「航空機の衝突」は長年“最も怖いミスだった? ”羽田事故で想起「世界最大の航空事故」、国内でも「あわや」アリ

羽田空港で発生したJAL機・海保機の衝突事故、そして「世界最悪の航空事故」といわれる航空機同士の衝突事故。これは業界にとって、長年“悩みのタネ”のひとつでもありました。

1970年代には「ジャンボ機」2機が衝突

 2024年に入ったばかりの1月2日、東京・羽田空港で着陸したJAL(日本航空)のエアバスA350-900(JL516便)と海上保安庁のボンバルディアDHC-8-300(JA722A)がC滑走路上で衝突、炎上しました。

 一連の報道で、一部の識者などが類似例として挙げたのが、「世界最大の航空事故」として知られる、1977年3月に発生したスペイン領テネリフェ島でのジャンボ・ジェット旅客機2機による衝突事故です。

 この事故は一時的に旅客機が代替着陸で混雑したテネリフェ空港で、離陸滑走を始めたKLM(オランダ)のジャンボ機が、濃霧の中、誘導路代わりに滑走路を進んでいた当時あった米パンナム(パンアメリカン航空)のジャンボ機に衝突し、今もなお航空機事故の中で世界最大として残る死者を出しています。

 通常は安全のため、離着陸どちらのケースでも、テネリフェ空港での事故のように滑走路に複数の航空機を入れたり接近させたりすることはありません。しかし、意図せずに滑走路へ入ってしまう誤進入(runway incursion)とそれに伴う事故は、世界の航空界で古くから問題視され続けています。テネリフェ空港のような事故になれば、一気に複数機による航空機事故になるためです。

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上がJALのA350-900、下が海上保安庁のDHC-8-300(画像:乗りものニュース編集部/海上保安庁)。

 今回のJAL機と海保機との衝突事故では、 JL516便の乗客は全員無事でしたが、海保機JA722Aは乗員5人が亡くなりました。事故の要因は調査が進められている最中ではあるものの、報道では、海保機JA722Aへ滑走路への進入を許可した記録はなかったということです。

 一方、テネリフェ島のケースでは、パンナムとKLMのジャンボ・ジェットどうしの衝突により、航空機事故で最も多い583人が亡くなっています。

 このため、滑走路上での衝突ではテネリフェ島の事故が思い出されてしまいますが、管制の許可がない滑走路誤進入は世界中で発生し、そのなかには、実際に事故につながった場合もあるため、長年航空界の“悩みのタネ”のひとつです。

 誤進入はなぜ起きるのでしょうか。霧などで視界の悪い時や、誘導路の配置などが錯覚を招きやすいケース、時間的な余裕のなさから心理的圧迫を受け判断力低下につながる「ハリーアップ症候群」、無線交信の聞き違いや言い間違いなどが要因として知られています。

「航空機衝突未遂」は国内にも 対策は?

 無線交信に起因するものでは、2017年に那覇空港で輸送ヘリのパイロットが聞き間違いをして離陸、本来の許可を受けた旅客機が途中で離陸を中止したものの、誘導路へ出ないうちに別の旅客機が着陸した事件があります。「一つの滑走路に1機」の大原則があるところ、このときは600mほど離れて2機が滑走路にいる状態となったことから、国は「重大インシデント」として対応しました。

滑走路への誤進入となるケースは意外と多く、30年前の米連邦航空局(FAA)の報告では、7年間で滑走路への誤進入が2.3倍増えたというデータもありました。この分析結果では、無線交信での言い間違いや聞き間違い、思い込みが大多数とされています。

 このため、多くの航空会社や公官庁は、定期的に世界各国の航空機事故や重大インシデントの報告書を翻訳して乗員に配布し、防止を図っています。

 さて、JAL機と海保機の件に話を戻すと、海保機は能登半島地震の支援物資を運ぶため出発するところだったことが明らかになっています。交信記録に管制から海保機への滑走路進入を許可する記録はなかったという発表に対し、出発しようとしていた海保機の機長の報告は食い違っているようです。

 航空機は操縦や航法システムをコンピューター化して安全性を向上させ、乗員や管制官の訓練も、ヒューマンファクターの研究で年を追うごとに進化しています。前述の「ハリーアップ症候群」もこうした研究から問題視されるようになりました。

しかしその一方で、パイロットと管制官のコミュニケーションにおいては、無線交信に代わるシステムは今も導入されておらず、滑走路への誤進入を誘発する原因の多くは現在も払しょくされていません。

 滑走路上での衝突は、高速で航空機どうしがぶつかるため、大事故になる確率が高いです。今回の事故では交信記録の分析が急がれているとは思いますが、正式な調査報告書の公表前でも、安全運航を阻む課題が見つかれば素早い対応が必要だろうと筆者は考えています。

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