戦闘機× 潜水艦× 防衛装備“ないない尽くし”の国、政権交代でどうなる? 未払いで納入遅延の哨戒機は

注文していた防衛装備品がお金の未払いにより納入遅滞となるなどしているアルゼンチン。2023年11月に政権交代が起きましたが、危機的な状況にある軍の装備品はどうなるのでしょうか。

装備と資金の不足がかなり深刻

 深刻な経済危機が続くアルゼンチンで2023年11月19日、ハビエル・ミレイ氏が大統領に選出され政権交代が起きました。同国は陸海空軍の装備に関しても様々な課題と問題を抱えていますが、これらは今後どうなるのでしょうか。

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かつてアルゼンチン空軍が使用していた超音速ジェット戦闘機であるミラージュIII(画像:パブリックドメイン)。

超音速機ゼロの空軍! F-16は納入できるのか?

 アルゼンチン空軍は、2015年にミラージュIIIが退役して以降、超音速の航空機がゼロとなっています。次期超音速機に関しては、ミラージュIIIの退役直前から盛んに論議されていたものの、アルゼンチンは1982年にイギリスと戦ったフォークランド紛争(マルビナス戦争)の関係で、同国から制裁を受けているため、同国由来の技術が使われている軍用機の購入に制約がかかっています。

 そのため一時はスウェーデン製のサーブ39「グリペン」をブラジル経由で購入することを検討しましたが、やはりイギリス製の部品が使用されているため、イギリスが拒否しました。結局アメリカ製のF-16、中国とパキスタンが共同開発したJF-17、インドの「テジャス」が候補に残っているものの、JF-17と「テジャス」に関しては射出座席がイギリス製のため、改造が必要になります。

 そのため、イギリス製の部品が使われていない、デンマーク空軍の中古F-16が最有力とされています。本格的な交渉に入る前に大統領選を迎え、棚上げとなっていましたが、新たに就任したミレイ大統領は親米路線でもあり、既に購入交渉を再開したという現地報道もあります。ただ、資金調達にはかなりの時間がかかることは予想されているようです。

稼働している潜水艦がゼロ! 哨戒機もヤバい海軍

 一番深刻な可能性があるのが海軍です。同軍はサンタクルス級「サンフアン」が2017年に事故で沈没して以降、稼働中の潜水艦がゼロになっています。同型艦「サンタクルス」は艦籍としては退役になっていませんが、修理途中で、保管されている状態です。そのため、海軍の潜水艦部隊はペルー海軍で艦を借りて訓練を行うなどしています。

 新造の潜水艦を他国から購入するのは、アルゼンチンにとっては投資規模が大きすぎることから不可能で、他国の退役する潜水艦を購入するという選択肢が有力視されている模様です。具体的にはブラジル海軍で旧式化しているドイツ製の209型潜水艦(トゥピ級)が挙がっているものの、一時交渉が中断して以降、再開はしていません。

 さらに哨戒機のP-3Bも老朽化しています。代替として、ノルウェーで退役したP-3「オライオン」の購入を決め、これも2023年中に受け取る予定だったところ、初回支払金の未払いによって納入が延期。12月21日にようやく支払ったとの報道があったため、今後納入されるとみられていますが、移送日などの詳細は明らかにされていません。

一番安定している陸軍も装輪装甲車の問題が…

 陸軍はどうでしょうか。戦車については、現在保有しているアルゼンチン中戦車(TAM)のアップデート型であるTAM 2CA2に近代化改修して配備する方針を2023年7月12日に発表済です。全天候射撃システムの搭載や、高度なデジタル火器管制システムの導入、砲塔の動力システムを油圧式から電子式に変更するなどの近代化を実施します。これはメンテナンス用のコンポーネントやスペアパーツ、消耗品の約70%が国産であるということで、海外部品が多い車両よりも安定した稼働率が期待されています。

 一方、装輪装甲車に関してはブラジルのグアラニ装甲車を161台購入するはずだったものの、ブラジルの銀行などとの融資・保証交渉が難航し、2023年7月21日以降、棚上げ状態になっています。

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陸軍の次期戦車としてアップデートされたアルゼンチン中戦車(TAM)2CA2(画像:アルゼンチン国防省)。

 なお現地報道によると、政権交代により国防予算が急に増額される可能性は低いとされています。現在の予算では、将兵の給与や既存兵器を維持する経費などで手一杯という状態。陸海空軍の新たな装備の確保にも、まだまだ困難が待ち受けているようです。

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