JR貨物が“この期に及んでも”業績低迷の理由 鉄道こそ救世主「2024年問題」目前 起死回生の秘策とは

貨物列車は「脱炭素」「SDGs」「人手不足」「2024年問題」といった課題を解決する輸送手段として注目されていますが、一方でJR貨物の業績はさえないのが現実です。その同社が今後を見据えて仕込む“秘策”とは何でしょうか。

時代の課題を解決する救世主なのに…

 時代の波に乗っているはずのJR貨物(日本貨物鉄道)が、“胸突き八丁”で苦闘しているようです。国内の貨物列車の大半を走らせている同社は、環境負荷が小さく、地球に優しい企業としても注目を集めているのにもかかわらずです。

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JR貨物のEF210形電気機関車(画像:写真AC)。

「CO2(二酸化炭素)排出量は営業用トラックの13分の1」
「1編成(コンテナ貨車26両)の貨物輸送力650tは、10tトラック65台分で、計算上はトラック・ドライバー65人分を機関車の機関士1人でカバー」

 これらを前面に掲げ、貨物鉄道こそ「脱炭素」「SDGs」「人手不足」「2024年問題(長時間労働防止の厳格化)」をマルっと解決する“救世主”だとアピールされています。ならば、「時代の波に乗ってさぞや増収増益では」と思いがちですが、現実は全く逆のようです。

 JR貨物が2024年2月13日に発表した、2024年3月期(2023年度)第3四半期の決算短信を見ると、今年度の業績見通し(連結ベース)は、営業収益(売上高)約1883億円(前年度約1876億円)、経常利益マイナス52億円(同マイナス43億円)、当期純利益約マイナス44億円(同マイナス約40億円)と冴えません。

 新型コロナによる行動制限がなくなり個人消費も回復し、物流業界も忙しくなる、と期待されていました。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻など国際情勢の悪化で、物価が急激に上昇し消費者を直撃。それによる節約・買い控えで、消費者は財布のひもをきつく締めてしまったのです。

 この結果、荷動きにもブレーキがかり、思うように業績が伸びなかったようです。

 一方、国内物流の大半を占めるトラック輸送、とりわけ長距離トラック・ドライバーの人材不足はかなり深刻です。「高齢化」「若年層の担い手不足」に加え、就労者の長時間労働が厳しく規制される、いわゆる「物流流業の2024年問題」の到来という“トリプルパンチ”に見舞われています。

 そこでJR貨物は、これをビジネスチャンスとして捉え、長距離トラック輸送の代替手段として貨物列車を積極的に売り込んでいる最中です。

 中でも「ブロック」「混載」の二つを、貨物列車復権のキーワードと位置付けているようです。

「同じ荷物で行き先も同じ」がスピードアップのカギ握る

 まず「ブロック」とは、「ブロックトレイン」の略で、「専用貨物列車」または「ユニットトレイン」とも呼ばれます。

 同じ荷物の貨車だけで編成された貨物列車で、しかも決められた出発地と目的地(仕向地)を、直行定期便として往復します。

 貨物列車は通常、途中数か所の貨物駅に立ち寄り、荷物の積み下ろしや、貨車の連結・切り離しを行いながら、最終目的地を目指します。

 ただ、この方式は効率良く荷物を運べる反面、輸送時間(リードタイム)が非常にかかるという難点を抱え、「スピード輸送」が当たり前の現在では、徐々に時代遅れになってきています。

 そこで大幅に時間を短縮できる“切り札”として期待されるのが、ブロックトレインです。

 出発地、目的地ともに貨物輸送の大きな需要が見込まれる場合は、この区間で貨物列車をノンストップで走らせて時間短縮を目指します。

 途中駅で荷物や貨車の入れ替えを一切行わず、貨物列車1編成が丸ごと一つの塊(かたまり)のように「閉塞」されることから、これを表す英語「block(ブロック)」を冠しています。石油類を積むタンク車だけで編成された貨物列車を見かけますが、これはまさに製油所と特定の貨物駅を往復するブロックトレインの代表格です。

 実はJR貨物は以前から、主に事業者向け(BtoB)に、比較的大きい荷物を載せたコンテナ貨物のブロックトレインを運行しています。

 しかし前述のように、ネット通販(EC)の急拡大による消費者向け(BtoC)荷物の輸送需要の激増や、「2024年問題」への“切り札”として、2020年代に入ってから特にブロックトレインに力を入れています。

 2022年春から始まったサービスはその好例で、26両編成のコンテナ貨物列車のうち、10両ずつを日本通運と全国通運の“専用貨車”としてそれぞれ貸し切りとし、残る6両前後を一般向けに振り向けるというものです。

 首都圏の圏央道や国道16号沿いに乱立するEC向けの大規模物流センターで集荷された個人向け荷物などを、埼玉県の越谷貨物ターミナル(タ)駅から出荷し、約600km離れた大阪府の百済タ駅まで運び、大半の荷物を降ろします。

 ここまでが厳密な意味でのブロックトレインですが、これだけではもったいないので、同じ列車を活用。吹田タ駅(大阪府)~神戸タ駅(兵庫県)~姫路貨物駅(同)まで延長輸送(継送)し、定期便として往復するというものです。

 越谷タ~姫路貨物間は約650kmで、今までのダイヤでは、東京タ駅を経由して新たなコンテナや貨車を追加するため、24時間以上かかってしまいます。

 しかし、ブロックトレインの導入で16時間20分台、実に8時間以上の時間短縮を実現しています。

「タイパ」重視で福岡~東京を2時間短縮

 一方「混載」とは、文字どおり不特定多数の荷物を混ぜて、同じ荷台に載せて運ぶことです。「積合わせ貨物」ともいいます。

 これもECの急伸で宅配便需要が拡大し、長距離トラックの混載も増えています。しかし、前述のとおり「ドライバー不足」「2024年問題」のため、これまでのように大型トラックによる長距離輸送が難しくなってきています。

 こうした難問を解決するため、JR貨物は混載需要を意識し、先に述べたブロックトレインも含め、荷主目線に立った「タイパ」(タイムパフォーマンス、時間対効果)重視の列車ダイヤでアピールを図っています。

 例えば、これまで「福岡タ→東京タ」は「22時04分→翌日19時42分」で、21時間以上の所要時間が“常識”でした。

 これを2023年春のダイヤ改正で大幅に改善。出発時刻を2時間以上も遅い0時10分としながら、逆に到着は8分早い19時34分とし、トータルで2時間以上の時間短縮を果たしています。

 一般的に「運輸業界は世間の景気動向から半年遅れでやって来る」といわれるだけに、こうしたJR貨物の努力が数字にはっきりと表れるのは、2024年度の後半辺りではないか、と見られています。

 鉄道貨物については、「天変地異に弱い」「代替輸送が難しい」「柔軟なダイヤが組めない」「そもそも使い方が分からない」との意見が少なくありません。

 それでも、ロジスティクスの分野で「CO2削減」「2024年問題」を解決する牽引役として、“古くて新しい”鉄道貨物の活躍を期待すべきでしょう。

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