「A-10の廃止はいつだ?」米議会で空軍首脳が今後を明かす 国民的人気の対地攻撃機「欲しがっている国がある」とも

運用開始から半世紀近く経過したアメリカ空軍のA-10「サンダーボルトII」。とうとう米国議会で退役時期が明言されました。ただ外国で欲しがっているところもあるとか。しかし供与するには問題山積のようです。

アメリカ議会でA-10退役が議題に

 A-10「サンダーボルトII」攻撃機といえば、その特徴的な外見と、湾岸戦争以降の実戦で生まれた数々の逸話により、極めて高い知名度と人気を誇る攻撃機です。ただ、初飛行から半世紀以上が経ち老朽化も進んでいることから、アメリカ空軍では退役が進んでおり、その歴史もいよいよ終局が迫っています。

 そのようななか、アメリカ国防総省の高官が、A-10攻撃機を欲しがっている国があると明言したのです。その発言の真意はどこにあるのでしょうか。

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特徴的な外見から人気の高いA-10「サンダーボルトII」攻撃機。非公式なあだ名である「ワートホッグ(イボイノシシの意)」や「ホッグ(豚)」と呼び名も良く知られる(画像:アメリカ空軍)。

 そもそも、配備先である米本土アリゾナ州のデイビス・モンサン空軍基地では、今年(2024年)2月からA-10の退役が始まっており、同基地に所属するA-10デモンストレーション・チーム(エアショーなど公開イベントで飛行を行う広報専門の飛行チーム)も今年でその活動を終えます。アメリカ国防総省としても2025年度予算要求で、56機のA-10の退役を盛り込んでいます。

 このようななか、3月17日に連邦議会下院の軍事委員会においてアメリカ空軍の高官を招いての公聴会が行われました。議題は2025年度会計の国防権限法(NDAA)の予算要求についてで、その中にはA-10に関する質疑応答も含まれていました。

 参加したのはアメリカ空軍省(米国防総省の隷下組織)トップのフランク・ケンドール長官、アメリカ宇宙軍の作戦部長チャンス・サルツマン大将、そしてアメリカ空軍参謀長のデイビッド・アルビン大将の3名です。

具体的な退役時期を米空軍高官が明言

 A-10の退役は以前、2030年代から2030年代後半と言われていました。公聴会では前出のデイビス・モンサン基地が所在する、テキサス州選出のモルガン・ラットレル下院議員がA-10の退役時期について質問しています。

「この機体の廃止はいつか?」という問いに、アルビン大将は「2028年の会計年度末で、2028年から2029年の間にそう(A-10の退役)なります」と具体的な時期を回答しました。

 また、公聴会ではアメリカ空軍から全面退役したあと、その機体を他国へ供与する可能性があるのかについても質問がありました。この質問の真意は、A-10は兵器であると同時にアメリカ合衆国の資産でもあり、それを再利用して有効活用できないかというものなのでしょう。

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アメリカ議会下院の 公聴会で説明するアメリカ空軍トップのフランク・ケンドール長官(画像:アメリカ国防総省)。

 ジョージア州選出のオースティン・スコット下院議員は、退役後のA-10について、NATO(北大西洋条約機構)諸国や、それ以外の同盟国で同機に興味を持ち、実際に協議を行っている国があるかについて質問。

 これに対して、ケンドール空軍長官は具体的な協議が行われていることについては否定しましたが、「少なくとも1か国が興味を示している」と明言したのです。

 A-10は、2024年現在まで開発元のアメリカでしか運用されておらず、この興味を持った国への供与が実現すれば、初の海外運用例となるでしょう。

 退役後のA-10が外国へ供与された場合、この人気の高い攻撃機が飛ぶ姿をもっと長く見られることとなり、それはマニア的には嬉しいことかもしれません。しかし、ケンドール長官によればA-10を使い続けることは簡単なことではないようです。

海外供与は問題山積! 飛ばし続けるのはやはり無理か

 ケンドール空軍長官は、A-10の問題点について次のように説明しました。

「問題点は機体自体にあります。A-10がアメリカから退役した場合、この航空機に対する運用のための支援もなくなります。そのA-10を維持しようとする国は(運用面で)非常に困難な状況となるでしょう。また、この機体はかなり古く、45年ほど前のモノであり、交換部品の入手も困難です」

 A-10の運用が始まったのは1977年で、そこから現在まで第一線で使い続けるために段階的なアップグレードを継続して行っています。なかには、老朽化した主翼部分を新造品に交換するといった大規模な改修まで含まれます。

 もし仮に、アメリカ以外の国がA-10の運用を行うのであれば、アメリカ空軍と、継続的な要求に応えられる防衛産業の支援が不可欠でしょう。しかし、開発元のアメリカから同機が完全に姿を消した後で、導入国がそれを単独で行うのは簡単なことではありません。

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アメリカ議会下院の公聴会で説明するアメリカ空軍参謀長のデイビッド・アルビン大将(画像:アメリカ国防総省)。

 また、A-10自体の性能が現代の戦場に対応できないことも問題視されています。A-10は低速で機動性が低く、ステルス性は皆無で、かつ高度なアビオニクスも装備していません。そのため、地対空ミサイルなどの近代的な防空システムが整備された現代の戦場では、撃墜される可能性が非常に高い脆弱な存在だと、当のアメリカ空軍自身も考えています。

 今回の公聴会でも、ケンドール空軍長官いわく、ロシアの侵略によって世界中の国々から武器支援を求めているウクライナですら「(A-10の)生存性を懸念している」という理由で、この機体への関心が低いとの説明でした。

 この発言を言葉どおり捉えると、一時ウクライナ軍の司令官などが地上攻撃機の戦力強化のためにA-10の名前を出して支援を呼びかけていたものの、アメリカには同機を提供する意思はほとんどないと断言できそうです。

 これらを鑑みると、攻撃機としてはいまだに異例の人気を保っているA-10「サンダーボルトII」ですが、その姿が見られる時間は、やはりそう長く残ってはいないようです。

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