京葉線「快速廃止問題」で「JRが見落としたもの」とは? 異例の「ダイヤ改正見直し」を生んだ地元事情

京葉線の2024年春のダイヤ改正は、廃止が発表された「朝ラッシュの快速」を、翻して「やはり廃止しません」と発表修正した異例の事態となりました。それでも「通勤快速」の廃止は覆らず、地元は反発したままです。なぜこのような事態が起きたのでしょうか。

異例の「ダイヤ改正の内容修正」

 異例の事態です。2024年春のダイヤ改正で京葉線は「朝ラッシュの快速・通勤快速が廃止」となる予定でした。しかし千葉県と市原、袖ケ浦、木更津、君津、富津など沿線各市から激しい反発の声が上がったことを受け、JR東日本は改正内容を修正し、早朝時間帯の快速2本を「復活」させると表明したのです。

 発表済みのダイヤ改正を実施前に修正するのは極めて異例です。鉄道営業収入のみならず保有資産や人員のやりくりに直結する「ダイヤ改正」は極めて経営的な決定であり、外部の介入は本来であれば認められないことだからです。ではなぜこの原則が覆ったのでしょうか。

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京葉線の電車(画像:写真AC)。

 京葉線は現在、蘇我駅6時00分~9時00分まで特急5本、快速3本、通勤快速2本、各駅停車24本の計34本の上り(東京行き)列車が設定されています。運賃だけで乗れる普通列車29本のうち、快速2本、通勤快速2本、各駅停車3本が外房線・内房線・東金線からの直通列車で、快速・通勤快速は蘇我以遠から、各駅停車のほとんどが蘇我駅始発となる「遠近分離」ダイヤです。

 その中でも特筆すべきは「蘇我~新木場間無停車」という俊足っぷりの通勤快速です。東京駅に8時30分前後に到着する蘇我駅7時44分発、7時56分発の通勤快速は房総半島からの遠距離通勤者御用達の列車でした。沿線自治体は「快速・通勤快速の廃止は、遠距離通勤者の日常生活に大きな影響を及ぼす」として怒りと戸惑いの声を挙げたのです。

 ではJR東日本の「言い分」はどのようなものだったのかというと、同社は京葉線について「1.快速通過駅の乗降客数増加」「2.快速列車への利用集中」「3.通勤快速の利用者減少」という3つの課題があると考えていました。

 前述のように元々、京葉線を走る列車の多くが各駅停車であり、わずかな快速を各駅停車化することで乗車率と乗車機会は均等化され、1と2の問題は同時に解決できます。京葉線内に限ればダイヤ改正の意図と効果は明確だったと言えるでしょう。

朝の「東京方面の京葉線快速」の重要性 見誤ったJR

 いっぽうで「3.通勤快速の利用者減少」という問題は、「京葉線の外」つまり郊外の直通路線にありました。例えば内房線木更津駅で見ると、改正前の7時台は「特急2本、総武快速線3本、千葉行き普通列車3本、京葉線通勤快速1本」の計9本ですから、京葉線を利用して新木場や八丁堀で乗り換える人にとっては「唯一の選択肢」とも言える状況なのです。

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内房線・木更津駅の平日朝の東京方面行き時刻表(編集部作成)。

 通勤快速の利用者が減少したことで遠近分離の必要性が薄れたというのは確かでしょう。しかし遠近分離には、遠距離列車の速達性を確保して「郊外の駅からも近郊の駅からも所要時間があまり変わらない」ようにするという均等化の効果もあるのです。

 上り通勤快速は2022年3月のダイヤ改正ですでに「4本→2本」に削減されており、それからわずか2年で全廃に踏み切った形ですが、29本中2本というわずかな本数、しかも明確な役割を持った列車を廃止しなければならなかったのでしょうか。加えて東京駅8時26分着の通勤快速を置き換える形で8時25分着の特急「わかしお4号」を設定したことも、「露骨な特急誘導」との反発を招いた要因のひとつでしょう。

 沿線自治体の反応が予想外だったのか、JR東日本は2023年12月の発表後、年明け1月16日になって「弊社としても影響に思いが至らぬ点があった」ことを認め、「限られた時間の中で何か工夫をできないか検討」した結果として、異例のダイヤ改正見直しに踏み切りました。しかし、復活は「朝の快速2本」にとどまり、千葉県の熊谷俊人知事が「本質的な解決には至っていない」と述べるように、両者の溝は埋まっていません。

 同社は、朝ラッシュピーク時間帯は影響が大きく、限られた時間での対応は困難だったが早朝時間帯であれば調整が可能だったと説明。今後は「ご利用状況などを踏まえたうえで、様々な観点から、京葉線の魅力・利便性向上に向け、柔軟に検討」したいとして、さらなる歩み寄りの余地があるとの姿勢を示しています。

ダイヤ改正に「地域の意見を反映する仕組み」は現実的か?

「事前の調整」で対立を防ぐことはできなかったのでしょうか。実際、沿線自治体は「ダイヤ改正をする際は事前に地域の意見を反映する仕組みを創設」(1月10日付千葉日報)することを求めています。

 とはいえ鉄道事業者は既に、地域から寄せられる様々な要望を勘案し、総合的に判断してダイヤ改正を行っています。これが「聞く」だけでなく「反映しなければならない」となれば、実質的に沿線自治体の同意がなければダイヤ改正できなくなり、現実的ではありません。問題はJR東日本自身が「考えが至らなかった」と述べているように、聞く力が十分だったかという点にあったのではないでしょうか。

 今後、首都圏でも本格的な人口減少社会に突入し、どの路線も利用者数は減少していきます。その時、数字だけを見て減便、種別変更を進めてしまうと、地域の衰退、利用者の減少が加速しかねません。それは事業者にとっても望ましい結果ではないはずです。

 今回、JR東日本が異例の見直しに踏み切ったことで、地域との信頼関係はギリギリ保たれることになりました。房総半島は首都圏でも利用者の落ち込みが顕著なエリアですが、今後は事業者と地域が人と知恵と資金を出し合って、地域と鉄道の再生に取り組んでいくことを期待します。

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