「秒速3万kmのビーム兵器」をひらりと避ける『ガンダム』世界 そんなこと可能なのか? 現実世界で考えてみた

アニメ『機動戦士ガンダム』には、ビームライフルやメガ粒子砲といった、いわゆる「ビーム兵器」が多数登場します。劇中で主人公が乗る「ガンダム」などは、自分に向けられたビーム砲を回避していますが、そんなこと可能なのでしょうか。

「ビーム」と「レーザー」は似て非なるもの

 人類が生み出した兵器の中で、最大の発明は「弓矢」と言われています。飛び道具である弓矢を作り出したことにより、長い牙や鋭い爪、硬い甲羅などを持たない人類が、大型の獣を相手にしても有利に戦えるようになったからです。

 弓矢は鉄砲へと進化し、現代ではミサイルも飛翔兵器として多用されています。そして、SFの世界では、レーザーを始めとした光線兵器まで実用化されています。アニメ『機動戦士ガンダム』でも、主人公アムロが乗るモビルスーツ(MS)「ガンダム」は、メガ粒子を高速で打ちだす「メガ粒子砲」の一種を装備しています。

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目標にレーザーを照射する「アイアンビーム」。SFの世界ではない(画像:ラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズ)。

 メガ粒子砲がどんな原理なのかは諸説ありますが、原作者の富野由悠季監督は「超高温の重金属粒子を発射する荷電粒子砲」と説明しています。なお、近年では「ミノフスキー粒子を圧縮して、縮退させると、質量の大半が運動エネルギーに変化するメガ粒子に変わる」という性質を利用した「超高温のメガ粒子を亜光速で発射する兵器」という、若干異なる設定もあります。

 この「荷電粒子砲」とは、物体に電気を帯びさせて「荷電」させた粒子を、電圧により亜光速に加速する兵器のことです。光自体を収束する「レーザー砲」とは、原理が異なります。

 ガンの治療では、放射性粒子を亜光速に加速して、病巣を狙い撃ちにする重粒子線治療というものがあります。これは、考え方としては荷電粒子砲と同じといえるでしょう。

 なお、アメリカ軍は2014年に揚陸艦「ポンス」にレーザー兵器システム「XN-1 LaWS」を搭載して試験しています。これは高出力で赤外線レーザーを発射すると、数秒で小型ボートのモーターを使用不能にしたり、ヘリコプターの重要部品を破壊して、墜落に追い込んだりする能力を持っており、将来的にはイージス艦の対艦ミサイル迎撃用とすべく、開発が続けられています。

拳銃弾でも見て避けるのはムリ!

 こうした光線兵器が実用化された『ガンダム』世界では、エースパイロットが搭乗するMSが度々、自機に向けて飛んでくるビームを回避しています。未来予知に近い能力を持つニュータイプであれば、そうしたことも容易なのかもしれませんが、亜光速のビームを避けることなどできるのでしょうか。

 メガ粒子砲の到達速度は「光速並み」「光速の3分の1」「光速の10%」という説がありますが、一番遅い最後の説を採用した場合でも秒速約3万kmという速さです。

 一方、人間の神経伝達速度は秒速120m、音速の3分の1です。秒速3万kmと比べると250分の1という極めて遅いスピードであるため、光が見えた瞬間にビームはすでに命中した後であり、「見てから回避」は不可能でしょう。

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極めて能力の高い人間であれば、剣による斬撃は避けられるかも(イラストレーター:ハムシマ)。

 そもそも、ビーム兵器でなくとも「見てから避ける」のは困難です。拳銃弾でも秒速350m程度で、人間の神経伝達速度の3倍の速さで飛来します。相手の発砲を認識してから、銃弾を避けるために、脳が身体を動かす指令を発して、各部の筋肉が動く前に、相手の照準が逸れてなければ命中してしまいます。

 ちなみに弓道の強弓の矢が秒速55m、アーチェリーで用いるリカーブボウの矢であれば秒速50~70m、コンパウンドボウの矢では秒速80~100mだそうです。この速度なら、発射された瞬間に矢を認識し、脳が体に秒速120mで指示を出せば、わずかに各部の筋肉を動かすことで、場合によっては回避できるかもしれません。

 なお、人間の体が発揮できる最高速度は、ウサイン・ボルトが100mで記録した37.59km/h。これを秒速に直すと10.4mです。この100m走の20分の1の速度でも、1秒で50cm動ける計算になるため、理論上は矢を避けたり、MSの操縦系統を動かしたりできる可能性はゼロではないものの、ほぼ無理でしょう。

ニュータイプは撃たれる前に光跡を読む!?

 ただ、実体弾を用いる機関銃や対戦車ロケットでも「弓矢」よりは速いです。ザクマシンガンの初速は秒速200m(100m説も)という資料もあるほどです。

 これを時速に直すと720km/hになります。銃火器としては極めて遅いですが(たとえば90式戦車の120mm砲は秒速1650m程度)、これは有視界戦闘で至近から発砲することが前提であるうえ、MSの手首で12cm砲の凄まじい反動を吸収しつつ連射できるよう、あえて装薬を減らして反動を軽減しているから、初速も遅いのだとか。実弾兵器は初速を上げにくい問題があるからこそ、MSの武器はビームが大半になったのかもしれません。

 MS用バズーカの初速は不明ですが、陸上自衛隊で最近まで使われていた「89mmロケット発射筒M20改4型」、いわゆる対戦車バズーカでは、初速が秒速98~150mとかなり遅いです。もし、MS用バズーカがこの程度の初速であれば、高速で動き、運動性もいいMS相手だと、よほど正確に未来位置へ向けて撃たないと命中しなさそうです。

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見てから避けるのは赤いエースパイロットでも多分無理(イラストレーター:ハムシマ)。

 このように、現代や未来の兵器は「見て避ける」のは困難なので、ガンダムの世界では「ダミー風船」を射出して、機体本体への命中率を下げたり、盾で重要部への直撃だけでも防いだりという防御が取られているのでしょう。

 なお、一番有効な防御方法は、相手の動きから、照準を予測して、発砲する前に回避行動に入ることでしょう。

 エースパイロットである「ランバ・ラル」は、アムロが操縦する「ガンダム」の射撃を受け「正確な射撃だ。それゆえにコンピューターには予測しやすい」と発言しています。センサー有効範囲内での有視界戦闘であれば、塔乗しているMSの側が、敵MSの動きから、射撃方向を予想して、回避を指示するのでしょう。そしてエースパイロットは、コンピューターが指示する前に回避行動に入るため、ほぼ当たらないのだと考えられます。

 劇中で「エルメス」のビット(自律ドローンのような遠隔操作兵器)や、「ガンダム」のビームライフルが、敵機を次々に撃破する場面が描かれていますが、「ニュータイプ」と呼ばれる超人離れした能力で、敵の動きを把握し、センサー有効範囲外からコンピューターに回避指示を出させずに攻撃したから、一方的な撃墜になっていたのだと筆者(安藤昌季:乗りものライター)は推察します。

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