え、人いないの!? 世界最強ステルス爆撃機に「パイロットがセルフ給油」のワケ 実は“軍事的理由”が
アメリカ空軍が誇るステルス戦略爆撃機B-2「スピリット」が、訓練で地上要員の手による給油を受けなかったそうです。ただ、これは人手不足でも嫌がらせでもなく、想定の範囲内とのこと。どういうことでしょうか。
エリートパイロットが機体から降りてセルフで給油
アメリカ空軍のステルス爆撃機B-2「スピリット」が2024年5月28日、ネブラスカ州のオファット空軍基地まで訓練飛行を実施しました。その際、新たな試みとして、現地での燃料補給作業を飛来したB-2のパイロット自身が行いました。
通常、軍用機が飛行場で燃料補給を受ける場合、その作業は整備員が行うのが一般的です。基本的にパイロットの任務は操縦であり、このような地上での整備・サービス作業は専門の訓練を受けた整備員が担当します。
航空機における燃料補給は、たとえるなら昔ながらのフルサービスのガソリンスタンドに似ています。そういったところにクルマで乗り付けた場合、あとはスタンドのスタッフが燃料を入れてくれ、ドライバーに追加の要望を聞き、場合によっては窓拭きまでしてくれます。
しかし、今回のB-2の給油作業では、パイロットは機体に横付けされた給油タンクローリーからホースを受け取り、自ら機体の受油口に接続しており、さながら、セルフ方式のガソリンスタンドで自分のクルマに給油するのと同じような感じでした。
本来、そのようなことをする必要のないパイロットが一体、なぜこのような業務まで担ったのでしょうか。
人手不足が原因…、じゃない?
「軍も人手不足で、ついにステルス爆撃機ですらセルフ給油で兼業化?」と心配する人もいるかもしれません。しかし、今回の給油作業にはれっきとした軍事的な理由が存在しています。
アメリカ空軍は最近、展開訓練においてACE(エース)という新戦略を取り入れ、それに伴った新しい方式の訓練を実施しています。ACEとは「Agile Combat Employment」の頭文字からなる略称で、日本語に訳すと「迅速な戦力展開」となります。
近年、中国ミサイル技術の向上によって、本来は安全であるはずの空軍基地も、遠方から直接攻撃される可能性が出てきました。このため、アメリカ空軍は空軍基地を安全な後方エリア、すなわち「聖域」とは考えず、戦争状態になった場合は、所属する航空機を他の基地や空港に移動させ、そこから運用することを想定した訓練を実施しています。
そういったなかで移動先は空軍基地ではなく、軍用機を運用していない一般空港の可能性も想定する必要があるため、展開訓練では各員が本来の任務の枠を超えて、各種作業を行えるようにしているのです。
たとえば、今回の給油作業も、B-2が普段は使用していない基地や空港に降りた場合、パイロットに給油作業を担えるスキルがあれば、そこに専門の補給担当要員がいなくても給油することが可能になり、運用面でも柔軟性を高めることが可能になります。
今回の展開訓練における給油作業は、機体エンジンを止めた状態(通称:コールドピット)で行いましたが、今後はより速い再離陸が可能なエンジンを動かした状態で燃料を補給する「ホットピット」給油を目指すとのことです。
戦争では「想定外」のことが発生するのが常です。その点では、今回のB-2爆撃機へのパイロットの「セルフ給油」も、常に実戦を想定したアメリカ軍ならではの訓練と言えるのかもしれません。
06/11 18:12
乗りものニュース