラーが太い」こと。そして、もうひとつが「ドアミラーが視界をふさいでいる」ことです。

 Aピラーとはフロントウインドウの左右にあって、屋根に続く柱のような部分のこと。ピラーとは英語で柱を意味する言葉です。ちなみに横からクルマを見たときに、一番前にある柱がAピラー。前席ドアの窓と後席ドアの窓の間にある柱がBピラー。後席ドアの窓の後ろ側の柱がCピラーと呼びます。

 屋根を支える一番前のAピラーが太くなったのは、安全性の向上が理由です。この柱が細いと、クルマがひっくり返ったときに客室がつぶれてしまいます。まだまだ安全意識の低かった昭和のクルマを見ると、どれも驚くほどAピラーが細いことに気づくはずです。

「そんな細いAピラーでは危険だ!」ということで、おおむね1990年代頃より、クルマはAピラーが太くなっていきました。1995年度からは、市販の自動車をわざと衝突させるなどして安全性を評価・公表する「自動車アセスメント」の制度も日本で開始しています。

 そうした結果、残念なことに“ナナメ前”が見えにくくなってしまったというわけです。

ドアミラーもジャマ!

 そして、ナナメ前方の視界が悪くなるもう一つの要因となるのが、ドアミラーです。日本でドアミラーが使われるようになったのは1983年から。それ以前は、ドアミラーが許されておらず、フェンダーミラーが使われていました。

 今でも「ジャパンタクシー」が、タクシー業界の強い要望からフェンダーミラーを採用していますが、実際にフェンダーミラーのクルマを運転してみると、後ろを確認するときの視線移動がドアミラーよりもフェンダーミラーの方が短いことに気づくはずです。実用性という意味では、ドアミラーよりもフェンダーミラーの方が勝ります。それでも1983年の解禁以来、乗用車のほとんどはドアミラーを採用するようになりました。

 それはドアミラーの方が、格好がよいからです。フェンダーミラーよりも、ドアミラーの方が見栄えが良いということで、あっという間に世の中はドアミラーばかりとなってしまったのです。しかも、ドアミラーをAピラーの付け根に配置するのが、もっともスタイリッシュに見えます。ですから、1980年代や90年代のクルマのほとんどは、ドアミラーがAピラーの付け根に設置されていました。

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昔のクルマはドアミラーでもピラーが細く、三角窓もついているのが一般的(乗りものニュース編集部撮影)。

 つまり、安全性を高めるためにAピラーは太くなり、一方で、格好良くするためにドアミラーはAピラーの付け根に配置されました。その2つの結果として、“ナナメ前”の見えにくいクルマができ上がったのです。後ろをよく見えるように、ドアミラーを大きくすれば、さらに“ナナメ前”の視界は悪化します。

“ナナメ前の視界”どう改良?

 しかし、徐々に「ドアミラーは“ナナメ前”が見えにくい」ということに、自動車メーカーも気づきます。早いものだと1990年代後半くらいから、そして2000年代に入るといくつかの自動車メーカーが工夫を始めます。Aピラーの剛性を保ちながら断面形状の工夫などで視界を確保したり、ドアミラーの形や配置を工夫するなどし始めたのです。

 分かりやすい工夫は、ドアミラーをAピラー付け根ではなく、そのやや後方、ドアそのものに移動することです。これによりAピラーとドアミラーの間に隙間ができて、“ナナメ前”が見やすくなります。ドアミラー側の根本を細く、長くして、Aピラーから距離を置くという手法もあります。

 また、Aピラーそのものの位置の変えるのも効果的です。2015年に登場した現行型「ロードスター」はAピラーをドライバー側に近づけることで、“ナナメ前”が見やすくなっています。

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フロントガラスが傾斜しているクルマはピラーが太く、着座位置によっては邪魔になることも(乗りものニュース編集部撮影)。

 そうした工夫を、新型「フリード」でも、忘れずにやっていますよ! というのが、今回の発表資料の説明だったのでしょう。

 クルマの格好の良さは、売れ行きを左右する、非常に重要なファクターです。それでも、安全・安心なカーライフのためには、“ナナメ前”が見やすいにこしたことはありません。クルマを買うときは、ぜひとも“ナナメ前”の見やすさもチェックすることをお忘れなく。

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