このままでは乗り換えが永久固定… 西九州新幹線を全通させるには “全く別ルート”の方がメリット大?

未完成である西九州新幹線の武雄温泉~新鳥栖間は、佐賀県の反対で建設の目途が立ちません。現状のままでは武雄温泉駅での乗り換えが必須ですが、何とか全通できる方策を考えてみました。

前提にあったフリーゲージトレイン

 西九州新幹線は、計画では新鳥栖駅(佐賀県鳥栖市)から分岐して長崎駅に至る経路とされています。2022年に武雄温泉~長崎間が開業しましたが、残りの新鳥栖~武雄温泉間は建設の目途が立っていません。
 
 このため武雄温泉駅(佐賀県武雄市)では、博多~武雄温泉間の在来線特急と西九州新幹線とで乗り換えが発生しています。もし、フル規格新幹線で九州新幹線と接続されていれば、新大阪・博多~長崎間などで直通列車が走れるわけですから、長崎県としては機会の損失であり、早期の全線開通を働きかけています。

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西九州新幹線。武雄温泉~長崎間はフル規格(安藤昌季撮影)。

 しかし、未開通の新鳥栖~武雄温泉間が位置する佐賀県は、西九州新幹線の建設に反対しています。当初計画が、新鳥栖~武雄温泉間に新幹線と在来線の双方に乗り入れられるフリーゲージトレインを導入し、これがJR長崎本線に乗り入れて直通するというものだったからです。

 しかし、フリーゲージトレインの開発は失敗。軌間変換機構が高コストで耐久性がなく重いため、新幹線区間の最高速度が270km/hに制限されたのです。山陽新幹線の最高速度は300km/hですから、JR西日本は「遅いフリーゲージトレインはダイヤを乱す」と乗り入れを拒否、JR九州も「コストが高い」とフリーゲージトレインを拒否したのです。

 この結果、西九州新幹線には通常のN700S電車を走行させることとなりました。国と長崎県は、残る新鳥栖~武雄温泉間をフル規格で建設しようとしましたが、佐賀県は「新鳥栖~武雄温泉間はフリーゲージトレインだから賛成した。博多~佐賀間は在来線特急でも最速44分で、新幹線建設の必要性はない」と拒否。両者の主張は平行線を辿っています。

佐賀県を通らないルートへ変更してはどうか

 佐賀県としては、新幹線建設と引き換えに特急や快速が多数走る長崎本線を第3セクター鉄道にされたり、仮にJR九州のまま維持されても、在来線特急を削減されたり、新幹線化で特急料金を値上げされたりすることを危惧しています。建設費の負担に見合うメリットを感じないというのは無理もありません。

 新幹線がつながれば、佐賀県内の武雄温泉、嬉野温泉への集客にはメリットがありますが、やはりデメリットの方が大きいわけです。

 なお、西九州新幹線の利用状況は2022年9月~2023年4月で、2018(平成30)年の在来線特急「かもめ」と比較して102%。1日当たりの利用人数6600名は、国が予測した7314名を下回り、新幹線開通といえど増えていません。鉄道・運輸機構は西九州新幹線の年間維持費を90億円としており、西九州新幹線の売り上げが年間50億円程度ですから、年間40億円程度の赤字と考えられます。

 今後、佐賀県の求めるフリーゲージトレイン開発が成功したとしても、国の予測では博多~長崎間が1時間20分、新大阪~長崎間では3時間53分です。博多駅からだと乗り換えが解消される以外は現状と変わりませんし、新大阪駅からだと飛行機と勝負にならず、運行する意味が薄いと言わざるを得ません。なおフル規格新幹線が全通した場合は、博多~長崎間が51分、新大阪~長崎間が3時間15分です。

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四国鉄道文化館に保存されているフリーゲージトレインの二次試験車両(安藤昌季撮影)。

 筆者(安藤昌季:乗りものライター)は時間がかかっても、ルートを変更するのが望ましいと考えます。「佐賀県を通らないルート」ということです。

 仮に、諫早駅(長崎県諫早市)で新幹線を分岐させ東へ真っすぐ延ばし、長崎本線の小長井駅(同)付近から海底トンネルか橋梁で有明海を抜け、大牟田駅(福岡県大牟田市)付近に上陸すれば、通過するのは長崎県と福岡県だけで済みます。

 海上部は18kmほどですが、水深が10m程度と浅い海域のため、難工事とはならないでしょう。事前に造った構造物を沈める沈埋(ちんまい)工法による建設が可能で、通常のシールド工法より経費は安いと考えられます。

関係者全てに利益がある策

 なお、総建設距離は50km程度で、武雄温泉~新鳥栖間とほぼ同じです。人口の多い地域は大牟田市内だけで、用地買収は都市部の佐賀駅経由よりも容易でしょう。福岡県内は10km程度の建設で大牟田駅(福岡県大牟田市)に直結でき、そこから新大牟田駅(同)に接続することになります。こうすればJR鹿児島本線や西鉄天神大牟田線沿線からも利用でき、大牟田駅設置は福岡県のメリットでもあります。

 また、熊本方面への分岐線を建設すれば、長崎~熊本・鹿児島中央間の直通運行も可能です。現在、長崎駅から熊本駅へは高速バスで3時間45分、鹿児島へは直通便はありません。人口43万人の長崎市と、人口74万人の熊本市、60万人の鹿児島市を1時間台で直結すれば需要を創出できるでしょうし、人口24万人の佐賀市を経由しないデメリットは埋められます。

 有明海経由の利点は博多~長崎間でもあります。佐賀駅経由より距離、所要時間ともに短いのです。博多~新大牟田~諫早~長崎間は約131km。計画中の新鳥栖~佐賀~武雄温泉~長崎間だと143.3kmです。最高速度260km/h、表定速度187km/hとした場合、博多~長崎間は諫早駅のみ停車だと42分が想定され、佐賀駅ルートの51分よりも短くなります。

 この場合、新大阪~長崎間は3時間3分程度。博多~長崎間を無停車にするか、九州新幹線・西九州新幹線内で300km/h運転が可能となれば2時間50分台も見えてきます。新幹線の建設効果として、主要区間は2時間台で収めるべきであり、こちらの方が長崎県の利益が大きく、建設効果は大きいのではないでしょうか。

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武雄温泉駅では、特急「リレーかもめ」と対面乗り換えが必要(乗りものニュース編集部撮影)。

 なお佐賀県としても、博多~武雄温泉間の特急「リレーかもめ」は廃止になるでしょうが、特急「みどり」「ハウステンボス」は残ると考えれば、一定の利便性は確保されるはずです。

 既存の武雄温泉~諫早間は利用の多い時間帯だけ運行し、博多~武雄温泉間は特急「みどり」などに接続することが考えられます。佐賀県が建設費225億円を負担していることや、嬉野温泉にほかの鉄道がないこと、新大村に車両基地があることを考慮するなら、当面は廃止ではなく短縮編成での最低限の運行維持が望ましいです。

 新幹線の存在意義は速達性にほかならず、現状の固定は赤字を固定することでありメリットがありません。どのような解決方法になるにせよ、事態の進展を願う次第です。

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