各国の“魔改造”戦艦たち 最も原形を留めていないのは!? 装甲マシマシ「新型に勝る」は本当か?
第二次世界大戦まで、各国の海軍力の象徴で主力でもあった戦艦。それだけに、就役後も戦力を向上させるための改装を行った戦艦が数多くあります。中でも大規模に改装された戦艦について、実行されなかった計画も含めて取り上げていきます。
海軍力の象徴だった戦艦
軍艦が大砲を撃ち合い戦闘していた第二次世界大戦までの時代、最強の砲撃力と防御力を持っていたのが戦艦です。戦艦は各国の海軍力の象徴かつ主力でしたから、その戦力を維持することには各国とも一定の配慮を払っていました。
そのため就役後も大規模に改装した戦艦は数多くあります。それは艦容すら一変させるほどで、性能も大幅に向上させました。そうした各国“魔改造”戦艦の中で、特徴的な艦艇を挙げていきましょう。
ちなみに戦艦史上最大の改装をした艦艇は、空母に改装された戦艦/巡洋戦艦で、旧日本海軍の「赤城」「加賀」「信濃」や、アメリカ海軍の「レキシントン」「サラトガ」、フランス海軍の「ベアルン」などが挙げられますが、これらは改装後が戦艦ではないので除外します。
■イギリス
イギリスで最も魔改造されたのは、巡洋戦艦「レナウン」でしょう。同時期の戦艦「クイーンエリザベス」級と同じく、艦橋を容積の大きな塔型に変更し、副砲を撤去して11.4cm連装高角砲に換装しました。機関も換装し、新造時に11万2000馬力だったのを13万馬力へ向上。航続距離は10ノット(約18.5km/h)で3650海里(約6760km)から、18ノット(約33km/h)で8000海里(約1万4820km)に増大しています(重量増加もあり、速力は31.5ノット(約57km/h)から、29.93ノット(約54km/h)に低下)。
他国では行われなかったのが、垂直装甲の強化です。重巡洋艦と大差ない152mmでしたが、「レナウン」は229mmに換装しています。軍縮条約では認められておらず特例でした。水平装甲も51~76mmから127mmへ強化しています。
主砲塔は仰角を20度から30度に上げ、最大射程を2万2850mから2万9720mに増大させました。
アメリカ、日本の魔改造戦艦とは
■アメリカ
太平洋戦争中に行われた、コロラド級戦艦「ウェストヴァージニア」への改装が挙げられます。艦橋や上部構造物を新型戦艦「ノースカロライナ」級などに類似したものに換装し、射撃指揮装置も新型戦艦と同等品に交換。搭載レーダーも新型のMk.8を採用しました。
副砲は新型戦艦と同じ12.7cm連装両用砲を8基16門搭載して、既存副砲・高角砲を撤去。水平防御は弾火薬庫を76mm増し165mmに、機関部は140mm、砲塔天蓋は178~190mmとし、新型戦艦「サウスダコタ」級とほぼ同等の防御力となりました。
水中防御は幅2.7mのバルジを装着した結果、「新型戦艦にも勝る」と評価されました。速力は新型戦艦や日本の改装戦艦に劣るものの、殴り合いでは船体の小ささも含めて最強クラスと考えられます。
■日本
全ての保有戦艦が大改装を受け、戦力が大幅に増強されました。特徴的なのは、推進効率を上げるための艦尾延長です。機関の強化もおおむね行われており、既存戦艦で25ノット(46.3km/h)程度、金剛型で30ノット(55.6km/h)の高速性能を備えました。主砲仰角も43度に上げられた結果、米英の新型戦艦に匹敵する射程となりました。
特に長門型は、弾火薬庫の垂直装甲傾斜部に新規装甲を張り足すことで、新造時の305mm+76mmを、305mm+274(一部125)mm+76mmに強化し、大和型の46cm砲でも貫通困難な重防御としました。水平防御も、弾火薬庫部分は1枚板換算で190mm程度の多重装甲に。砲塔天蓋も230~250mmに強化され、弾火薬庫防御については最強といえます。
ただ、機関部についてはほとんど強化されておらず、自艦主砲の41cm砲を下回る35.6cm砲の命中でも危ういなど、アンバランスな改装でした。一方の攻撃力は、九一式徹甲弾を搭載可能とし、新造時より貫通力を大幅に増しています。
世界に類を見ない航空戦艦
伊勢型は、後部の35.6cm主砲塔を2基撤去し、航空機22機を搭載する「航空戦艦」に改装されましたが、これは旧日本海軍における最大の魔改造かもしれません。
なお、実行されなかった計画としては、扶桑型の大改装案が挙げられます。主砲を35.6cm砲12門から41cm砲10門に換装し、垂直装甲を15度傾斜に変更するというもの。水平装甲も57mm+44mmを張り足す予定でした。
ちなみに金剛型には垂直装甲を換装して324mmとする案が、伊勢型には35.6cm主砲塔を41cmに換装する構想がありました。
■イタリア
「コンテ・ディ・カブール」級と「カイオ・ドゥイリオ」級で大改装が行われました。30.5cm主砲13門を搭載していましたが、中央砲塔を撤去して10門とします。主砲口径も砲身をボーリングし直して30.5cmから32cmに、砲弾重量は452kgから525kgへと拡大して威力を増しています。「ドゥイリオ」級のみ、主砲仰角を27度から30度に引き上げ、射程を2万8600mから2万9400mに延伸しました。
撤去した主砲塔のスペースも活用して機関を換装し、21ノット(約39km/h)だった速力を27~28ノット(約50~52km/h)に増大させています。この際に艦首も延長し推進抵抗を減らしていますが、既存の艦首に被せる構造のため、水漏れなどの問題があったようです。
計画で終わった最大の魔改造とは
そのほか水平装甲も換装し、機関部は新造時の30mmから80mmへ、弾薬庫は100mmの均質装甲へ換装しました。
副砲と高角砲も全て撤去し、砲塔式の12cm連装砲6基12門と10cm連装高角砲4基8門(カブール級)、13.5cm3連装砲4基12門と9cm単装高角砲10基10門(ドゥイリオ級)に強化艦容が全く異なるという意味で、最大の魔改造戦艦といえるでしょう。
なお、実行されなかった魔改造計画で最も規模が大きいのは、ソ連の「ガングート」級戦艦「ミハイル・フルンゼ」の改装計画でしょう。これは艦首を延長したうえに艦橋と2番主砲塔を移設して、前部主砲塔配置を背負い式に改めるというものでした。砲塔位置の移動と背負い式化は、ほかに例を見ません。3番主砲塔も撤去し機関を増設し、速力23.4ノット(約43.3km/h)を27~30ノット(約50~55.6km/h)に引き上げるという大規模改装でした。結果的に財政難で実行されませんでした。
戦艦の改装は予算と工期がかかるため、改装が間に合わずに戦争に突入した事例も多数ありました。それでも時代にあった性能を得られた上記の戦艦たちは、ある意味幸運といえるでしょう。しかしイタリアのように、新造とほぼ同じ改装費をかけても性能は不足したという事例もあり、後付け改造の限界を示しているともいえるでしょう。
06/15 06:12
乗りものニュース