大井町線で成功の東急「Q SEAT」なぜ東横線で不振? 地下鉄直通も最善じゃない座席指定サービスの“明暗”

東急東横線の座席指定サービス「Q SEAT」は、開始から1年足らずで見直しを迫られました。利用が芳しくないようですが、改善策として直通する地下鉄線から運行してはどうかという声も聞かれます。ただ他社の例を見ると、これも最善ではなさそうです。

大井町線では成功

 東急電鉄は2024年5月7日から、東横線の座席指定サービス「Q SEAT」の設定車両を2両から1両に変更しました。同社は利用動向に応じて柔軟にサービス内容を変更できるよう、当面は1両をロングシートのまま運行すると説明しています。サービスを休止する車両を別編成に付け替える予定は現時点ではなく、赤いラッピングもそのままにするとのことです。

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東急東横線の座席指定サービス「Q SEAT」(大藤碩哉撮影)。

 いったん仕切り直しの形ですが、2023年8月10日のサービス導入から1年もたたずにサービス縮小に追い込まれたことには変わりません。本命のはずだった東横線で、どんな誤算が起きているのでしょうか。

 2018年12月にQ SEATを導入した大井町線では、夕夜間の田園都市線直通 長津田行き急行列車9本に各1両設定しており、混雑する渋谷経由を避けて通勤する田園都市線ユーザーから好評を博しました。

 東横線では渋谷駅を19時25分から21時35分に発車する始発の急行列車5本に設定し、5月7日から18時35分、19時5分の2本を増発しましたが、時間帯によっては1両あたり数人しか乗車していないこともしばしばです。なぜ大井町線で成功したサービスが東横線ではうまくいかないのでしょうか。

 大井町線から田園都市線に直通する急行列車は概ね毎時2本で、それ以外の列車は二子玉川駅で乗り換えが必要になるため、必然的に混雑します。Q SEAT利用者は以前からこの列車を狙って利用していたと思われますが、確実に座るためには早めに並ばなければなりませんでした。

 それがQ SEATなら、(指定席さえ取れれば)待たずに確実に着席できます。乗車時間は大井町~たまプラーザ間で約30分、長津田駅までなら約40分なので、500円の料金も納得感があります。普段使う列車にサービスがプラスアルファされ、選択肢が広がった形です。

ではなぜ東横線では振るわない?

 しかし東横線では事情が異なります。渋谷駅は夕夜間、1時間あたり2本の始発急行に加え、地下鉄副都心線から直通する通勤特急4本、急行2本、東急新横浜線直通急行2本が運行されています。どうしても座りたい人でなければ先着する通勤特急や急行を利用するでしょうから、東横線の渋谷始発急行はもともと座りやすい列車です。

 中目黒駅、自由が丘駅から乗車する乗換客に着席機会を提供する意味はありますが、長くても30分程度しか乗らない路線で、30分間隔の列車を狙って、わざわざ500円を支払って着席するかといわれると、利用が伸びないのは当然かもしれません。

 渋谷始発の需要開拓は困難なので、副都心線直通列車へのサービス拡大が必要との指摘があります。実際、東急は乗りものニュースの取材に「他社線への直通も含めた様々なサービス改善を検討する」と答えていますが、既存の地下鉄直通座席指定列車は軒並み苦戦しているのが実情です。

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地下鉄千代田線から小田急線へ直通する、ロマンスカー車両を用いた「メトロホームウェイ」(画像:PIXTA)。

 小田急ロマンスカーは2008(平成20)年から地下鉄千代田線への直通運転を行っていますが、平日朝の上り「メトロモーニングウェイ」こそ好調なものの、夕夜間の下り「メトロホームウェイ」は空席が目立ちます。2017(平成29)年登場の西武池袋線・地下鉄有楽町線直通「S-TRAIN」、2020年登場の東武伊勢崎線・地下鉄日比谷線直通「THライナー」も、乗車率は高いとはいえません。

 通勤ライナーの先駆者で、抜群のブランド力を持つロマンスカーは、本線では根強い人気を持っていますし、西武新宿線の「拝島ライナー」、東武東上線の「TJライナー」も好調です。ところが競争力があるはずの地下鉄直通列車は振るわないのです。

そもそも存在が認知されているのか

 課題は列車の可視化かもしれません。通常の座席指定列車はターミナル駅に一定時間停車するため、ホームで普通列車を待つ利用者から車内でゆったりと座る乗客の様子が見えます。列車の存在に気づいてから特急券売機に向かう時間もあります。

 一方、地下鉄直通列車は数分間隔で走る普通列車の合間を走るため、停車時間は長くても1~2分しかなく、たまたま遭遇しなければ存在を意識することはありませんし、直前に特急券を買おうとしても時間切れで乗れません。

 運行開始当初の「メトロホームウェイ」はダイヤの都合上、運転間隔が不均等で、いつ運転しているのか分かりにくいことが、利用が伸びない要因とも思われましたが、1時間間隔で発車するダイヤになっても劇的に改善したとは聞きません。「S-TRAIN」も「THライナー」も1時間間隔の分かりやすいダイヤですが、同様です。

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JR東日本は中距離列車の全車両に2両、グリーン車を連結している(乗りものニュース編集部撮影)。

 ただ、Q SEATは列車の一部に指定席を連結するサービスであり、「TJライナー」など丸ごと指定席の列車とは違います。後者は通常とは異なる列車を意識的に選択させる必要がありますが、Q SEATは普段使っている列車にプラスアルファの選択肢を用意するサービスです。

 これを突き詰めたのが、(こちらは自由席ですが)東海道線や宇都宮線といった中距離電車の全列車にグリーン車を連結するJR東日本です。東横線Q SEATの反転攻勢には、地下鉄直通そのものではなく、需要の高い列車に設定することが重要です。他社線と直通運転を行う東横線の全列車にQ SEATを連結することは困難としても、利用者に分かりやすい、選びやすい選択肢を用意することから始めなければなりません。

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