自称「究極のルクレール」仏の最先端戦車が初披露 「あれ、乗員増えてるけど…」コンセプトはもはや別次元!?

フランスの首都パリで開催された「ユーロサトリ2024」に「ルクレール」戦車の新型が展示されていました。「究極ルクレール」という呼ばれ方をするこの戦車、もしかしたら次期フランス制式戦車になる可能性を秘めています。

あえて「究極」と呼ばれるコンセプト戦車

 フランスの首都パリで2024年6月17日から21日まで開催されていた世界最大級の防衛見本市「ユーロサトリ2024」に、多国籍企業KNDSが次世代戦車のコンセプトモデル「ルクレール・エボリューション」を出展していました。

「ルクレール・エボリューション」は、フランス陸軍の主力戦車「ルクレール」をベースに、新たな有人砲塔を搭載したモデルです。一番の特徴はKNDS社が開発中の新型砲「ASCALON」(アスカロン)を搭載していることで、展示されたコンセプトモデルでは従来戦車と同じ120mm砲でしたが、それを140mmに交換して火力を向上させることもできます。

 また、砲塔部分には車内から乗員が操作できる「ARX 30」RCWS(遠隔操作兵器ステーション)が搭載されており、そこに据えられた30mm機関砲は大口径を生かして空中炸裂弾を射ち出すことが可能なため、対地射撃だけでなくドローンを始めとした無人機の迎撃も行えます。

 加えて、RCWSとは別の砲塔前部のセンサーターレットにも12.7mm同軸機銃が装備されており、これを操作する車長は索敵と射撃を車内から同時に行うことができます。

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「ユーロサトリ2024」に展示された「ルクレール・エボリューション」(布留川 司撮影)。

 ほかにも、砲塔後部には徘徊ドローン(上空に留まって偵察と体当たり攻撃を行う無人機)のランチャーが装備されており、戦車単体で上空からの偵察と攻撃まで実施可能なようになっていたのが印象的でした。

 防御面でも、APS(アクティブ防護システム)の装備だけでなく、車体の防御力も構造部分から見直すなどして向上が図られており、その能力アップの度合いはKNDSのスタッフの言葉を借りれば「ウルティメット・ルクレール(究極のルクレール)」とも言えるほど。

 確かに「究極」という単語は、物事を表すには決して軽くないでしょう。戦車の場合でも、ただ既存の性能を向上させただけでは「究極」とは言えません。この「究極のルクレール」にも、これまでにない新機軸や新たな特徴をいくつも見ることができました。

乗員数が3人から4人に増えたワケ

 従来の「ルクレール」の乗員は車長、操縦士、砲手の3名でしたが、この「ルクレール・エボリューション」では1名増えた4名となっています。

 昨今の戦車は自動装填装置の普及によって砲弾を主砲に装填する装填手を削減しています。「ルクレール」自体、自動装填装置を搭載しているからこそ、前出したように装填手不要の3名構成です。とうぜん、「ルクレール・エボリューション」にも自動装填装置があり、専任の装填手は不要となっています。

 では、追加された4人目の乗員の役割は何かというと、、これまでの戦車ではなかった新たな任務、KNDSでは「ミッションオペレーター」と呼ばれていた役割です。これは、無人兵器の操作やミッションシステムからの情報収集を専門に行います。

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現行のフランス陸軍の主力戦車である「ルクレール」(画像:アメリカ陸軍)。

 戦車に限らず、現代の兵器は単独で戦うことはなく、複数の兵器が連携するのが一般的です。それは戦車どうしで連携・共闘するだけでなく、偵察部隊や無人機など異なるユニットからの情報をBMS(戦場管理システム)などから集め、それを分析して戦術的な優位性を確保して戦場全体の戦いを有利にすることも含まれます。

 ミッションオペレーターの任務は、無人車両や徘徊ドローンの操作と、それらを使って収集した情報の分析であり、戦闘中は車長を補佐することにあります。従来の車両ではこれら任務は車長が行っていましたが、無人機やBMSの高性能化によって得られる情報そのものが高度化、増大化しつつあり、ミッションオペレーターは車長のオーバーワークを防止するだけでなく、より円滑で効率的な戦闘を実現するために必要とされるようになったと言えるでしょう。

 担当者の説明によると、その情報収集能力の高さと、それを戦車単体で高度に運用できる能力は、従来戦車にはない大きな特徴だそうです。

次はもうない? 改良の終点に達したか「究極ルクレール」

 メーカーがこのコンセプトモデルを「究極」と呼んだのは、性能が向上したからだけではありません。「ウルティメット・ルクレール」は火力と防御力が向上しただけでなく、徘徊兵器の運用能力と第4の乗員による高度な情報分析能力を備えており、コンセプトモデルではあるものの、現代戦車としては最先端の存在といえるからです。

 とはいえ、そのベース車となった「ルクレール」が最初にフランス陸軍へ引き渡されたのは、今から30年以上前の1992年のことであり、アップグレードにも限界があります。この「ウルティメット・ルクレール」でも、4人めの乗員となるミッションオペレーターを追加するために車内スペースのトレードオフが行われており、その席を確保するために、18発の予備弾薬収納スペースが廃止され、車内に搭載できる主砲弾薬数は22発まで減少(従来のルクレールは計40発)しています。

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「ASCALON」の主砲は120mmと140mmがあり、それぞれの砲身を交換することも可能である(布留川 司撮影)。

 スペース問題だけでなく、「ルクレール」という戦車のフォーマットに則った改良はある意味で限界に達しており、これ以上の能力向上を臨むのであれば、まったく新しい車両を開発するか、そもそも戦車という枠組み自体も見直す必要があったと言えるでしょう。

 メーカー担当者も「この戦車の次世代を作る場合は、まったく新しい戦車になります」と説明していました。「究極」という言葉は前述したように物事の最後の極限点という意味を持っていますが、それは同時に成長と今後の終着地ということも指し示しています。

 なお、フランスとドイツは、互いの主力戦車である「ルクレール」と「レオパルト2」の後継車両を共同で開発するMGCS(陸上主力戦闘システム)計画を進めていますが、担当者いわくそのスケジュールは2030年代から2040年代へと大幅に遅れており、計画の今後の進展も不透明なものになっております。

 MGCS計画のスケジュール後ろ倒しとプロジェクトの成り行きの不透明さを鑑みると、まったく新しい次世代の戦車の登場はしばらく先のことだと思われます。また、その頃には陸上戦闘の様相や使われるテクノロジーも大きく変化していき、今後開発される戦車は我々が知っている今の形とは大きく異なったモノになる可能性すらあります。

 そのような背景を考えると、この「ルクレール・エボリューション」は我々がイメージする現代の戦車という枠組みでは、最後にして最高の「究極の戦車」となるのかもしれません。

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