「モーターボートでロシア艦艇を撃沈」に衝撃走る! ウクライナの「水上ドローン」部隊とは アメリカも以前から危機感

黒海でロシア海軍の揚陸艦を撃沈したのは、ウクライナの「水上ドローン」部隊でした。大型艦艇なしでロシア艦隊に対抗する水上ドローンは、どういった兵器なのでしょうか。

ロシア艦隊の行動を抑制するほどの効果

 2023年11月11日、ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相兼デジタル改革担当相は、創立から1年を過ぎた水上ドローン部隊について「全世界が私たちのドローン攻撃に注目しています。これは始まりにすぎません、私たちは引き続き技術の開発と改善を続けます」とテレグラムで投稿しました。

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撃沈したとされる「ツェーザリ・クニコフ」と同型のロプーチャ級揚陸艦(画像:ロシア国防省)。

 2024年に入ると、同部隊は本当に世界の注目を集めることとなります。ロシア黒海艦隊所属のタランタルIII型コルベット「イワノヴェツ」を攻撃し、撃沈する様子まで動画に収めたからです。

 フェドロフ副首相がテレグラムにコメントを投稿した時点で、ウクライナの水上ドローン部隊は、哨戒艦「セルゲイ・コトフ」、情報収集艦の「イワン・クルス」など、計7隻のロシア艦艇に損傷を与えたとしていました。しかし、沈む様子まで捉えたのは2024年2月1日に「イワノヴェツ」を撃沈したときが初めてでした。

 さらに 2月14日、黒海のクリミア半島南部のアルプカ沖で、ロシア海軍のロプーチャ級揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」を同様に水上ドローンによる攻撃で撃沈したと発表しています。もちろん、これはウクライナ国防省の主張であり、本当に撃沈されたかどうかは分かりません。過去に攻撃したとされる艦艇も同様です。

 しかしウクライナ海軍は、旗艦であり唯一の大型艦艇であったクリヴァク3型フリゲート「ヘーチマン・サハイダーチヌイ」を、ロシア軍が侵攻を開始した2022年2月24日に鹵獲を恐れて自ら沈めて以降、まともな戦闘艦がない状態です。

 にも関わらず、ウクライナは艦艇同士や航空機での交戦によらず、ロシア艦隊の動きに一定の制限を与える効果を発揮しています。もちろん、ウクライナ軍が西側諸国から供与を受けた対艦ミサイルや巡航ミサイルの影響もありますが、戦闘艦を持たず、これほどの脅威を与えているのは珍しいケースといえます。

「震洋」に似た兵器だが人は乗らない!

 ウクライナ軍が「イワノヴェツ」や「ツェーザリ・クニコフ」を攻撃した水上ドローン「マグラV5」は、見た目は爆発物を搭載したモーターボートのような構造です。

 モーターボートによる艦艇への攻撃としては、旧日本海軍の特攻兵器である「震洋」や、旧陸軍が開発した肉薄攻撃を行うモーターボートである四式肉薄攻撃艇(マルレ艇)などがありますが、これらは人が乗り込み、生存の見込みがないか、ほぼない状況で決死の覚悟を持って戦う兵器でした。

 しかし、水上ドローンの誕生により、人を乗せずに敵艦艇へ肉薄して攻撃することが可能になりました。しかも喫水線が低いため外洋では発見しにくく、接近を許すと機関砲などでの迎撃が困難です。

 そして、マグラV5は最高速度が78km/h、航続距離が800kmを超えると言われています。航行中のロシア艦艇を攻撃できているのは、この航続距離の長さと速度があるからです。

 もちろん、水上ドローンにも問題がないわけではありません。喫水線が低く視界が悪いうえ、高速での操縦で上手くコントロールがとれなかったり、爆発物の積載量が少なく1隻だけで艦艇が沈むほどの損傷が与えられなかったりもします。しかし、人を乗せなくていいこと、そして費用対効果の高さは、欠点を補って余りある利点でしょう。

 当然ですが、水上ドローンは艦艇に比べればかなり安価で製造できます。そのため、何隻やられたとしても、最終的に敵へダメージを与えられ、敵が航行困難な状態に陥れば、大きな戦果となります。水上ドローンは、ある意味では「貧者の兵器」といえますが、クリミア半島周辺やオデーサなど比較的艦艇の動きが限られる海域では、有効な攻撃手段になってくる可能性があります。実際に同じく船の動きが分かりやすい紅海では、イエメンの反政府武装勢力である「フーシ派」により、似たような攻撃が、航行する商船や米英の艦艇相手に行われています。

 なお、アメリカ海軍は以前より、中東などで空や海でドローン攻撃やボートによる攻撃を受けていた経験から、ドローン対策がロシアより進んでいます。ノースロップ・グラマンの開発した対ドローンシステム「DRAKE(ドレイク)」を全水上艦艇に装備していることが、2021年9月に報じられています。

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ウクライナ軍が使用している水上ドローンの一例(画像:ウクライナ国防省)。

 このドレイクは元々、陸軍がIED(即席爆発装置)への信号の送信を阻害し、起爆を防ぐ目的で使用していたものでしたが、艦上ではドローンが使用する周波数での信号の送信を停止する目的で使われています。空を飛ぶドローン対策用だけではなく、水上のドローンへも同様の効果を発揮できるといわれます。前述した紅海では、水上ドローンのみならず、イラン製と思われる水中ドローンでの攻撃も受けていますが、現状ではこれらを全て阻止しています。

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