カタチ全く国産と違う! 日本最長の路面電車の秘蔵「外国電車」たちを実見 どうやって維持してる?

路面電車で日本一長い路線網を持つとさでん交通。同社では3か国から導入された外国の電車が運行されています。見た目だけでなく車内も異国情緒あふれる車両たちを紹介します。

国産電車も新旧さまざま 路面電車王国の「とさでん」

 日本一長い路線網を持つ路面電車といえば、高知市や南国市などに25.3kmの路線網が広がる「とさでん交通」です。

 路線は、桟橋線(高知駅前~桟橋通五丁目/3.2km)、後免線(後免町~はりまや橋/10.9km)、伊野線(はりまや橋~伊野/11.2km)で、相互乗り入れをしています。特に後免線の後免町停留所から伊野線の伊野停留所までを通し運行する列車は22.1km。1時間半も走り、日本最長です。なお宇都宮ライトレールができるまでは、日本で唯一郡部(吾川郡)へ乗り入れる路面電車でもありました。

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198形。もともとはノルウェーのオスロ市電で使われた(2023年12月、安藤昌季撮影)。

 とさでん交通は高知県内で唯一電化されており、地元の人たちはJR四国や土佐くろしお鉄道を「汽車」、とさでん交通を「電車」と認識しているようです。距離が長いこともあり、14形式73両もの多種多様な車両が運行されています。

 このほか特筆すべきは、3か国からやってきた「外国電車」や、1905(明治38)年製の7形を細部まで再現した「維新号」といったイベント用電車があることです。では外国の電車はそれぞれ、どこからやって来たものでしょうか。

塗装は母国の時のまま

 裾がイルカの口のように見える車両は198形です。1939(昭和14)年製で、ノルウェーのオスロ市電B形電車として走っていました。流線型の車体形状をしており、現地では「金魚電車(ゴールドフィッシュ)」という愛称で親しまれていました。1985(昭和60)年まで現役で、引退後に土佐電気鉄道(現・とさでん交通)の開業85周年記念事業として譲渡されたのです。

 原型ではループ路線用だったので、運転台は片側のみでしたが、とさでん交通へ来るにあたり両運転台とし、車体幅も20cm狭くするなど改造が加えられました。ただし塗装はオスロ市電時代のものです。

 ノルウェーを感じさせる部分は、デッキが付いていることや、側窓に横引きカーテンがあること。1+2列の集団離反式クロスシートですが、着座感はゆったりで、路面電車の座席とは思えません。天井にはノルウェーの地図や、ノルウェー語の詩も描かれています。

 下半分が深緑色の車両は、オーストリアのグラーツ市電で走っていた320形です。1949(昭和24)年製で50両が製造され、1989(平成元)年まで活躍しました。レールブレーキの採用などで、それまでの車両と比較して安全性が高まっています。

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320形。もともとはオーストリアのグラーツ市電で使われた。側窓はハンドルを回して開閉する(2023年12月、安藤昌季撮影)。

 原型では1+1列のクロスシート車ですが、1992(平成3)年のとさでん交通導入時にロングシート化されています。また、もともとは「204号」でしたが、3月20日に当時の土佐電気鉄道とグラーツ市電が兄弟会社になったことを記念して「320形」となっています。

 内装の特徴は、非常に大きな側窓と、豪華な横引きカーテンです。窓は豪華列車「オリエント急行」のように、ハンドルを回して開閉します。天井にはオーストリアの地図も描かれています。

トロリーポールあるけど?

「凸」の見た目はポルトガルのリスボン市電から導入された910形です。製造元はイギリスで、1947(昭和22)年製。ポルトガルでは900形として活躍し、とさでん交通へやって来たのは1990(平成2)年のことでした。仕様変更のため、大規模な改造が行われています。

 まず台車を換装し、1067mmゲージ化しました。さらに集電装置をトロリーポールからパンタグラフへ変更し、アルミとグラスファイバーの屋根を鋼製化。ちなみに現存するポールはダミーです。前面形状のほか、乗降扉も2枚折り戸に変更しています。

 座席配置は1+1、1+2列の転換式クロスシートで、横引きカーテンが備わります。デッキがあり、立派な木製の扉も設置。全国の数ある現役路面電車の中で、おそらく最も豪華な内装といえるでしょう。

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910形。もともとはポルトガルのリスボン市電で使われた(2023年12月、安藤昌季撮影)。

 では、これら外国電車の維持はどうしているのでしょうか。とさでん交通の電車事業部電車技術課車両工場長の田村里志氏にお話を伺いました。

――そもそもなぜ、外国電車を導入されたのですか?

 モータリゼーションの影響による乗客減少に歯止めを掛けるべく、路面電車先進国であるヨーロッパの電車を高知で走らせたら観光客が増え、増収につながるのではないかと考えたのです。

――外国の電車を運行するうえで、希少な部品が必要とされるように思いますが、どのように調達・維持をされているのでしょうか?

 電車を購入した際、ある程度の部品も一緒に購入しました。また部品については、メンテナンスを行えば繰り返し使用できるものがたくさんあり、交換はそれほど行いません。

運転時、日本製と外国製とで明確な違いとは

――破損したり、機器類の部品がなかったりする場合は、国産のもので置き換えられているのですか?

 スイッチ類に関しては、国産のものを多数使用しています。基本、破損すれば修理を行い使用しますが、修理不能となれば国産のものに置き換えます。

――国産の車両と比較して、鉄道会社として「外国製は違う」と感じる部分はありますか?

 ブレーキに関する操作が異なります。ブレーキを掛ける時、日本の電車はブレーキハンドルを前方に押しますが、外国の電車はブレーキハンドルを手前に引きます。力行(編注:加速)についても同じハンドルで操作するため、日本の操作とは逆になります。感覚の違いが電車の運転操作に現れています。

――日本製の電車も、かなりレトロな車両を運行されていますが、観光資源として活用されるお考えはありますか?

 製造時や、旧所属会社の塗装に戻しての撮影会などは、地元愛好会のご協力を得て開催した実績があります。また、クルーズ船が寄港した際などに当電車をご利用いただいております。

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とさでん交通の電車事業部電車技術課車両工場長の田村里志氏。198形の前で(2023年12月、安藤昌季撮影)。

――全国でも珍しい外国電車ですが、お客様の反応はどうでしょうか?

 外国電車は通常、営業電車での運行をしておりませんので、毎年5月の「電車の日」イベントで披露します。車庫見学などで多くの子供たちをはじめ、県内外のお客さまに喜んでいただいています。また、全国から多くの鉄道ファンの方に貸切電車のご要望をいただいています。

 ※ ※ ※

 ちなみに主な国産電車は次の通りです。

・200形(都電6000形を原型とした車両):1950(昭和25)年製造
・590形(元・名古屋鉄道美濃町線):1957(昭和32)年製
・600形(都電7000形を原型とした車両):1957(昭和32)年製
・700形(元・山陽電気軌道):1958(昭和33)年製
・800形(元・山陽電気軌道):1971(昭和46)年製
・1000形:1981(昭和56)年製
・2000形:2000(平成12)年製
・100形(超低床電車):2002(平成14)年製
・3000形(超低床電車):2018年製

 新旧入り交じり、見る人を飽きさせません。

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