「調達価格20億円が一瞬で…!」陸自期待の最新自走砲に起きた20年前の悲劇とは?

自衛隊の装備品は、世代交代するごとに高性能化しているため、すでに自走砲などは最長射程での射撃を国内で行えなくなっています。そこで使われるのが、アメリカの演習場ですが、海路運ぶため、過去には信じられない悲劇に見舞われたこともあります。

国内じゃ試験ムリ、なら米国でやろう!

 陸上自衛隊の国産装備のなかには、高性能すぎて、日本国内のみで試験や訓練を完結させられないものも存在します。そのような装備のひとつに「99式自走155mmりゅう弾砲」がありますが、それゆえに被った悲劇もありました。

 99式自走155mmりゅう弾砲は2023年現在、約140両が運用されている陸上自衛隊の主力自走砲です。全周旋回が可能な密閉式の大型砲塔に長砲身の155mm榴弾砲を搭載し、長射程弾を使用すれば最大射程は約40kmまで延びます。

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陸上自衛隊の99式自走155mmりゅう弾砲(画像:陸上自衛隊)。

 射程が長ければ、遠くの敵にもダメージを与えることができるのはもちろん、撃ち合いの際も敵自走砲の弾が届かない場所から砲撃することが可能になります。加えて、同時に開発された専用の支援車両、99式弾薬給弾車を連結すれば高速かつ自動で砲弾と装薬を供給し続けられるため、発射速度を上げることができ、より一層効果的な砲撃を敵に対して行い続けることが可能になります。

 20世紀に誕生した自走砲としては世界的に見ても高性能でしたが、ゆえに困ったことが起こりました。射程が長すぎて、日本国内では実弾の長距離射撃試験や訓練を行うことができません。そこで、防衛省/陸上自衛隊は、同盟国であるアメリカの広い射場を借りて、射撃の最終試験を行うことにしたのです。

 2001(平成13)年、4月21日、99式自走155mmりゅう弾砲の試作3号車と試作4号車は、その他いくつかの装備品とともに、静岡県清水港から貨物船に乗せられてアメリカのロサンゼルスへ向けて出発します。試験予定地は、アリゾナ州ユマにある試験場で、ロサンゼルスからは約4時間、陸路で運ばれる予定でした。

米国で試験することなく海の藻屑に……

 ところが出港から2日目、宮城県沖約1000kmのところで、貨物船は思いもよらない嵐に遭遇します。貨物船は大波に洗われ、固定していた積荷も大暴れの状態になりました。

 そして、とうとう一緒に積まれていた民間の重機があらぬ方向へと動き、船体は大きくバランスを崩してしまいます。一旦バランスを崩してしまった船が、嵐の中で安定性を取り戻すことは非常に難しく、最終的に船は沈没してしまいました。

 貨物船の乗組員や自衛官たちは救難艇で脱出して、人的被害が出ることはありませんでしたが、次世代装備として関係者が期待していた99式自走155mmりゅう弾砲の試作車は2両とも海の藻屑となってしまいました。

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陸上自衛隊の155mmりゅう弾砲FH70(凪破真名撮影)。

 その損害額は、99式自走155mmりゅう弾砲1両の調達価格が約9億6000万円なので、2両で19億2000万円。さらに一緒に運ばれていた155mmりゅう弾砲FH70や99式弾薬給弾車の試作車なども、ともに海に沈んでしまったため、その総額は30億円近くにもなったとか。しかも、船が沈んだ海域は、水深が4000m以上もあり、引き上げは不可能でした。

 これに関係者たちはガックリと気を落としたそうですが、損害に関しては後日、保険で賄われたといわれています。

 ちなみに、海没してしまった試作車ですが、試験が終了した暁には、朝霞駐屯地の一角にある陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」で展示が予定されていたとか。残念ながら、それは叶わず、同地には99式自走155mmりゅう弾砲は収容されることなく終わっています。

 4両しか造られなかった99式自走155mmりゅう弾砲の試作車。うち半分が海没で失われましたが、希少な1両が、茨城県にある陸上自衛隊土浦駐屯地で屋外展示されています。

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