「PAC-3をアメリカへ輸出」=安保政策の大転換! 輸出強化が“日本の抑止力”につながる? 何がどう変わるのか

2023年12月、日本政府が防衛装備移転三原則を改正するとともに、アメリカに対して地対空ミサイル「PAC-3」を輸出すると発表しました。これは単なる自衛隊装備の輸出ではなく、日本政府の安全保障政策が大きく変わった瞬間でもあります。

アメリカにPAC-3の実弾を輸出

 2023年12月22日、日本政府がアメリカに対し、地対空ミサイルシステム「PAC-3」の弾薬(ミサイル)を、輸出することを明らかにしました。日本は、これまでライセンス生産(製造元国からの許可と技術供与を受けて国内生産する方式)されている品といえども、ミサイルそのものの輸出を行ってこなかったため、大きな政策転換と言えるでしょう。

 これを可能にしたのが、同日付で日本政府が発表した「防衛装備移転三原則」および、その運用指針の改正です。これは、日本から外国へと防衛装備品を移転する際のいわばガイドラインで、これまで、運用指針に関しては幾度か改正が行われてきましたが、防衛装備移転三原則そのものに関しては、2014年(平成26年)4月1日の制定以来、はじめての改正となります。

 それでは、今回の改正では、どのような規定が変更され、それにより日本の安全保障政策がどのように変化することになるのでしょうか。

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航空自衛隊の地対空ミサイルシステム「ペトリオット」(画像:航空自衛隊)。

 まずは、日本の防衛装備移転に関する仕組みについて整理しましょう。日本は、武器およびそれに用いられる技術を指す防衛装備品を、何の規制もなく海外に移転できるわけではありません。まず、通常兵器や大量破壊兵器などに関する国際的な輸出管理体制に加わっています。

 具体的には、通常兵器およびその技術などに関する「ワッセナーアレンジメント」、大量破壊兵器の運搬手段であるミサイルおよびその技術などに関する「ミサイル技術管理レジーム」、生物・化学兵器の製造などに関する技術を規制する「オーストラリアグループ」、原子力関連の資機材などに関する規制である「原子力供給国グループ」などです。そして、これらの規制を担保する国内法として「外国為替及び外国貿易法」、いわゆる「外為法」の関連規定が用意されています。

 外為法および関連する政令に基づき、武器およびそれに用いられる技術などを海外に移転する場合には、あらかじめ経済産業大臣の許可を得なければなりません。このような形で、日本では防衛装備や技術の海外移転を管理しているわけです。

「防衛装備移転三原則」って中身どんなの?

 2014年(平成26年)に、こうした防衛装備移転に関する外為法の運用指針という位置づけで、それまでの「武器輸出三原則」に代わって新たに策定されたのが、防衛装備移転三原則です。

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航空自衛隊の地対空ミサイルシステム「ペトリオット」実射の様子(画像:航空自衛隊)。

 そこでは、まず移転を禁止する場合について、次のように明確化しています(第一原則)。

1、当該移転が日本の締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合
2、当該移転が国際連合安全保障理事会の決議に基づく義務に違反する場合
3、紛争当事国(武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国際連合安全保障理事会がとっている措置の対象国)への移転となる場合

 次に、移転を認め得る場合が限定され、厳格審査および情報公開が行われます(第二原則)。移転が認められる場合については、この三原則に関する運用指針に細かく定められていますが、おおまかには「平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合」と、「日本の安全保障に資する場合」です。

 最後に、目的外使用および第三国移転に関する適正管理の確保です(第三原則)。これは、日本からある国へと輸出された装備品が、当初の目的とは異なる用途に使用されたり、あるいはさらに別の国(第三国)へと無断で輸出されたりすることを防ごうというものです。具体的には、目的外使用や第三国への移転に際しては、日本政府の事前同意を相手国政府に義務付けます。

三原則と運用指針の改正で何が変わった?

 それでは、今回の改正により、防衛装備移転三原則とその運用指針は、どのように変更されたのでしょうか。

 まず、防衛装備の移転に関する幅が広がりました。たとえば、これまでは日本が外国からのライセンス(許諾)を得て製造している装備、いわゆる「ライセンス生産品」について、基本的にアメリカからのライセンスを得た装備の部品のみを、アメリカの輸出管理制度に基づく許可を得た国に対して移転することが許されてきました。

 しかし、今後はアメリカ以外の国からライセンスを得たものであっても移転することが可能となり、さらに部品のみならず完成品そのものも対象になりました。これについては、冒頭に記したアメリカへの地対空ミサイルシステム「PAC-3」の弾薬提供という形で、すでに具体化しています。

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海上自衛隊の掃海艇「えのしま」(画像:海上自衛隊)。

 また、日本の安全保障に資するもので、かつアメリカ以外の国に対する防衛装備の移転には、「救難、輸送、警戒、監視及び掃海」のいずれかに該当する装備のみが許される、という限定(5類型)が付されています。

 変更後もこれはそのままです。ただし、この5類型に該当する任務を行ううえで必要な武器、さらに自己防護用の武器については、あわせて移転してもよいようになりました。たとえば、掃海艇に搭載されている機雷処分用の機関砲や自走式機雷処分用弾薬、さらに接近する敵のミサイルを迎撃するための「近接防御火器システム(CIWS)」などです。

ウクライナ、アメリカの次はどこだ?

 加えて、現在ロシアによる侵攻を受けているウクライナのように、国際法に違反する侵略や武力行使、またはその威嚇を受けている国に対して、武器以外の装備品を提供することができるようになりました。たとえば、トラックや高機動車などの車両や、ガスマスク、防弾チョッキ、ヘルメットといった個人装備などがこれにあたります。

 さらに、これまで日本国内の民間企業が装備品の修理などを行えるのはアメリカ軍に限定されていましたが、近年イギリスやオーストラリアといった国々との協力関係が深化していることを背景に、今後はアメリカ以外の国の軍隊に関しても、装備(兵器)の修理や整備が可能となります。

 これにより、極東地域に展開する各国軍の整備を日本国内で実施することが可能となったことから、こうした国々の艦艇や航空機の活動に関する柔軟性の向上が見込まれます。

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2023年5月25日に防衛省で行われた、ウクライナへの自衛隊車両の引き渡し式の様子(画像:防衛省)。

 このように、海外への防衛装備品移転や、来日する外国軍の装備品整備に関する幅が広がることで、日本はより積極的に国際社会の安定に寄与できるようになると、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。

 力による一方的な現状変更を許さないため、すでにその被害を受けている国には直接的、間接的な支援が、またそれをたくらむ国に対しては、同志国と連携してそれを思いとどまらせる抑止が、それぞれ重要となります。防衛装備品の移転は、そのための重要な手段になるといえるでしょう。

 今後、日本の装備品が国際社会においてどのように役立っていくのか、ウクライナやアメリカ以外にも提供国は広がるのか、引き続き注視していきたいと筆者は考えます。

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