「北陸最大の都市」なのに“路線バスだけ”で半世紀 地下鉄・LRT・BRT…議論どうなった? 中心街が遠い金沢

日本海側有数の大都市である石川県金沢市では、地下鉄やLRT、BRTなどの導入が長年にわたり検討されていますが、なかなか実現しません。どのような背景があるのでしょうか。

戦災を免れた街が抱える問題

 2024年3月の北陸新幹線金沢~敦賀間延伸開業で、北陸地方に注目が集まっています。その中心地である石川県の金沢市は、江戸時代は「加賀百万石」の城下町として江戸・大坂・京都に続く大都市でした。現在も人口46万人、年間観光客数1000万人を数える日本海側有数の大都市ですが、都市構造に由来する課題に頭を悩ませています。

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金沢駅(画像:PIXTA)。

 金沢市は金沢城を中心に、兼六園や金沢21世紀美術館、武家屋敷、茶屋街などの観光スポットと、香林坊や片町などの繁華街が広がっており、金沢駅とは1~2kmの距離があります。

 市内にはかつては路面電車(北陸鉄道金沢市内線)が走っていましたが、1960年代に廃止された後はバスが都市交通を担っています。国勢調査の通勤・通学利用移動手段を見ると、路線バスの割合は同じ北陸の富山市が2.8%、福井市が2.3%なのに対し、金沢市は10.1%に達しています。

 戦災を受けなかった金沢は古い町並みをそのまま残しています。それは大きな魅力である反面、道路が狭く渋滞が多発しており、バスの速達性、定時性に問題を抱えています。

 そんな金沢市街に基軸交通を整備しようという議論は古くからありました。1976(昭和51)年に「新しい交通システム」の検討に着手し、1982(昭和57)年から1998(平成10)年までガイドウェイバスやLRT(次世代型路面電車)の検討調査を行っています。

 ただ当時は技術面、法令面で多くの課題があり、検討と解消には時間が必要だったことから、当面はバスの改善を図りながら、段階的に検討を進めることになりました。

新幹線開業後も議論は続く

 具体的な議論が動き出すのは2000年代に入ってからのことです。国鉄末期に凍結され、一時は絶望視された北陸新幹線が、金沢までフル規格で整備されることになったのです。

 2006(平成18)年の「金沢世界都市構想第2次基本計画」には、「北陸新幹線開業を見据えた定時性に優れ魅力あるシステムの導入」が記されますが、最大の課題は前述した道路の狭さでした。

 LRTまたはBRT(バス高速輸送システム)の専用レーン導入には4車線道路の半分を線路に転用しなければならず、自動車社会で生きる市民の合意形成が不可欠です。このハードルは10年では解決できず、基軸交通の導入が実現しないまま北陸新幹線は2015(平成27)年3月に開業します。

 開業後、2016(平成28)年に策定された「第2次金沢交通戦略」は、「新幹線時代に対応した都市内交通、二次交通」の導入に向け2019年までにシステムの選定を行い、2022年までに導入着手するというスケジュールが示され、市と国・県・県警・交通事業者からなる「新しい交通システム検討委員会」が設置されました。

 2017(平成29)年2月に公表された「新しい交通システム導入に関する提言書」はBRT、LRT、モノレール、ミニ地下鉄を比較し、事業費や導入空間の確保、まちづくりの観点からシンボル性、景観、バリアフリー性、道路交通に与える影響などを検証しました。

 検討会は「金沢港~金沢駅~香林坊~野町駅の都市軸を基本としたルートが適当」として、「地上走行を基本としたシステムの導入が望ましい」と提言。「ただし、具体的な導入機種については、引き続き、詳細な検討を重ねていく必要がある」として結論を先送りしました。

 検討会が行った市民アンケートでは、週1回以上自動車を利用する人に「今後自動車から公共交通に乗り換えようという考えはありますか」と聞いたところ、24%が「ある」、33%が「条件次第によっては転換を検討したい」と回答。乗換の条件として「時刻表通りの運行」を重視するとの声が最も多く、市民の受け止めにも変化が見られました。

コロナ禍で方向性変更 提言書をよく読むと…

 ただ、その後に訪れたコロナ禍は議論の方向性を変えました。提言書を受けて2021年に設置された「新しい交通システム導入検討委員会」は、中長期的な機種選定の方向性、基本方針の取りまとめとあわせて、危機的状況を迎えた公共交通の持続可能性を確保するための短期的施策を検討することになったのです

 その後の委員会は連節バスの導入や、既存バスのダイヤ、経路案内、バス停・バスレーンの改善、キャッシュレス化や運賃制度の見直し、パーク&ライドの拡充などを、2028(令和10)年頃を目途に導入・実施していく方針をまとめます。

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犀川大橋を渡る路線バス(画像:PIXTA)。

 2022年9月に公表された提言書は、まずは第1段階としてバスのサービス水準向上や、北陸鉄道石川線の需要拡大策など短期的施策を進め、整備完了後おおむね5年を目途に成果を検証し、第2段階としてLRTまたはBRTの導入を検討するとしています。石川線のバス専用道転換(BRT化)やLRT乗り入れも選択肢に含めるようです。

 これは一見すると足踏み、先送りですが、提言書をよく読むと必ずしもそうとは言えません。LRTにせよBRTにせよ、新しい交通システムの導入が目的ではなく、課題解決の手段にすぎません。

 提言書は第2段階の移行条件として、BRTからLRTへの段階的整備を行った海外事例を紹介しつつ、第1段階と第2段階の連続性を強調しています。実際、バスの定時性や輸送力の改善は部分的なBRT化とも言えます。その結果、バスの利用が増加すればバス専用レーンが終日設定され、さらに輸送量が増えれば、それが線路になるのです。

 半世紀に及ぶ金沢市の議論は、都心に交通システムを導入する難しさとともに、地道な取り組みの積み重ねこそが問題解決の近道であることを教えているように思えます。

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