災難!「人気鉄道イベント」に2年連続ヘリ緊急出動 “撮り鉄”遭難にSL集団避難 トラブルも“棚ぼた”もダイナミックすぎる海外

2年続けてヘリコプターまで緊急出動するほどのトラブルに見舞われた鉄道イベントが、ドイツでありました。その時筆者が現地鉄道ファンとともに巻き込まれた災難と、ちょっと特別な光景とは。

山火事で列車全面運休…「万策尽きた」

 不運としか言いようがありません。ドイツ東部の古都ドレスデンで毎年春に開催される鉄道イベント、その名も「ドレスデン蒸気機関車会合(Dresdener Dampfloktreffen)」は、例年1万人以上が訪れる、欧州の鉄道ファンにとってはすでに恒例行事となっている有名な蒸気機関車のイベントです。

 ドイツ各地や近隣各国から歴史的価値のある蒸気機関車やディーゼル機関車が集まり、イベントを主催するドレスデン鉄道博物館所蔵の機関車とともに特別列車を牽引するなど様々な企画で盛り上げます。

 そんな大人気のイベントが、2年連続でヘリコプターまで緊急出動する災難に見舞われました。

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山火事の原因になった可能性がある蒸気機関車プロイセンG12型58 1111-2号機(赤川薫撮影)。

 2024年4月12日から3日間開催された第16回ドレスデン蒸気機関車会合は、終始天候に恵まれ、4月上旬だというのに日中は半袖でも暑い陽気になりました。ところが、これが仇(あだ)となったのです。

 イベント2日目の午後、1921年ドイツ製の蒸気機関車プロイセンG12型58 1111-2号機(旧58 311号機)は、ドレスデン中央駅を出発してドイツ鉄道の本線を南東へ13kmほど走り、そこからチェコとの国境沿いにある温泉保養地アルテンベルクまで、エルツ山の中を通る単線を駆け上がったのです。沿線には写真や動画のカメラを携えた鉄道ファンが押しかけ、大盛況となりました。

 ところが、58 1111-2号機が通り過ぎた約30分後、「線路脇が燃えている」と消防署に第一報が入ったのです。連日の晴天で乾いていた山の木々は一気に燃え上がり、消防車13台に消防士53人が出動。上空を飛ぶサーモカメラ搭載のヘリコプターに指示を受けながら消火活動に当たる山火事へと発展してしまいました。

 火事の原因は特定に至っていませんが、ドレスデン鉄道博物館の広報は取材に対し「蒸気機関車の火の粉が原因だった可能性は高い」と認めました。

筆者も巻き込まれた、山火事による帰宅難民

 この蒸気機関車が走った路線は、沿線に温泉保養地しかめぼしい観光地がなく、週末の午後には2時間に1本しか列車が走らないような田舎の単線です。そんなところで発生した山火事ですから、臨時列車の蒸気機関車が通過したのち、通常運行するはずの定期列車が全面運休になってしまいました。

 困ったのは、走り去る蒸気機関車を見送った後に定期列車で下山しようと思っていた鉄道ファンです。かくいう私(赤川薫)も小さな駅で蒸気機関車の写真を撮った後、巻き込まれてしまいました。

 私と同じように山中の小さな無人駅で取り残されたのはドイツ人の男性3人。チェコとの国境に近いこの辺りは週末にはバスも走っていません。地元の小さなタクシー会社も「早い者勝ち」ですでに出払っていて、捕まらず。辺りにはカフェやレストラン、ホテルなどの施設も一切ありません。「万策尽きた」とは、まさにこのこと。

「ヒッチハイクなんてしたことがない」などと言うプライド高きドイツ人男性3人。仕方がないので、私がやることに。しかし、いかつい男性3人をカルガモ親子のように背後に引き連れながら、黒髪を振り乱して「乗せてください」と手を合わせて懇願するアジア人女性(私)という、怪談にも出て来そうなご一行のために止まってくれる車はなかなか現れません。

「もうこのまま野宿か」と覚悟しかけた頃、ようやく一台の工事用作業車が止まってくれました。ヒッチハイクに成功した車中からは、鉄道写真を撮るための三脚や脚立などを携えて徒歩でトボトボと山を下りる人の行列が、延々と続いているのが見えました。

第二次大戦時の不発弾で機関車も大避難

 実は1年前の2023年4月14日から16日まで開催された第15回の会合も、ヘリコプターが緊急出動して中止という、踏んだり蹴ったりな目に遭っていました。イベント初日、会場となる鉄道博物館の敷地のすぐ脇で、たまたま建設工事をしていた作業員が、第二次世界大戦中に米軍が残していった250kgの不発弾を掘り当ててしまったのです。

 翌日にイベント2日目が控えていたものの、不発弾処理のため、博物館の一帯は全面封鎖に。万が一の大惨事に備えて警察車両、消防車、救急車、赤十字などが大量に投入され、上空からはヘリコプターが見守る厳重な警戒態勢が敷かれたのです。

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ドレスデン中央駅に避難した機関車たち(赤川薫撮影)。

 幸いにも不発弾には起爆装置が1個しか付いていなかったため、処理作業自体は開始からものの30分で完了したのですが、全面封鎖が解除されたのは15時近くになってしまいました。

 博物館の周囲1km圏内の住民1万5000人には朝9時までに家を出て避難するようにと事前に通達され、郊外の避難所までの送迎バスなども用意されましたが、高齢者や体が不自由な人も多く、避難完了までに5時間近くもかかってしまったのです(中部ドイツ放送およびザクセン新聞による)。

 鉄道イベントも、もちろんその間は中止です。蒸気機関車が牽引する朝一番の特別列車も、無情にも運休となりました。ただ、鉄道ファンにとって、予定されていたイベントの中止が悪かったかどうかは微妙なところ。というのも、博物館に収蔵されているお宝の機関車や旅客車両なども近隣住民とともに避難し、ドレスデン中央駅の構内に勢ぞろいしたのです。高速鉄道ICEや近郊列車などと並んで駅構内にレアな機関車がズラリと並び、ファンサービスのために構内を行ったり来たりしてみせたものですから、テレビなどのメディアや単なる野次馬までもが押しかける大騒動となりました。

 2年連続で不運な事故に巻き込まれましたが、予定通り開催できた恒例の人気企画には、蒸気機関車2編成がドイツ鉄道の本線を抜きつ抜かれつ並行走行するイベントや、「夜の写真パレード(Nachtfotoparade)」というものがあります。後者は、スポットライトで照らし上げた転車台の上で、鉄道博物館のお宝の蒸気機関車やディーゼル機関車などを次々に回転し、鉄道ファンたちが垂涎(すいぜん)しながら、ひたすらその写真を撮り続ける会です。

「2度あることは3度ある」とならずに、来年は無事に開催できることを祈るばかりです。

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